05 人間居住区ソール
バンッ、バンッ、バンッ。
「チッ」
「我々ハンターの拠点の目の鼻の先で人を襲うなんて、随分と舐められたものねっ…」
聞いたことのない乾いた音が鳴る物を持った女性が、吸血鬼ヘリオに向かってそれを放つと彼は忌々しそうに私の体の上から退き、距離を取る。
「大丈夫?助けに来るのが遅れてごめんね」
「ケホッ、けほっ…大丈夫です…ありがとうございます」
女性は、細長い筒のようなものを吸血鬼に向け、視線を外さず私と彼の間に入ると手を添えて立ち上がるのを手助けすると、そのままジリジリと距離を取る。
「虫けらどもが…」
ヘリオは、地獄から聞こえたかと思ったほどの怒りが籠った声を出していたが、面倒なのか戦況が悪いのか舌打ちを残してコウモリに変身すると森の中に消えていってしまった。
「……ふう。意識はしっかりしている?居住区まで歩けるかしら?」
「は、はい大丈夫です…助けに来てくれてありがとうございます」
「嫌な予感がしたから、見にきてよかったわ…鳥達があんなに一斉に飛び立つなんて何かあったのかと」
周りを警戒しながらも、私を安心させるためかニコリを笑って落ち葉で舗装された道を歩く。
「とりあえず生還おめでとう、しかし初っ端から人形遣いに遭遇するとは運がない…機転を利かせて鳥を飛ばした私にも後でお礼を言うんだな」
途中、正確にいえばヘリオに襲われている辺りから居なかったマリアナがふわふわとこちらに戻ってきて、私の横を並走するように歩く。
そういえば、このハンターさんが鳥が一斉に飛び立って嫌な予感がしたから見に来たと言っていた…マリアナの機転のお陰で間一髪死なずに済んだということだろうか。
「ところで、お嬢ちゃんの目的地はソールでいいのかしら?もし、他の居住区に用があるっていうなら」
「あ、あのっ…私吸血鬼ハンターになりたくて…」
お姉さんは、驚きながらも足を止めることはなく、そしてにっこりと笑う。
「ええ、ハンターならなりたいという意志があれば誰だって歓迎よ、もちろんソールもハンター拠点だから、何も問題はないわ」
森の淵には、黒い傘が置かれておりそれを渡されると少し雲が晴れた空の下を歩く。その先には、大きな壁が佇んでおり、お姉さんと近くまで来ると館にあった扉よりは少し小さい扉があり、コンコンと叩く。
「ロピよ、ハンター志望の…」
扉の向こうとロピさんが、合言葉のようなものを言い合い状況説明に移ろうとしたが困ったようにこちらを見下ろす。
「あ、明香です。ロピさん」
先程練習した私の名前を告げると、ニコッと笑って扉へ話しかける。
「あすかって女の子と一緒、怪我をしているから手当をお願い」
しばらくすると門が開き、中には他にも大人がいてその奥では子供達がはしゃいでいるのが見える。
「ソールにようこそ。まあ、綺麗な白い肌に赤い爪痕が…すぐ、治療しましょう」
のほほんとした女性が奥からかけてくると、首元の傷を見てガッと私の体を持ち上げ、駆け出す。
見た目に反して強い力に目を点にして、ロピさんに助けを求める。
「ロ、ロピさん!」
「ふふ、ハンターになりたいならまず傷を癒すことね。そこからバイ菌でも入ったら目も当てられないから」
「砦の中は、案外生活感があるのだな」
ロピさんは笑って私を見捨て、本当に誰にも認識されないマリアナは、蝶のようにひらりひらりと飛び回り辺りを見渡していた。
運ばれる私を見つけたマリアナは、降りてくると助けることもせず後ろをのんびりとついてくる。
「痛かったね、医務室はもうすぐだからね〜」
「あ、歩けます!」
「いいのよ〜場所わからないでしょ?」
「ぎゃーー」
結局そのまま、横向きに抱っこされて居住区の中を突っ切り医務室まで運ばれたのであった。