06 手放した日常
「子どもが多いんだね」
「ん?ああ、基本、子どもは吸血鬼側も喰ったり殺さないように努力義務ってるからね…そもそも、眷属にしても子どもは雑魚いし、弱いしであまり使い道もないし…狩り尽くしたら餌がなくなるしね」
「マリアナって、そっちが素なの?」
「あらやだ、なんのことかしら〜」
ソールに来てから早数日、箱庭との料理の違いに初日は慣れず残してしまったが、さすがに慣れてきた完食することもできるようになったような頃。
元々、ロピさんや私の治療をしてくれたアスケーさんよりはバサバサした口調をしていたが、ソールに来てからは思い出したように語尾を柔らかくするので、雑な方が素なのだろうかと考える。
場所が変わっても変わらず、マリアナは物知りで私の知りたいことを教えてくれる。
「人って、火の球の下出られたんだね」
「太陽の下か?昔よりは体に悪くなっているらしいけどね。今現存している人間の居住区は、飲むと太陽障害が軽減される湧水に造られているの、これは吸血鬼からしたら不純物のようなものだから、箱庭では提供されていなかったんでしょうね」
マリアナは火の球のことを太陽と呼び、知らない単語をよく口にする。
そうして、私は首を傾げていると面倒そうに教えてくれたりくれなかったりする。
彼女曰く、太陽を火の球と呼称する方が変だと言うが私にとってはそれが常識なので変だと言われてもあんまりピンとこない。
(…マリアナが生きていた頃の世界は、どんな世界だったんだろう)
そんなことを思いながらも、ソールにきても月日は流れ時間は過ぎていく。
ある日、今まで室内育ちだったせいかやはり水を飲んでも太陽の光は慣れず日影を選ぶように居住区を歩いていると、人気が少ない農業エリアに迷いこんだ。
何処からか若い声が複数聞こえて、何を話しているのかと聞き耳を立てる。
「吸血鬼って最低だよね」
「わかる。なんであんなのがのうのうと生きて私達がこんな思いをしないといけないのか」
「俺、立派なハンターになって吸血鬼沢山殺してやるんだ!」
畑の側では、畑の手伝いの休憩時間の子ども達が吸血鬼への文句を漏らしていた。
「若いな。そして呆れるほど無知だな…人間が吸血鬼に勝てると果たしていつまで信じられるのか」
多くの子ども達は親を吸血鬼に殺され、ハンターに保護されここに居る。
それは分かっている。
ヘリオに殺されかけてもなお全ての吸血鬼が優しいなどと宣うつもりはない…それでも。
「マリアナ、帰ろうか…明日からハンター修行だし…」
「……ええ、そうしましょうか」
マリアナは、何も言わず頭をぽんぽんと撫でるような仕草をして自室の方へと迷うことなく案内してくれた。
『姉の15番ちゃん〜今日のハンバーグはおいしかったかしら?そうでしょう?ふふっ、実はピーマンをこっそり入れていたんだな〜これが!いてっ、いてっ…でも美味しかったでしょう?はは、怒んないで!』
『私は彼女達のように器用ではないのですが…え?私達もして欲しい?……ええい、一列に並びなさい!文句は受け付けませんからね』
薄くて背中が痛い布団に入りながら、手放した日常を思い出す。
「ねえ、マリアナ…先生達は私達のこと愛していたのかな」
「愛していたわよ、残酷な現実を知る前に殺してやるのもひとつの愛ってね」
広い部屋の中、姿は見えないが彼女の声が聞こえる。
二人一部屋の相部屋方式らしいが、私のルームメイトはハンターの仕事でソールの外に行っているらしくまだ会ったことがない。
「そうだったら…いいな」
いつも先生や姉妹達がいたからこそ、ひとりぼっちの夜はあの美味しくない薄味のスープに慣れた今でも、慣れることが出来ない。
出会えたらなんて話そうか、せめて先生達(吸血鬼)の悪口をあまり言わない人なら良いな…などと思いながら寂しい夜をひとり寂しく眠りにつく。