彼岸花―第一部・前編―
■プロローグ ――― 夢堕ち ――――
「夢落ち・・・・あぁ、なんて素敵な終焉なんでしょう。」
白くひらひらとした飾りをつけた少女はくるくると回りながら、ぴょんと飛び上がり、そこがまるで舞台上であるかのようにぺこりとおじぎをする。
「目が覚めれば全てが無かったことに出来る世界・・・・・だからこそ夢の中では何をやっても許される」
少女は演劇を演じるように誰もいない方向にやさしく語りかける・・・・まるでそこに多くの観客がいるかの様に。
「過食、略奪、裏切り、強姦、人殺しに大量虐殺までも・・・・」
それはそれは無垢で悪意のない笑顔で、少女はうっとりと言葉にするのもはばかれる事を歌うように話す。
そして少女はぴたっとその場に止まり、聞こえるか聞こえないかぐらいの声の大きさでささやいた。
――― 夢は堕ちても人は堕ちない ―――
――― なぜならそれは夢落ちと言う素敵な終わり方がそこにあるから ―――
「夢堕ち」
髪がはねている、何度も何度もブラシでなでるが、いっこうに直る気配がない、いっその事シャワーでも浴びようかと思ったが、時計を見てやめる。
今から浴びれば確実に学校には遅刻だ、昨日のように閉じられた校門を這い上がり、結果、「近頃の女子高生はおしとやかさが足りない」とか担任の山下に小言を言われるはなんとも避けたい、っていうか「おしとやかさ」ってなんだよ、おめえはいつの時代の人間だよって感じ。
だがまあ、ぶっちゃけ説教なんてどうでもいい、それよりも、今シャワーを浴びるとちょうど後数分で始まる「めざめよテレビの星座占い」を見逃してしまうのだ。
そしてこれを見逃すのだけは避けたい、どんぐらい避けたいかと言うと山下の小言を聞いてでも見逃したくない。
そのぐらい私にとって朝の占いは重要なのだ。
洗面所を後にして居間へと直行する、幸いテレビはついていた・・・・が、しかしチャンネルが違う、急いでチャンネルを変える。
すると、ちょうど朝食をとりながらテレビを見ていた妹の綾が「ちょ、お姉ちゃん勝手にチャンネル変えないでよ、今、歌手の夜杉亜美行方不明のニュースが・・」
とか言いながら抗議を行って来たが、これを華麗に無視、実は私もちょっとは気になったが、優先順位はいまだに10段階ぐらい高く占いが優位にたっている状態だ。
そうこういっている間に占いが始まる。
「今日の乙女座は最下位、まわりの噂に惑わされないようにしましょう。
ラッキーカラーは青緑、ラッキーアクションは「徹夜」」
一気に気分が落ちる、あぁ、今日は最悪だ、学校休みたい。
「今日学校やすんでいいー??」
とりあえずダメ元で母親に尋ねてみる、当然答えは「No!!」這ってでも学校へ行けの事だ。
まわりを見ると綾の姿は無く、すでに一足早く学校へと向かったようだ、私も早く学校へ行かなくてはならない、占いと言う優先順位がこなされた今、次の優先順位は「塀を登らない事」だからだ。
重たい足取りで学校へと向かう、季節は秋になり登校時もそれなりに寒くなってきた。
しかしそんな寒さなんて吹っ飛ばせとでも言うように「おっはよー」と元気な声で肩を叩く少女が一名、いつもながら明快な笑顔である。
はいはいおはよう、と軽く流すと、私の声の低さに気が付いたのか、むーっといいなが顔を覗き込んでくる。
「どうしたー、霧子、元気ないぞー、なんかあったかー・・・・・・・んーその顔は、占いが最下位!!」
どうやら、この友人「吉野 真由」には私の顔色の変化で占いの順位がわかるらしい、まあ、当然か、毎日顔を合わせていたらそのぐらい分るようになるだろう。
「・・・・・あたり、もう最悪よ、何が「ラッキーカラーは青緑!!」よそんな微妙な色のアイテムなんて無いわよ、つーか「ラッキーアクション、徹夜」とか意味わかんない」
「ぷっ、確かに意味不明!!、超ウケル、で、徹夜・・・・するの??」
「するわよ・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」
「がんばるねー、霧子は占いとか完全に信じちゃうタイプだもんね・・・・・私は信じないけど!!」
そう、私「真鍋 霧子」は占いやら、呪術・心霊、ジンクス、噂などをオールラウンドで信じ、実行してしまう性格なのだ、小学生の頃には消しゴムのカバーの中に好きな人の名前を書いて一ヶ月誰にも知られなかったら両思いとの噂があれば、それを試し最高3ヶ月誰にも知られなかったし(結局は消しゴム自体が使って無くなったのでそこで終了、ききめは皆無、その頃、真由はF○8に夢中)
中学生の頃はこっくりさんをためして、クラスで一番人気の男子が誰を好きなのか聞いてみたりした。(結局、答えは「トンヌラ」とクラスにも学年にもいない名前を出された、その頃、真由は○F9とドラ○エ7に夢中)
とにかく、私は今ぐらいの年代の少女が一般的にはまってしまうような噂や占いに過剰に反応してしまうのだ。
そんなわけで、朝の占いは私にとって重要な行事になっており、これが良いと気分は上場、悪いと下落っとなってしまう。
「・・・それでさー、私思うんだけど、ピカチュウでタケシを倒すのは無謀だと思うの、始めから難易度が高いって言うか・・・・・霧子?聞いてる?」
「・・・・・・・・・・・ごめん、聞いてなかった、って言うか私にゲームの話されてもわかんないわよ?」
真由は「聞いてるじゃん!!」っといいながら、再度今やっているゲームらしき話をし始めている。私はゲームとか機械とかには疎いので、いわゆる「ゲーマーな真由」の話はいつも流すようにしている。
そんなこんなで学校へと到着、現在の時間は予鈴5分前、どうやら山下の小言は聞かなくてすみそうだ。
真由は教室に着くなり、かばんからゲームボーイと言う比較的レトロなゲーム機を取り出して、残り時間5分も無いというのにゲームを始める。
私はそんなのお構いなしに授業道具を机の中に入れていると、「おはよう、今日は遅刻しなかったのね」っと女生徒が話しかけてきた。
「はい、これ、昨日話してた夜杉亜美のアルバム」
「サンキュー裕子、しばらく借りるわね」
「いいわよ、でも汚さないでね、それ、気に入ってるんだから」
私は丁重にCDをかばんの中にしまう。
目線をあげると男子生徒が一人こっちに向かってきていた。
私はその生徒の顔を見た瞬間、胸がとくんと高鳴りもう一度下を向く、脈拍が高くなる、しかし心の中で落ち着け私、落ち着け、と何度も繰り返し冷静さを取り戻した所でもう一度前を向く。
「お、おはよう、和也君」
思い切って挨拶をしてみる、声が微妙に震えて裏返ってしまった。恥ずかしい・・・・・・・・。
「おはよう、真鍋、それに裕子も」
「おはよう和也、ってかアンタもいつもギリギリね」
それに対して、裕子の方は何のためらいも無く和也君に声を掛けている。
・・・・・・・・・・・私には、到底真似ができない。
そもそも、好きな相手の前でなんて上がってしまって何をはなしていいか、検討もつかない、まあ私が裕子なら・・・話は別だが・・・・っと言うのも九条裕子は自他が認める超が付くほどの美少女であり、人形のように長く黒い髪、くりっとした目、小さな顔とすらっとした体系はさながらモデルの様である。
・・・・・少し強気な所もあるが、誰にでもフレンドリーで異性からも人気がある。
それに対して私は・・・ほら、なんていうか裕子に比べたら普通過ぎる女の子だし、髪なんかも・・・・・っと思った瞬間、朝時間が無くて髪に枝毛がある事を思い出し、咄嗟に隠す。
和也君は私の咄嗟の行動に不思議そうな顔をしている。
・・・・・どうやら、気が付いていないようだ。
ふう、と心の中でため息を吐き、何か話しかけようとした瞬間、教室の扉がひらいて山下が「さっさと座れ」と声をあげた。
ちっ、まったくあいつはいつも私の邪魔をしてくれる、そう思いつついつもと変わらない一日が始まった。
○
その噂を聞いたのは昼休み頃の話である。
真由が、「私は今日は野外プレイがいい」とかわけのわからないことを言い出し、昼食は真由と私で屋上でとる事にした。
まあ、確かにこんなにも良い天気なら外で食べるのも悪くは無く、朝に比べてかなり暖かくなっていた。
私たち以外にも同じ様なことを思った生徒がそれぞれ席を作って、ランチとしゃれ込んでいる。
「んーかなりいいてんきー」
「いやまったく、同感ね」
「風が気持ちいいー」
「いやまったく、同感ね」
「いいともーみたいー」
「いやまったく、同か・・・・・・・いや無理だから」
今の今まで、アウトドアを満喫していた少女が唐突にインドアなことを言う、さすが真由。
「小型のテレビもってない?」
「ない」
「むー、携帯でテレビ見れればいいのに」
「いや、無理だから」
「ちっ」
最後の最後まで「いいとも」をあきらめない真由、挙句の果てには携帯に新機能までつけようとしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・いや、確かに携帯でテレビとか見れたらすごいど、あと2~3年後の話だろう。
そんな不毛な会話をしている途中、隣のグループから、妙な噂が聞こえて来た。
「ねえねえ、知ってる??夜杉亜美のブログに書かれてた噂」
「なにそれ??」
どうやら行方不明になった今話題の歌手、夜杉亜美の話をしているらしい。
「えっとね、これは行方不明になった夜杉亜美のブログに書き込まれてたらしいんだけど、行方不明の前日にいくつかオカルト染みた事がかかれてたらしいんだって」
「例えばどんな?」
「うーんとね、いくつか書き込まれてたらしいんだけど今は消されちゃってるみたい」
「なーんだ、じゃあ、何が書かれてるかわかんないんだ、結局」
「まあね、でもなんか怖くない?行方不明になる前の日だよ??なんか関係あるとおもわない??」
「都市伝説だよきっとくだらない」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと気になる。と言うかかなり気になる。
こういう噂とか大好きな私としては、ぜひ色々とお話を伺いたい!!
・・・けど、まったく見ず知らずの人物に「ぜひとも詳しくおしえてくれないか?」っと聞く勇気は私には無いわけで・・・・・
「ぜひ私に教えてくれないか??」
わたしには無いが真由にはあったらしい、さすが真由、裕子以上に誰とでも仲良くなれる人物。
「・・・・・・・・・・・・・」
先ほど噂をしていた少女たちが、一瞬固まる、まあ、そりゃそうだ、見ず知らずの人物がいきなり話に割って入ってきたら私でも驚くわ。
「あ、うん、えーと、とりあえず、どなた?」
「銭型といいます。ルパンの情報(?)をぜひ!!」
「は、はぁ・・・・・・」
なんともまあ、良く分らない会話で夜杉亜美のサイトのアドレスを聞きだす真由、
最後に「ルパンの捜査協力ありがとう、レインボーブリッジは私が封鎖して見せますよ、ジッちゃんの名に掛けて」とかわけのわからないことを言い出す。
そして、戻ってきた真由は「はい」っといいながら、アドレスの紙を私にくれる。
「???」
「霧子、聞きたそうな顔してたよ」
どうやら、真由には本当に私の顔を見るだけで何がしたいのかわかるらしい。すごいぞ真由
「それと、なんか今は携帯からは繋がらないようになってるらしいんだって、だからパソコンからじゃないとむりらしいよー」
そういうと真由はにこーっとしながらお弁当の残りをほおばり、気が付けば私は噂に夢中になってお弁当にまったく手をつけていないことを思い出しすぐにはしをつけ、10分後あわただしい昼休みが終了した。
○
午後からの授業はとにかく集中できない物だった。
視界に移る黒板はただの青緑色の物体に見え、黒板よりも昼休みの噂が気になってそれどころじゃなかったからだ。
本日全ての授業が終了した頃にはその噂を確かめたいと言う思いが私の全ての原動力となっていた。
「起立、礼」
ざわざわと、混雑する教室の中、私はすぐに自宅への帰路へとつく。幸い掃除は無く、現在私の障害となる物は何一つ無い。
家に着くとすぐにパソコンを起動させ「真由から受け取ったメモ」に書かれているアドレスを入れていく。
カタカタカタカタ・・・・・パチ
「これで・・・よしっと」
一瞬画面が暗くなり、すぐに「亜美ブロ」っと言う文字としゃれた画像のホームページが開かれた。
ブログ内には行方不明になったその日である10月10日夜6時(今日は3日後の10月13日)までの日記が書かれており。
私は10月10日の日記には目もくれず、すぐに前日の10月9日の日記のページに移る、噂では既に消されているとの話だったが、ダメ元でページ内を隅々まで探してみる。
「がレイがんlfヴィcまぺjgぁvんmmmcぁえ、;あc□□×・・・・・・」
「!!??」
ページ内の閲覧者書き込み部分に文字化けした文章がずらっと数十行に渡って記載されていた。
おそらく、これが例のオカルト部分であろう、どうやら「消された」のではなく、元々の文章が「文字化けして読めなくなった」と言う事らしい。
「あぁーこれは読めないわ」
とりあえずマウスをスクロールさせる。
すると、画面中段あたりにちゃんとした文章らしき物が現れた。
「おっ?!これは・・・・・・・・」
「好きな異性の夢を見る方法・・・・・・・・・・・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんとまあ、私好みのオカルト話だこと。
予想していた殺伐とした噂とはまったく異なる方向の内容にすこし驚きながらも、より私好みの内容にかなり満足する。
そしてそのページの内容はこうだ
「●好きな異性の夢を見る方法
まず始めに正方形の白い紙を用意します。
次に紙のおもてに大きく赤いペンで「夢」と書き
裏面の角にそれぞれに夢と小さく、青いペンで書き込みましょう。
最後に、好きな異性の名前を黒いペンで書き込み、封筒にいれて枕の下に置きま しょう。
あとはぐっすりと睡眠をとるだけです。
素敵な夢があなたをまっています。
ただし、注意すべき点として
①絶対に自分以外の人物に枕の下にこのおまじないの紙があることを話してはい けませんし、夢の内容を話してもいけません。
当然中身を知られてはいけません
弐青jが得hfvjかcかおこかかvなおヴぉあんmヴぉあえjvf・・・・」
どうやらそれ以降の内容は読むことが出来ず要点のみつかむことができた。
さて、こんな面白そうなおまじない、見過ごすことなんて私は出来ない。すぐに実戦して見なければ・・と思い、紙は画用紙を切り抜いて正方形にし、油性マジックで書かれている通りに記載、名前は・・・・・当然、私にとって片思いの男の子である「井上 和也」君の名前を丁寧に書き込む・・・・・・よし、準備はこれで完了!!
さあ、後は寝るだけ・・・・・・っと、時計を見るとまだ8時を回った所で、寝るのにはまだ早い、ちょうど居間から「お姉ちゃんーご飯たべないのー」と綾の声がしたので、夕食にする事にした。
○
食事のあと、お風呂にも入り、いつも通り9時からの切ない恋愛ドラマを見るが、どうも集中が出来なかった。
いつもの私なら、この恋愛ドラマはかなり高い優先順位にあるはずなのだが、どうやら今日はそれどころじゃないらしい、どんな夢が見られるかというワクワク感が私の頭の中の全てを埋めていた。
11時を回った所で、パジャマに着替えて、おまじないを封筒にいれ枕の下に置く、念のために目覚まし時計を掛けた所で、ふと朝の占いを思い出した。
――― 今日のラッキーカラーは青緑、ラッキーアクショは・・・・「徹夜」 ―――
少し考えた後、私はおまじないを優先することに決めた。
当然だ、夢は寝なきゃ見れないし、今の私にとっての優先順位は朝の占いよりも、夜杉亜美のおまじないの方が断然優先順位が高い。
そう考えたあと、ゆっくりとふとんに入り目を閉じる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドキドキ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、眠れない。
そりゃそうだ、恐らく私は、夢の内容が楽しみで興奮状態にある、そんな状態で寝れと言うのがまず不可能だ。
もういちど大きく息を吸い、深くはいて眠りにつこうとする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ、牛乳を飲もう。
確か前に、何かのテレビで牛乳を飲めば眠たくなるとか何とか言っていたような気がする。
よし、牛乳を飲もう。
階段を下りて、冷蔵庫のドアを開ける。
「牛乳、牛乳・・・・・・・・っと・・・・・・・無い・・・・・・・」
どうやら、今日の晩御飯のクリームシチューに全て使われてしまったのか、いつも冷蔵庫の中にスタンばっている牛乳さんのすがたはそこにはなかった。
「・・・・・・・・・・うーん」
一度思い立つと、なぜかそれを行わないと気がすまない私、おそらく今日は牛乳を飲まないと眠れないだろう・・・そんな思い込みすらしてきた。
すぐさま部屋に戻り、着替えをしてコートを羽織る、お財布を持ったことを確認して、親にばれないようこっそりと家を出る。
コンビニはすぐ近くにある、大体徒歩5分ぐらいだ、だから牛乳もすぐに見つかり、家に帰ってすぐに就寝・・・・・・・・・・・・と行くはずだったのだが、なぜかいつも行くコンビニは今日に限って牛乳が品切れ・・・・意地になった私は牛乳目指して隣、隣と片っ端からコンビ二めぐりを行うはめになってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あった」
気が付けば、かなりの長旅となってしまった。まさか牛乳ごときに私の計画をここまで狂わされるとは思いもしなかったからだ。
「こんなに歩かせて忌々しい牛乳め」との怨念と、「やっと見つけたかわいい牛乳さん」との愛情が混ざり合いながら、牛乳へと手を伸ばす。
すると・・・・・「あっ」っと隣の人と手がぶつかる、どうやら同じ牛乳へと手を伸ばした人物と私の手がぶつかってしまったようだ。とっさにすみませんと言い、相手の顔を見る。
「??!!」
そこには、夢にまで「見たい」と願っていた愛しの彼、そう「井上 和也」君がそこにいたのだ。
「か、和也君、お、おはよう」
「おはようって・・・・・まだ夜だよ、真鍋、それをいうならこんばんわだよ」
テンパっているわたしに和也君は優しく語り掛ける。
「真鍋も買い物?、家近くなの?」
「い、いやそうじゃなくて、わ、わたし、眠れなくて、牛乳を飲もうとしたんだけど、なくて、コンビ二に歩いて・・・やっとみつけて・・・かれこれ1時間ぐらい歩いて」
自分でも何を言っているかわからない、恐らく鏡で自分の顔をみれば、それはそれは真っ赤なりんごの様になっているのだろう、・・・・・はずかしい。
「ぷっ、真鍋、そんなに牛乳がすきなのか、ってか、一時間ってどれだけさまよってたんだよ」
和也君は笑いながらかたりかける。
「・・・・・あ・・うん、ごめん」
何だか恥ずかしくなってそのまま、下を向く。
「別に謝ることじゃないって、ほんとに真鍋はおもしろいなぁ」
和也君は先ほどと変わらない笑顔で、やさしく私に微笑みかける。
そう、今の和也君は私だけに語りかけ、その微笑を私に向けているんだ・・・と思うと
うれしさを通り越して泣きたくなって来た。
「・・う、うん、本当に、ご、ごめんね」
なぜか涙が流れる、あーうれし泣きなのに、これじゃなんか誤解されてしまう、変な子だとおもわれてしまう・・・・
「お、おい、真鍋泣くなって、どっか痛いのか?わかった、送っていくから泣くなって」
あたふたする和也君の姿が妙におかしくて・・・・いま何かとても重要なことを言ってくれたような気がしたのだけれども・・・・・
(お、おい、真鍋泣くなって、どっか痛いのか?わかった、送っていくから泣くなって)
「・・・・・えっ」
送っていく、確かに「送っていく」と言った、和也君が私を家まで送って言ってくれるといったのだ。
「そ、そんな、悪いよ」
「気にするなって、それに、こんな時間に女の子一人、歩いてたら物騒だぜ、で、家は何処方向なんだ?」
家の住所をことこまかく(番地と郵便番号まで言ってしまった・・・はずかしい)説明したあと、「うへー、そんな遠くからあるいてきたのか、
ほんと真鍋はおもしろいな」と言い会計を行う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・和也君の優しさに再度感動を覚え、私たちはコンビニを後にする。
外はやはり寒かった・・・・・・・だけれど、帰りは行きよりもなぜか暖かく感じた、やはり隣に好きな相手がいるからだろうか・・・・
コンビニを少し歩くと川沿いに差し掛かる、そこはなかなかロマンチックな場所で、夕方時には絶好のデートスポットとなっている。
わたしはいつも帰宅途中、いいなぁ、こんな所で好きな人と歩いてみたいとか、思っていたわけだが、まさか、それが現実になるとは夢にも思っていなかった。
今はさすがに夜中の1時を過ぎているためか、人はまばらである。
・・・・・・・・・・・・ふと思う、恋人みたいだ・・・・っと。
そう思った瞬間心臓の高鳴りが、高くなり、脈拍が妙に大きくなる、おそらく今脈拍を測れば計測器の針が壊れてしまうのではないかとおもうぐらいに・・。
そして同時にもう一つの思いが浮かぶ、「これはチャンスである」っと
もしかしたら、和也君と二人っきりなんてチャンス、もう二度とないかもしれない、だからこそ、今思いを告げるべきではないのか・・・・っと
だが、もし失敗したら・・・・っと考えると、声が出ない・・・・・・怖くて勇気がでない・・・・そんな私の顔色を見たのか和也君は
「大丈夫か?真鍋?少し休もうか?」
と、近くのベンチを指さし、私をきづかってくれている。
「じゃあ、ちょっとそこにある自販で暖かい飲み物買ってくるからまってろよな」
そう言うと和也君は走り出した。
・・・・・・・・・・・・・・ドキドキ、ものすごいチャンスだ、あまりにも出来すぎている、恋の女神が私に今告白しろとささやいている様だ、
・・・・・・・・・・・・・・ドキドキ、たぶんこんなチャンスホントに二度とない、そうだ、だからこそ今しかないんだ。
「真鍋・・・・コーヒーでよかったか?」
コーヒーを私に手渡して、深くベンチに座る、彼自身も買ってきたコーヒーのプルタブを引き、一口コーヒーを飲む。
「ね、ねえ、和也君、私・・・聞きたい事が、あ、あるんだけど」
ついに、言ってしまった、もう後戻りは出来ない、後は進むだけだ。
「ん?なに」
「和也君、今付き合っている人は・・・・いるの・・・・?」
「・・・・・・・・・いないよ・・・」
よっし、わたしは心の中でガッツポーズをとる。
「じゃあ、好きな人は・・・・・・?」
まちがえたーーーーーーーなんでそこで好きな人を聞くんだ私!!、そこは「私は前から和也君が好きでした!!」って告白する所だろうーーー!!
これで、彼が、「いないよ」とか「裕子がすきなんだ(他の人の名前でも可)」とか言われたらその時点でアウトだろーーー!!
これじゃ、戦う前から負けてしまう可能性が・・・・・・・・・
「・・・・・真鍋、真鍋霧子」
「・・・・・・えっ?!」
私の中で時間が止まる、今なんて言ったのか自分で再度確認してみる、えーと好きな人の名前を聞いて、そしてその名前に「真鍋霧子」が出てきた。
・・・・・・えーと?真鍋霧子って誰だ?・・・・あぁ、私だ、私が真鍋霧子だった。ってことは和也君の好きな人は・・・・・・
「わ、私??!!」
「うん、前から俺、真鍋の事が気になっていて・・・その、好きでした付き合ってください!!」
そんなバカな、出来すぎている。まるで夢のようだ・・・・夢?・・・・まさか夢じゃないよね?・・・・私は、顔が赤くなっている和也君にばれないように手をつねる・・・・・痛い・・・・いたーい・・・・・夢じゃない、夢じゃないんだ。
ほんの少しの沈黙の後、私は私の思いを声に出して彼に伝える。
「私も、私もずっと前から和也君が好きでした!!」
沈黙が続く、私も彼も顔を赤くしながら見詰め合って、そしてどちらとも無く・・・・・顔を寄せ・・・唇と唇が・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「がはっ?!」
布団を大きく蹴り上げ、目が覚める、そこはいつも通りの朝の風景、私はベットの上で熟睡していたらしい、時刻は・・・・・
「6時30分・・・・」
どうやら、いつもより早くめがさめてしまったらしい。
まあそんなことはどうでもいい、それよりも、気になるのは昨日の出来事は・・・・?
―― 夢なのか?それとも現実なのか? ―――
と言う疑問。
服装や周りを見渡すが、特に変わった事は無く、私の服装は寝る前のパジャマ姿であった。
「夢・・・・・・・・・・・・・・・・・なの・・・・・・・??」
がっくりと肩を落とす、せっかく勇気を振り絞って告白した(された)のに・・・
まさか全てが夢だったなんて・・・・確かに・・・・・うまく行き過ぎていた感じはしてたけど・・・
しかし、ふと考える、もしかしたら、昨日の出来事は現実で、あの後の記憶がないだけで、もしかしたら、本当に告白され、その後、家に送ってもらっていたのかもしれない。
そう考えると、それを確認する為すぐさま、冷蔵庫の前に立つ。
「これを開けて、牛乳がはいっていれば・・・・・」
昨日の出来事は現実である。
しかし・・・・・・入っていなければ・・・・・
「ガチャ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無い」
夢でした。
「いわゆる夢落ちってやつですか・・・・・・とほほ」
夢の余韻も冷めぬまま、まだ時間もあるので今日はシャワーを浴びることにした。
○
シャワーを浴びた後の髪はドライヤーですんなりと、いつも通りの形を取り戻した。
軽く朝食をとりながら、一足先にテレビをつける。
牛乳は無いので今日は水で我慢・・・テレビでは連日「夜杉亜美」の行方不明騒動の報道が行われていた。
「夜杉亜美・・・・・・・・・・」
夢の事を思い出し、夢落ちだったことに再度肩を落とす。
「いい夢だったな・・・・・・・」
確かに夢落ちという盛大な「無かったこと」に私は絶望すると共に、夜杉亜美のブログに書かれていたおまじないが本当に効き目がある事に喜びを隠せなかった。
「今日もあの夢の続きみれるかな・・・・・」
夢なんて、早々都合よく続きが見れるわけじゃないが、なぜか今晩も、続きが見れるような気がする私、これもおまじない効果だろうか。
思い出すとにやけが止まらない私の顔をみて、後から入ってきた妹の綾は「なんかいいことでもあったの?」ときくが、ブログ内にも「夢の事を話してはならない」との注意書きがあったのでそこは「べっつにー」とさりげなく隠すことにした。
食事を終えた後、登校準備を整えた私は最後に日課になっている、「目覚めよテレビの星座占い」を見る事にした。
「10月14日今日の乙女座は・・・・・・残念、二日連続の最下位、気を引き締めて今日一日乗り越えましょう、ラッキーアクションは「徹夜」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また最下位かよ、しかも同じ徹夜がラッキーアクションだとは・・・・・なんか手抜きじゃない?
表面上不満たらたらな私だが実際は、そうでもなく、それなりに夢の事があったのでハッピーな気持ちだった。
家を出ていつも通りの通路を歩く、昨日とは違い、なぜか寒いはずの風が心地よい・・・・・・・・
「ずどーん、おっはー」
元気な声がこだまする、振り向くと言わずと知れた元気少女である友人(真由)がそこにいた。
「おはよう真由」
「おう、・・・・・・・」
真由が私の顔を覗き込む。
「おや、今日は気分が良いのかな・・・?・・・・・分った、今日の占いは乙女座が一位!!」
どうやら真由は私の表情をみて、機嫌がよいのに気づいたらしい・・・・しかし残念、真由捜査官、君の推理は残念ながらはずれているのだよ。
「残念ー今日も最下位、しかもまた、徹夜がラッキーアクション」
真由は「えー何でー」と外れたことに憤っている。
「じゃあ、何でそんなに元気がいいのー?いっつもなら、占いが外れたら気分悪いって顔にかいてあるのに・・・・・・・・」
それはいい夢を見たから・・・・っとつい口走りそうになったが、そこはあえて我慢、断固いってはならないのだ。
「いい夢を・・・・・・みたから?」
「えっ?」
声が裏返る、一瞬耳を疑ったが、どうやらその低くかれた声らしき物はは真由の口から発声されたらしい。
「んなわけないよねー、そんな単純な理由で気分いいなら人生、よっぽど楽だよー」
「ははははそうよ、そんな単純な理由で元気になれるなら警察はいらないわ、ははは」
良く分らない言い訳を返すが、どうやら、ばれてはいないようだ、真由の声はいつも通りの高い声に戻っていた。
それにしても恐ろしい、この子は本当に私の顔色から私の考えている事が分るらしい、真由・・・・恐ろしい子。
その後の真由は「で、結局徹夜したのー?」とか、「今、ワタルと戦ってる」とか、たわいの無い話をしながら、歩いた。
学校に到着後は、これまたいつも通りだった、かばんの中から授業道具をだし机の中にいれる。
その時、裕子から借りた夜杉亜美のCDをかばんから出すのを忘れていたことに気づき再度かばんの奥にしずめる。
同時に裕子を見ると、裕子は教室の前の方で、和也君と楽しそうに話していた。
・・・・・私も夢の中だったら・・・・和也君とあんなふうに話せて、そして私たちは・・・・・
「恋人同士」
いきなり真由が私の肩をばん、と叩いた。
自分の考えがまた読まれたのかと思い、驚く。
「昨日のよる九時からやってた「恋人同士」みたー?」
・・・・・・・・・・・どうやら、考えを読まれたわけではないらしい、ただ単に真由は昨日のドラマの話をしているのだ。
なんとタイミングが悪い・・・・と思いながら、ふと心をなでおろす。
「すごいよねー昨日の「恋人同士」、なんていうか超展開?、主人公の義人がやむ終えず恋人の由香に切りかかったと思ったら、なんとその由香が実の妹で、ニュータイプだったなんて誰も思わないよー、しかも来週はついに戦場が宇宙にうつり、ついにコロニー落しが始まる。義人はコロニー落しを阻止できるのか・・・?とか・・・・・・」
気が付けば、毎週見ていた「恋人同士」と言うドラマはどうやら、まったく別次元のベクトルに向かって走り出してしまったようだ。
ちなみに昨日の私はなんか、夢の事でそれど頃じゃなかったから、ちゃんと内容をみていない。
「ごめん、昨日のそれ、録画はしたけど、あんましじっくり見てないわ」
「じゃあ、後でゆっくりみたほうがいいよー、とにかく3Dとかいろいろつかっててすごいから」
恋愛ドラマで3Dとか使うってどうよ・・・・・・・・むしろ何処に使ったのか聞きたい。
その後も真由は「昨日の9話から監督が変わったんだよ、昔「end of the 五郎」ってドラマの脚本書いてた人で・・」
とか、ドラマの裏話をし始めるが、さすがについていけない。そもそも、「五郎の終わり」って題名のドラマを誰が見るんだよ・・・
そして、その日の授業は通常どうり始まり、一日が過ぎていく、私は昨日と同様、すぐにでも帰って夢を見たいので、授業そっちのけでワクワクしながら一日の終わりをまった。
○
帰宅後、私はすぐにお風呂に入り、夕ご飯を食べた。母や、妹には「今日は疲れたから早く寝るから」とだけ伝え、いまだ時刻が8時にもかかわらず、ベットへと直行
封筒が枕の下にある事を確認し、いつもより早い睡眠をとる事にした。
「おやすみ・・っと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・真鍋?」
名前を呼ばれて「はっ」と気が付く、どうやら両思いと分った感動で、私の意識は、はるか上空に飛んでいってしまっていたらしい。
キスをしようとしていた体制で、数分間硬直していたのだ、ついさっきまでなんかの夢のような物を見ていたような気がしたが、どうやら気のせいだろう、なぜならこれが、そう、この今の両思いになったという事実が唯一の現実なのだから。
「・・・・大丈夫?」
和也君が優しく語り掛ける。
「う、うん、ちょっと感動して意識が飛んでたみたい」
事実をありのままに話す。
「で、俺、真鍋と・・・その・・・き、キスがしたい」
いつもしっかりとしている和也君がこんなにもうろたえている姿がやけに面白く見えた。
「う、うん、私も・・・・・・・・・」
そして私たちはゆっくりと唇を合わせ、長いキスをした。
「真鍋・・・・」
「名前、名前で呼んで・・・・」
「霧子・・・・」
そして私たちはその後、恋人同士となった。
恋人同士になって、様々な所へ行った、ネズミがはばをきかしている、テーマパークにも行ったし、連休には遠出して温泉にも行った。
もちろんカラオケだって歌ったし、当然恋人なんだからキス以上のことだってした。
そしてあの運命的な告白から2ヶ月がたった、12月24日の事だ。
私たちは二人で過ごす初めてのクリスマスを一緒にすごそうと計画を立て、町で一番夜景がきれいな場所でディナーを取ることにした。
その日の朝、私はいつもより早く起き、身なりを整える、朝の占いを見ると今日はなんと乙女座は1位だった、しかもラッキーアクションは「夢を見ること」・・・ふっふっふ、ざまあみろ「徹夜」め、お前の時代は終わったのだ。っとなぜか徹夜に悪意を持っている自分が面白かった。
一足先に駅前に着く、今日のよるにはここから見えるあの高い展望台で忘れられない夜をすごすのだ。
ワクワクと緊張で、10時集合の所、9時についてしまったが、ご愛嬌って奴ですよ。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カチカチ
時計を見ると、いつの間にか10時になろうとしていた、和也君はまだ来てはいない。
私は、まだかまだかと、彼の到着をまつ。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カチカチカチカチ
時計の針は既に11時を回ろうとしていた、しかし、まだ彼は来ない、もしかしたら、待ち合わせの時間間違えたのかなっと思いそんな、ドジな所もかわいいなと思い、彼を待つ。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カチカチカチ カチカチ
ガラーン、ガラーンと12時の鐘の音がなる、気が付けばお昼になってしまった。
さすがに、待合場所を間違えたのか?もしくは彼になにかあったのか?と思い携帯電話を掛けてみる。
「プルルル、プルルル、プルルル・・・・・・・・・」
どうやら、携帯電話は今は繋がらないようだ、念のためにメールを打って送る。
「今、何処にいますか?返信待っています。っと送信」
彼の到着を待つ
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カチカチカチカチカチカチカチ
時刻は既に3時を回っていた、しかし彼は来ない、だんだんと不安になってくる、彼に何かあったのだろうか?事故や病気にあっていないだろうか・・・?
心配で心配で、既に30回以上掛けた携帯電話にもう一度手を伸ばす。電話を掛けるが・・・・・・応答は無い。それでも私は彼を待つ。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
あたりはすっかり暗くなってしまった。時計の針は既に5時を回ろうとしている。
雪も降り始めている。今年初めての雪だと言うのにぜんぜんうれしくは無い、こんなのただ寒いだけだ。
だけど、いまだに私は彼を待つ、そして心配でメールを打つ、メールの送信数はすでに50通を超えていた。
しかし、一通も返信は無い。
だけれども私は彼を待つ、彼は絶対に私を裏切らない、彼は優しいから、いま急いではしってこっちに向かっているんだと信じて彼を待つ。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
時計の音がうるさい。いっその事、腕時計を外してしまおうかとも思う。時刻は8時を過ぎていた。
本当だったら私達は、今の時間この展望台の上の暖かい部屋でディナーを食べている時間だ・・・・しかし、現実は異なり、寒い冬空の中一人で駅前で彼を待っている。
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時刻は11時を過ぎていた、先ほどまで周りにいた多くのカップルは徐々にその姿を消して行き、残されたのは私一人。
私はふらりと展望台のエレベーターに乗る。
もしかしたら彼が、展望台の頂上でまっているかもしれないという淡い期待をいだいて。
「ピンポーン」
エレベーターが最上階に着く、私は予約していたレストランに入り、予約席へと向かう、既にレストラン内では一日の仕事を終え、片付けにはいっている人達がほとんどだ。
私は最後の希望を胸に、予約席に行く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし、そこに彼の姿は無かった。
そしてそこにあるのは、本来彼と二人で見るはずだった「町一番の夜景」、
しかし、今の私にとっては、その夜景に価値は無く、ただひたすらに町が光っているだけ、に見えた。
「全然・・・・・・・・・・・・・きれいじゃ・・・・・ない」
涙がこぼれる、せっかくきれいな服を着て、楽しい時間をすごせると思ったのに・・・・・・・一滴、二滴っとじょじょにその数は増え・・・・ほほからたどり落ち、展望台の絨毯を涙で染める。
それでも、私は彼を信じる、彼は今日何か特別な都合が出来たのだ、やむ終えず私との約束を破るような何か・・・・例えば、ご両親に何らかの事故が起こったとか・・・・そうよ、きっとそう、私は彼を疑っちゃいけない、彼を信じなきゃ・・・
そう思うと私は涙を拭きもう一度、「町一番の夜景」をみる。
あの時、彼と見た川沿いの風景の方が数百倍きれいに見えた。
もう一度、彼と見た川沿いの風景がみたい・・・・そう思った。
私はゆっくりと、展望台を去る。
そして決意する、彼を信じよう、そして明日聞いてみよう、「昨日なにかあったの?」っと。
私はまわりのカップルをよそ目にゆっくりと家路へとつく・・・・・・・・・・・・最後、エレベーターに乗る前にもう一度だけ夜景をみる、やはりそこに何の感慨もなく、それはただそこで町が光っているだけだった・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・ジリリリリリ。
目覚ましの音で目が覚める。どうやらあれから私は気づかずに家に戻ってきていたようだ。
すぐに髪を整え朝食をとるが、昨日の夜の出来事が気になって、朝食がのどを通らない。
彼は大丈夫だろうか?
今日あったら昨日何があったか尋ねてみよう・・・・・・っと
テレビでは2ヶ月たった今でも飽きずに夜杉亜矢のニュースをやっている。
どうやら、テレビ局も本当にねたが無いらしい、まあ、そんなのどうでもいいけど。
色々考えていると、とても暗い気持ちになった、一刻も早く彼に会ってたずねなければ・・・
そんなことを考えているうちに、いつの間にか朝の占いが始まっていた。
「□□□は○○で・・・・・乙女座は・・・・・・□□なので、最下位・・・ラッキーアクションは・・」
ぼけーっとしながら聞いているので内容が頭に入ってこない、ただいえるのは、「また今日も乙女座は最下位だったという事だけ」
特に思う所も無くすぐに家を出る。
頭の中で不安に思っているだけで、足取りは速い。
むしろ、早く学校について、昨日の事を聞きたいという事で頭がいっぱいなのだ。
そのせいか、今日はいつも朝に会うはずの真由に会わなかった。
どうやら私はそれほどいそいでいたらしい。
○
学校に着くと既に、多くのクラスメイトが席に座っておりたわいの無い話をしている。
私は、まだかまだかと彼の到着を待つ。
「おはよー」
そういうと彼は教室の中に入ってくる。
彼の表情は明るく、特に際立った変化は無い。
私はすぐに席を立ち、彼の前へと歩いて行く、
「和也君・・・・・・・・・」
「お、真鍋おはよー、どうした?こんな朝早くから?」
彼は何の悪気も無く、いつも通りに私に挨拶をする。
その無神経さに、少し・・・・苛立ちを覚えたが・・・こらえる、そう、元気に振舞っているだけかもしれない、両親に事故があって、私を心配させない為に・・・・・・
「和也君、どうした?っじゃなくて、昨日の事なんだけど・・・・」
彼はさて?なんのことやら?といった顔をしている。
「真鍋、俺、昨日お前となんか約束してたっけ????」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さすがに、カチンと来た。
「なんか約束してたか??じゃないわよ!!!!、わたし、アナタをまってあの寒い冬空の中、朝の9時から一日中駅前でまってたのよ!!!!!!!!」
私の怒鳴り声が教室中に響く、クラスメイトはシーンと静かになり、全生徒がこちらをみている。
怒鳴るつもりは無かった・・・・でも、あまりにも昨日の事が悲しくて・・・・・・
「ちょ、ちょっとまてよ、真鍋・・・・な、何の事・・・?」
彼はしどろもどろになりながら、尋ねてくる。
「昨日の約束の事よ・・・・・12月24日、クリスマスイブに一緒にこの町で一番きれいな夜景の見える場所でディナーを食べようって、約束したじゃない!!!」
「待てよ、少し落ち着けって、真鍋、昨日が12月24日って言ったけど、今日はまだ「10月15日」だぜ??」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え??
頭が真っ白になる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなバカな、昨日は12月24日で、私達は恋人同士で・・・・・・・・・・・・
「ほ、ほら、みてみろよ「真鍋」携帯の日付けも今日が10月15日になっているだろ・・・・」
私は彼の携帯の日付けを見る・・・・・確かに10月15日になっている。
それに・・・・今彼は・・・・私のことを「真鍋」って・・・・・・・・・
・・・・恋人である私たちは・・・・お互いを名前で呼び合っていたはず・・・・
っと、いうことは・・・・・・・昨日までの恋人関係は・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全て、夢
○
その後、和也君にはなんだコイツ・・・・といったような目線を向けられ、クラス内は一次騒然となった。
私は何度も自分の携帯を見直すが、その日付けが10月15日から動くことは無かった。
遅れてきた真由は一人、「キョトン」とし、何があったのっと尋ねてきたが、私は無視をした。
また担任の山下は、いつもと違うクラス内の様子に戸惑っていたが、すぐに元の一日が始まった。
(おかしい、おかしいわ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなはずはないもの、私たちは恋人同士だったはず旅行にも言ったし、キスもしたし、それ以上の事だって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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そうか・・・・・・そうだったんだ、私と恋人になった「彼は」現実の和也君じゃなくて、私の夢の中の和也君だったんだ。
うふふ、そうか、そうよね、だから現実の和也君には私たちの恋人関係を知っているはずがないのよ・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・そう、だから、私は間違っていたんだ、昨日、私を待たせた理由を問いただすのは、今目の前にいる和也君、
じゃなくて、夢の中の彼に聞かないと意味が無いんだ。そうよ、そうにちがいないわ・・・・・・・)
そう思うと私は、授業終了後すぐに早退を山下に訴えた、気分が悪いんです、と言うと、朝の事もあったからか、すぐに帰宅して良いと言われた。
私はすぐに帰宅準備を行い、家路につく、途中に真由がなんか言っていたような気がするが、私はきにしない、なんせ、現実の
奴らにかまっていたって仕方が無いのだから。