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幼な妻は泣くことを止めました〜いばらの館には夢見たものは何もなかった〜  作者: 帆々


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外から吹く風 4

 

 レイナからの手紙に続き、ドリトルン家には正式に小姓見習いの許可状が王宮から届けらている。感激した舅はそれを額に入れ、客の目につき易い玄関ホールに飾った。


 ミントはそれを軽蔑した様子で伝える。確かに、玄関に飾るのはやり過ぎだとアリスも思うが。舅の上昇志向にとても適った快挙には違いない。


「大旦那様ったら、お客が来るたびにいちいち自慢なさるそうです。聞いて恥ずかしくなりますわね」


「お嬉しいのよ。選ばれるのは難しいらしいから」


「そうらしゅうございますね。フーもわたしに探りを入れてきますの。こう答えてやりましたわ。「レイナ様は姫様のお為に小姓見習いくらい、訳なく斡旋なされるのよ」って」


「たまたま……空きがあったみたい。それで知り合いに頼んでくれたの」


「さすがレイナ様。母屋では今回のことで、使用人らもそんなご縁のある立派な若奥方様だと評判なのですわ。それをまた小リスが面白くないらしくて、大癇癪を起こして……」


 ミントは思い出し笑いに唇を歪ませた。


 アリスは返事に困り首を振った。小リスことブルーベルに同情はしないが、ミントと笑い合う気にはなれない。


 そんなことがあった数日後、彼女は招待もありレイナの邸に訪れた。


 小姓見習いの準備には手紙のやり取りではもどかしく、直接疑問をぶつけられるのがありがたかった。


「知り合いの息子さんがちょうどなさっているの。決まった衣装があるらしくて、それを仕立てる店も聞いてあるわ。どこでもいい訳ではないようよ。名刺もいただいてあるわ。紹介者があるのとないのとでは店の対応が違うというのよ」


 教わった店の名前を紙に控えた。急いであつらえないといけない。ありがたく名刺を受け取った。後回しにされれば、三月後の伺候に間に合わないことだって十分ある。


「あとね、女官の方々にもお世話になるらしいから、ご挨拶のお菓子の用意も忘れずにね。舌の肥えた方ばかりだから、美味しいものをねって。季節のものが喜ばれるらしいわ」


「まあ、そうなの」


 これは思いつきもしなかった。教わったことを丁寧に箇条書きにした。その準備リストを眺めていると、メイドがレイナを呼んだ。


「ちょっと失礼するわね」


「ええ」


 アリスは一人で準備を反芻している。これら物品はフーを通じて用意してもらえばいい。しかし、ロフィ自身の心構えや振る舞いなども重要なはず。内面の準備も必要だ。


(何を言ってあげればいいのか……)


 そもそも言葉で伝わるのか。それが自分にできるのか。


 アリスが吐息した時、ふわっと軽く風が起きた。庭に面したテラスだ。心地いい風が開け放たれた窓から入ってくる。


「何を考え込んでらっしゃるのです?」


 声に驚いて彼女は顔を上げた。すぐ側にロエルの姿があった。レイナ夫妻と親しい彼がこの邸を訪れることは珍しくない。自然なことだ。しかし、彼女には不意の再会だった。挨拶がぎごちなくなる。


(お礼も言わないと)


 ロフィの小姓見習いが実現したのは、発案したこの彼のおかげだった。


「小姓見習いの許可状が届きました。ありがとうございます」


「いえ、僕は何も」


 アリスの礼を短く受け、彼女の斜め前の椅子を手で示した。


「掛けていいですか? もしお邪魔でなければ…」


 この場を去らない彼の意図にアリスは緊張した。しかし、じきレイナも戻って来る。二人でいるのはほんのわずかなはず。彼女はどうぞ、と彼を促した。


 彼を前にすると嫌でも受け取った手紙のことを思い出した。二度も目を通し、文章のほとんどを覚えてしまっている。


 彼には他愛のない筆の滑りだろうが、あの幾つもの語りかけにアリスには今も頬に熱が上りそうだった。だから、とても彼の顔をまともに見られないでいる。


「随分、真剣そうなご様子でしたね。それは?」


「…小姓見習いの準備の覚え書きです。レイナが知り合いの方に聞いてくれたので…」


「見ても?」


 隠すものでもない。彼女は紙を彼へ差し出した。そうしながら、レイナがまだ戻らないかひっそり扉へ視線をやった。


「ああ、これは大事ですね」


 ロエルがメモの一点を指し示している。少しだけ身を乗り出し紙をのぞく。長い指の先は女官への付け届けの菓子の箇所を指していた。


「意地の悪い者も中にはいて、用意を忘れた家の子供をいびるのです」


「まあ。そんなことが」


「たくさん用意しておくに越したことはありませんよ。伺候の前日に届けさせるといいです。親の名前と連名で。花など添えるとより覚えがめでたいですね」


「よくご存知ですのね」


「僕も子供の頃にやらされましたから」


 リストに落ちていた目が彼へ戻る。目が合いしばらく見つめ合った。気まずさに二人の視線が逸れたのはその後のことだ。


「父の話では今も僕の頃の女官が何人も健在だそうですよ。昔とは勝手が違うかもしれませんが、多少は役に立つかと」


 権門貴族の子弟の彼が小姓見習いを経験していたって不思議ではない。それがロフィへ勧めるきっかけだと考えれば腑に落ちる。


「どんな準備が必要ですか? 初めての場所で、しかも王宮で……。あの子よりわたしの方が不安で……」


 ロエルが経験者であるのなら、聞きたいことはたくさんある。そんな思いが彼を前にした彼女の気持ちを楽にしてくれた。


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