彼岸花―第一部・後編―
○
家に着くと電話をもらっていた母親が心配そうに「大丈夫?、熱は無い?、心配事があるならきこうか・・・?」と尋ねてきたが私は無機質に「無い・・・・・疲れてるから寝るわ」っとだけ言いベットについた。
毎度の事ながら、枕元に封筒がある事だけを確認し、すぐに目を閉じる。
さあ、早く彼に昨日の事を尋ねないと・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・ふと、自らが長いエレベータの中で放心状態にあったことに気づく、腕時計を見ると、エレベータに乗る前からたった、3分しか経っていない様だ。
「彼に・・・・・・尋ねないと・・・・・」
なぜか私はそれだけを考えていた、とにかく彼に会いたい、そして尋ねたい・・と。
エレベータを降り、まっすぐに自宅に帰ろうかと思っていたが、止めて、先ほどなんとなくみたいと思っていた思い出の河原の風景をみたくなり立ち寄ることにした。
もしかしたら、そこに彼がいるかもしれないと、根拠の無い思いを抱きながら、道を歩く。
河原に到着する、河原はいつもより静かであり、人気はほとんど無い。
とぼとぼと道を歩く、かつて彼と一緒に歩いた道を、今日は私一人で、
そして、思い出の場所に到着、やはり、この場所だけは輝きを失ってはいなかった、今でもあの時の記憶が思い出されるかの様な錯覚・・・
ふと、私たちの思い出のベンチをみると・・・・そこには・・・・・・彼の姿が・・・・・・・・・・・・・・・・
「和・・・」
彼の名前を叫ぼうとして咄嗟に口を閉じる。
なぜなら彼の隣に誰かいるからだ。
「あれ・・・は」
咄嗟に茂みに隠れる、隠れる必要は無いのだろうけど、なぜか反射的に隠れてしまった。
この位置からでははっきりとは見えないが、どうやら女性の姿らしい・・・隣にいるのが誰かを確かめる為に目を凝らす。
すると、隣の道路から車が通り、あたり一体を一時的に明るくする。
そこで・・・・・・わたしは・・・・見てしまった。
「・・・九条・・・・・裕子」
あの長い髪とモデルのような体系、間違いなく九条裕子だ・・・・・・・・・・・
裕子は彼に、なれなれしく何かを言うと、彼の腕に自分の腕を絡め始めている。
「や、やめて、いや、私の和也君に手をふれないで・・・・・・・」
私の細く、かすれた声ではどうやら、彼女らには聞こえていないようだ。
その後、裕子はモデルのようにニコニコと笑いながら、彼の顔に接近する。
そして、二人は目を瞑り・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私と彼との思い出の場所で、私たちより長いキスをした。
(いややあああああああああああああああああああああ)
頭を抑える、何が何だか分らない、なぜなぜなぜなぜ?????、
叫ぶ声は、かすれて声が出ず、彼女たちには届かない。
これは夢かと思い、もう一度彼女たちをみる、しかし、その光景は先ほどと変わらない、彼女たちはいまだに長いキスをしている。
まるで彼女たちの時間がそこに止まったかのように静止し、その止まった時間と比例して、私達の思い出を犯していく。
(これが現実・・・・・・・・・・?、いやいやいやいやああああああああああああああああああ)
永遠に続くかと思われたキスの最中、こちら側を向いて目を瞑っていた裕子が目を開け、こちらを見ている、いまだにキスを続けながら・・・・
そして、私の顔をみてあざ笑うかのように彼と接触して、キスを続ける。
そう、裕子は始めから私がここにいる事を知っていながらわざと、彼との前でキスを続けたのだ。
イヤイヤイヤイヤああああああああああああああああああ
私は耐えられなくなって走り出す。
息が切れ服が乱れながらも、そんなのまったく関係なしに残った力を振り絞って走る。
彼を信じようと決めた、だけど裏切られた、しかもあの九条裕子に彼が取られた・・・・
くやしいくやしい、あいつは何でも持っている、私が欲しかった物すべて、そして、私がやっと彼女に無いものを手に入れたと思ったら彼女は私の最も大切な物を奪っていってしまった・・・・・くやしい、悔しい。
自宅に着くと、すぐに部屋に入り鍵を閉めて布団の中で泣いた。
これでもかって言うぐらいに泣きわめき、気づけば力尽きて・・・・・・・・・・熟睡してしまっていた。・・・・・・・・・・・・
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私は夢の中で思う、何が悪かったんだろう、彼が悪いのか?、私を裏切った彼が??・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いや・・・違う、彼は悪くない、彼はあんなにも優しかったじゃないか・・・・・・そう、悪いのは・・・・彼じゃない・・・・・・
悪いのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・九条裕子だ。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気が付けば朝になっていた。
私はすぐに着替えて、学校へ行く準備をする。
母親が朝食を作っているが、そんなのどうでもいい、テレビでは未だに「あの」ニュースをやっているが、もうどうでもいい。
朝の占いも見ずに私はすぐに家を出る。
かなり早く家を出たせいか、まわりにはまだ登校している生徒は少なく、当然いつもの無駄に元気な少女の姿も無い。
私は学校への道を歩く、歩く、歩く、だんだんと歩調が速くなり、気が付けば予鈴の30分も前に教室についてしまった。
教室に着くと、既に何人かの生徒が席に座っていた。
私は彼らを無視して、「彼の席」に座る。
これは断固とした意思だ、そう、彼の彼女は私であり、裕子ではないと言う断固とした決意表明。
数分して、多くのクラスメイトが入ってくるが、誰も私に声を掛けない。何かをおそれているのか、ときおりちら、ちらとこちらを見るだけだ。
そして更に数分後、教室の扉が開いて・・・・・彼と奴が一緒に教室に入ってきた。
彼と奴は相変わらず仲がよさそうだ、私から彼を奪った魔女には手痛い制裁をくらわさなければならない、そしてとりもどさなければならない、奴から彼を・・・
彼と奴は、私が座っている席が違うのに気づき、ゆっくりと私の席の前に立つ。
「真鍋・・・・・・・・・・・・・・なんで俺の席に座ってんの?」
彼の声には少し怒りがこもっている。
私は、もはや奴に毒され始めてしまったか・・・と思い、とても悔しい気持ちになった。
「霧子・・・・・どうしたの?あなた昨日から変よ?」
奴が私に声を掛ける・・・・・何をいけしゃあしゃあと、私から彼を奪ったくせに・・・・・・
「変・・・?何が変なのかしら?、私が私の彼の席に座っている事の何処が変だと言うの??」
まわりが一気に静寂に包まれる、そう、言ってやった、こんな大勢の前で、私は正々堂々と彼の彼女である事を発表したのだ。
「ちょ、ちょっとまてよ真鍋、いつから俺がお前と付き合うようになったっていうんだよ、」
「霧子・・・・本当に・・・大丈夫?」
ちくしょうちくちょうちくしょう、奴はまだ私をみてあざ笑っている、心配した顔を回りに見せて、私の啖呵を「それがどうした」と言わんばかりにあざ笑ったのだ。
「そう、そっちがその気なら・・私も容赦はしない、まだ猫をがぶるっていうなら、力ずくでその化けの皮を這いであげる」
私はそう叫ぶと、裕子に勢いよく飛び掛る、周りにあった机がいくつも倒れ、数人の女生徒が驚きに叫ぶ。
「あんたが、和也君を奪ったの、せっかく私達は結ばれていたのに、幸せだったのに、なんでなんでなんで」
両手を握り、グーで裕子の顔を何度も殴る、初め、抵抗しようとしていた裕子を馬乗りになって押さえつけた後、私は何度も何度も奴の顔を殴る、そうあの人形のように綺麗で、繊細な顔を、私はボコボコにする。
「やめろ、やめろ真鍋!!!」
彼が必死に抑えようとする。
「和也君はだまってて!!!!!、こいつが悪いのよ、こいつがあなたを惑わしたの、コイツは魔女よ、悪魔よ泥棒猫よ!!!!」
何度も何度も殴っているうちに手の甲が奴の歯にあたって切れる。
血が出るが気にしない、なぜなら、こんな傷よりもひどい傷を奴にあたえているのだから、このぐらいの傷、痛くもかゆくも無い。
何度も殴っているうちに彼女は抵抗をやめ、私が一方的に殴る形となった、まわりから見れば私は悪役に見えるかもしれない、でも事実は違う、悪いのは私ではなく、彼でもない、この九条 裕子よ!!
見る見るうちに、彼女の元の整った美しい顔は見るも無残にはれ上がり、真っ赤に血をつけている。
「そうよ、そんだけ醜くなれば、もう彼を、和也君を誘惑することも出来ないでしょうこの悪魔がーーーーー!!」
続けて私は近くにあったシャープペンで彼女の目をつきさそうとする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・が、しかし、駆けつけてきた山下と他の教員によって私は取り押さえられ、奴への制裁は中断させられた。
「あぁぁああああああああああああああああ、話せえええええええええええええええええええええええええええええ!!」
私は叫び、もがくが、大の大人四人に押さえつけられ、私はなすすべがない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その後、私は強制的に一度保健室に連れて行かれた後、母親と共に自宅へと帰されることになった。
○
母の車で自宅へと帰宅する。
その途中、母親が何かを一生懸命に言っていたが、今の私には届かない。
家に戻り、今の私に何を言っても無駄だと理解すると、「一度ゆっくり寝なさいっと」母は促し、すぐに出て行ってしまった。
時刻はまだ朝の11時、こんな時間に練れと言われても困る。
それでも少し横になり、目を瞑る。
自らの行いを思い出し、微笑む、そう、やってやったのだ「奴の顔」をあんなにもぼろぼろにしてやった。
これで彼は奴には惑わされない、これで彼は名実ともに私だけの物・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・唐突に携帯の着信音が鳴った。
どうやら寝付いていたらしい、ベットが涙でぬれているのに気づく。あたりはまだ暗いので、どうやら家に帰ってきてから数時間しかたっていないようだ。
誰からの電話かと思い、コートのポケットから携帯を取り出し液晶を見るが非通知となっており電話の主は分らない。
今の心情からでは誰とも話したくなかったが、あまりにも長い間着信がなりつづけるのでしぶしぶと、電話に出てみる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「かちゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしもし??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
電話に出てみるが、相手の反応が無い、
しかし、無音と言うわけではなく、電話の奥から、激しい息遣いが聞こえてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしもし?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その音は徐々に大きくなっている、またよおく、耳を済ませると河原のせせらぎの音も少しだけ聞こえてきている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、はぁ、ねえ和也・・・どう・・・わたしの・・・」
「?!?!」
奴の声がした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかも奴は私の彼である和也君の名前をなれなれしく呼んでいる。
「うふ、あの女の×××より私の×××のほうがだんぜん・・・・・いいでしょ?」
「やめ、カチャ・・・プー、プー、プー」
私が「止めて」と叫ぼうとした瞬間電話が切れる、再度掛け直すが、電源が切られてしまっている。
私は携帯を思いっきり壁にぶつけた。
当たり所が悪かったのか携帯は真っ二つにわれ、二度と元の機能を果たさなくなった。
「はあ、はあ、許せない、許さない、許さない、私の和也君を汚して汚してえええええええええええええ」
「うあああああああああああああああああああああああああああああああ」
暴れ、叫んだ瞬間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私はベットから落ちた。
・・・・・ちくしょうちくちょう、あんなに痛めつけたのに、あんなにぼろぼろにしてやったのに・・・・・・・
・・・そうあの電話の内容からは・・・おそらく・・・・・そういうことなのだ・・・・・私は未だに馬鹿にされ、奴の彼への誘惑を見せ付けられたのだ。
許せなかった許せなかった・・・・思いっきりかばんを投げると中から、いつの日か奴に借りた「何とか」と言う行方不明になった歌手のCDが飛び出してきた。
―― はい、これ、昨日話してた夜杉亜美のアルバム ――
―― サンキュー裕子、しばらく借りるわね ――
―― いいわよ、でも汚さないでね、それ、気に入ってるんだから ――
いつの日だったか奴とした会話を思い出す。
奴は私に言った、「私の大切なCDを汚さないでね」との事を、
そして私は奴の言うとおり、2ヶ月たった今でも、こんなに綺麗に、そして丁重にCDを預かっている。
しかし、奴は私の「最も大切な物」を土足で踏み荒らし、彼自身を汚していった。
――――――― 許せない許せない ――――――――――
私は奴から借りたCDをおもむろに取り出し、近くにあった鉛筆で何度も何度も殴りつける、
鉛筆はすぐにパキン、と音を立てて、粉砕し、それでも私は奴のCDを叩き続けた。
そして鉛筆なんかではダメだもっと強く痛めつけないと・・・・と思い、父親の部屋にある、日曜大工用のトンカチを持ってきて何度もCDをたたきつける。
「くそ、くそ、くそ、くそ」
「だんだんだんんだん」
「くそ、くそ、くそ、くそ」
「だんだんだんだん」
気が付けば、CDはケースごと粉々に砕けており、既に壊す所の無いぐらいばらばらになっていた。
「はあ、はあ、はあ」
息が切れる、だが憤りは切れない。
なぜなら、奴の大切なCDと私の大切な人では、その大切さの重みが異なるからだ。
CDは所詮は物、しかし、彼は、和也君はわたしにとっての何よりも大切な人・・・・
それを汚されたんだ・・・こんなことで許されるはずが無い。
じゃあどうする・・・・・・・・・・・・・・少し考えた後すぐに結論は決まった。
「このCDと同じ様に、動かなくなるまで、粉々になるまで、なぐりつければいい・・・・」
私はコートを羽織った後、すぐに先ほど使っていた愛用のトンカチをかばんの中に詰め込む。
その後、すぐに家を出ようと思ったが、念のためにキッチンから包丁を2丁とりかばんにしのばせる。
「逃げられると厄介だから・・・・・ね」
私は誰にでも無く、つぶやくとすぐさま自宅を後にした。
○
あたりは暗い、当然だ今は真夜中なのだから、先ほど奴のキスを見せられてから、数時間しか経っていない、奴の誘惑を聞かされて、30分も経っていないのだから・・・・
河原付近に着くと、私とばれないようにコートのフードを被る、そしてじっとまわりを探す、奴は、彼を汚した奴は何処だ・・・っと
すると、河原を置くからゆっくりと歩いてくる二つの影が見えた。
一人は彼、そしてもう一人は・・・・・茂みとフードで顔は良く見えないが、あの体系にあの黒くて長い髪・・・・・・確実に奴だ。
今奴がここを歩いているという事は・・・・・・・もうすでに事後・・・・なのだろう。
わたしの怒りは最大限に達する・・・がしかし目的の為、息を潜め、静かに、そして殺気をおさえて待つ。
そう、確実にしとめるには、奴が私の隠れている茂みの前を通った時がベスト、だから・・・・・・
二人が歩いてくる、まだだ、二人の話し声が聞こえる、まだだ、ふたりが・・・・・私の前を・・・・・・・・・通る。
私は一気に立ち上がり、奴にトンカチを振り上げる。
奴は驚きのあまり、硬直、動かなくなるが咄嗟によけようとして、頭部をねらった一撃目は外れて左肩に当たる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
奴の声がこだまする、すかさずかばんの中に忍ばせた包丁で、相手の両足を切りつける。
赤い血が一気に吹き出たと思った瞬間に奴は草むらに倒れ、何とか無事の右腕だけで這って逃げようとする。
すかさず持っていた包丁で右手の甲を串刺しにする。その瞬間包丁は「パキン」と音を立てて欠けてしまう。
「これで、これでにげられないわ・・・・・」
うつぶせに倒れている奴を足蹴に仰向けにする。
奴はぼろぼろの腕で自らの顔を抑えようとする・・・・・・・・・・・・・・・・
「そうか、そんなに自分のかわいくて綺麗な顔が大事なのね」
ならばと思い私はかばんの中から残ったもう一本の包丁を取り出す。
「じゃあ、顔は最後にとっておいてあげる。」
そういうと私は、思いっきり包丁で奴の腹部めがけて包丁を下ろす。
「グチャ」
「イやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
「まだよまだ、」
「グチャ、グチャ、グチャ」
「痛い、痛い、いた・・・・・・い・・・・」
何度も突き刺しているうちに包丁がまたパキンと折れる、こんなに包丁がもろいならもっと多く持ってくればよかった。とおもいながら砕けた包丁を捨て、
右手に愛用のトンカチを持ち変える。
「これなら、簡単には、こわれないわ・・・・・・・」
もはや、なきも叫びもしなくなった「奴」の顔面に思いっきりトンカチを振り下ろす。
「はあはあはあ」
「ダンダンダン」
「くそくそくそ」
「ダンダンダン」
まるでCDを粉々にしていた時のように、奴だった物の顔の骨が粉々に鳴るまで、殴り続ける。
「ダンダンダンダン」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあはあ」
「終わった・・・・・・・」
なすすべも無く立ち尽くしていた彼は「うっぷっ・・」といいながら奴だった物の顔を見て吐いている。
「大丈夫だよ和也君・・・・・もう奴は動かないから、アナタを誘惑する悪魔は私が粉々にしたから・・・」
彼は私を見て恐れている・・・・・・・・・・・・・・なんで?、私はいつも通りのアナタの彼女の・・・・霧子だよ。
「ひっ、ヒィいいいい」
彼はすぐに立ち上がって逃げ出そうと道路方向に走り出した。わたしは「まって、あなたは私が守るから、他の女に渡さないから」と言おうとして手を思いっきり、右手を伸ばす・・・・・・・・・・・・・・・・その瞬間私の血でぬれた手からトンカチはすべりぬけ・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ズガッ」
鈍い音と共に彼の後頭部に直撃した。
「和也君!!」
私は彼の元に駆け寄よろうとした、しかし、その瞬間・・・・運悪く・・・道路側に倒れかけた彼は、走ってきた乗用車に・・・・頭から・・・・轢かれて・・・・・・
「キキィ ―――――――――――― グチャ」
「イやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
○
赤い血が道路を流れる、流れた血は高低差にしたがってつたい、下水道へと落ちる。
私は、彼の名を何度も呼ぶ。
「和也君和也君和也君」
――― しかし、和也は何も話さない・・・・・・然だ、彼の顔は頭部から車で引かれたこともあり、彼の口だった部分、目立った部分、鼻だった部分はそれぞれ、九条裕子だった物に劣らないほど見るも無残な形に変化してしまったのだから。―――
――― 特に彼の頭蓋と後頭部はひどく、トンカチの当たった部分、車に直接ひかれた部分は、赤い血と共に、人が人として考える部分である脳自体をその白い骨の間から飛びださしていた。―――
「いやよ、いやよいやよ、いやよいややいやいやあああああああああああああああああああああああ」
私は彼の飛び散った脳味噌を手ですくい彼の頭の中に戻す。
私は彼の流れ落ちた血を必死に手でかき集めて彼の中に戻す。
私は彼のグチャグチャになった顔をなんとか前の優しい笑顔になるように戻す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし・・・・戻らない・・・・・
「イやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ピーポーピーポー・・・・」
サイレンがうるさい、人が集まってきた、人の声がうるさい、うるさいうるさいうるさうるさい。
「ピーポーピーポー」
「いや、いやよ、和也君がいない世界なんて・・・・・私生きていけない・・・いっその事これが夢だったら良かったのに・・・・」
・・・・・・・私はふと気づく、そうだ、これは夢なんだ、だって考えてみてよ、
私が最後に寝たのはいつだった?そう、奴、九条裕子を素手で、見るも無残な顔にして家に帰って来たその時だ。
もしもその時が現実で、その後の電話から全てが夢なら、今もまだ夢の中なんだ・・・・そう、そうだこれは夢、さめれば全てがリセットされる、夢の世界、そうこれは「夢落ち」なのよ。
――― 目覚めれば全て無かった事になる、そんな素敵な終焉、「夢落ち」 ―――
「うふふ、そうかそうよ、夢よ夢、和也君がこんなにぼろぼろになってるのも夢、裕子が和也君を誘惑したのも夢、悪夢、悪夢なのよ!!」
そう自分に言い聞かせると、それを自ら確認する為にポケットの中の携帯に手を伸ばした。
「携帯で日時を確認すれば、それが12月25日ならば、これは全て夢の中、目覚めればリセットされる夢の中・・・・・」
携帯を開こうとする・・・・・が、そこで違和感を感じる、
「私は夢の中で携帯を壊したはず・・・・・・・・それなのに・・・・・・・・・・
なんで、壊れてない・・・・・携帯が・・・・・・・・・・・・・ここにあるの?」
私の携帯はまったくの無傷のまま、現実世界で帰宅した時のまま、コートのポケットの中にしまわれていた。
「へっ、そんな・・・」
あわてて、九条裕子だった物の姿を見る。
その姿は今の状態からは分らないが、殴られた後病院に行ったのだろうと思われる、多くの白い包帯で巻かれていた事が容易に推測できた。
――――― そう、つまり、霧子が殺し、失ったのは ――――――――
――――― 和也を誘惑し、霧子を挑発した裕子ではなく ――――――
「現実世界の・・・・・・・・・まったく関係の無い、裕子と・・・・・・和也君。」
「イやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
そう、彼らは河原のベンチで、キスを見せ付けたあとの帰りではなく、ただ病院の帰りだったのだ。
私はガクッと、そのばに膝をつく
―― そして彼女は考える、何処で夢から覚めて何処で現実に戻ったのか
だが、今の彼女にはその答えを導くほどの冷静さは無く
結果残されたのは今の状態が紛れも無い現実であるという事だけであり
そんな状態の彼女が至った結論はこれが夢ではなく、夢落ちではないだからこそ ――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・リセットできない」
「ううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああ、」
わたしは声が出なくなるほど泣き叫ぶ、何処で間違えたのか、いつが夢だったのか、いつが現実だったのか・・・っと、そして携帯を開く、すると、私の罪を示すかのように、「逃げられない現実の日付けである10月16日、夕方7時」を指し示していた。
「うううううううううううううう」
突きつけられた現実にもは泣き叫ぶ言葉もでない・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―そして、精神的にも肉体的にも極限に達した彼女は一つの歪んだ答えにたどり着く―
「うう、はあ、はあ、はあ・・・・・・・・そう、そうよ、私が殺したのは現実の裕子なら、まだ彼を誘惑した夢の中の裕子は生きているそうよ、早く夢の中に行って、夢の中の裕子を殺さなきゃ、ああ、まってて和也君すぐに、たすけに・・・・いって・・・あげる・・・から」
「バタン・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――― そして彼女はその場に倒れ、二度と覚めない夢の世界へと堕ちる ――――
―――――― 「夢堕ち」 ――――――
■エピローグ
白い、それは真っ白な四角い部屋、そこには光が通るぐらいの窓がいくつかあるが、外には出れず、鉄格子がいくつもつけてある。
そんな部屋で部屋の中心に点滴を繋がれた少女が一人ベットに横たわっていた。
その部屋に扉はある・・・・・しかし中からは開くことが出来ない様になっており、外からのみ中をのぞく出窓と入るための鍵がしてあった。
そして部屋の看板には「1145号室 真鍋霧子」とかかれた表札がただ一枚、ぶらんとたった一つ飾り下も無くぶら下がっている。
そんな、何の楽しげも無い白い部屋の中を、まるでとても面白いおもちゃ箱をのぞくかのように、扉についた出窓から覗く少女がいた。
「夢は少しずつ堕ちていき、最後には彼女自身が夢に堕ちたか・・・・。」
白いひらひらがついた服を着た少女は背伸びしてやっと覗くことのできる高さの出窓に目をつけながら、屈託の無い笑顔で微笑む。
「ふふ、彼女が最後に夢から覚めたのはいつだったんだろうね、そして、彼女は最後の夢に堕ちる前に何を見たんだろうね」
白い少女は後ろにいる人物に尋ねる。
そこには、見舞いに来たのだろうと思われる、大きな花束を持った一人の人物がたっていた。
「さあ?、最後に夢から覚めたのは・・・・・彼女を外側からしかみていなかった私にはわからないよ、でも、もし、彼女の主観から彼女を見続ける事が出来る人物がいれば・・・・・・あるいは・・・・・」
「じゃあ、夢に堕ちる前に彼女は最後に何を見たと思う??」
少女はニコニコしながら、新しいなぞなぞを覚えた子供のように問う。
するとひどく低くかれた声の主は、何の迷いも無く、その答えが当たり前と言うように即答した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「彼岸」」
――― 死ななければ見えない、ただし、死んでしまっては見ることの出来ない、
普通に生きて入れば決して出会うことの無い「非日常」 ―――――
――――――――――――― それが 「彼岸」 ――――――――――――
「結局の所、彼女は神経質すぎたんだ、だからこそ日常から目を背け、「夢や」、「占い」と言う非日常の世界に自らをおいてしまった。」
しかし、納得し切れていない少女は問う。
「そして、現実の世界と向き合うのをやめた・・・・と?、きっかけを与えてしまったのがあなただったとしても?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その人物は自らの軽率な行いを悔いたのかしばしの間沈黙し、
「それでも・・・だ、それでも彼女は現実から目を離すべきではなかった。」
と、何かを決意したかのように強く、今は目覚めない少女に向かって語った。
白い少女は「ふーん」といいながら、ピョンとはねて、その場を後にする。
「アンジェラ・・・・・・おまえはこの後どうするつもりだ?」
低い声の人物はアンジェラと呼ばれた白い少女に尋ねる。
「さあ?、私の事よりアンタはどうするの?」
白い少女は振り返ることも無く尋ね返し、最後に低い声の人物は・・・・
「このままで終わるつもりは無い、落とし前はきっちりつけさせてもらう」
そう言い、持っていた大きな花束を病室の前に置き、互いに違う方向へと歩き出した。
「夢堕ち」―END
この彼岸花シリーズは全4部完結予定の物語です。
1~3部まではどの話から読んでも楽しめる様になっているので、
もしよければ他の章も読んでもらえるとうれしいです。
ちなみに現在第一部「夢堕ち」(完結)に続き、
第二部「塗り壁」(完結)
第三部「病み鍋」(現在執筆途中、一話のみ公開)
までが公開されています、ここのサイト様には随時完成した作品を
投稿していきたいと思います。
今後もよろしくお願いします。