04 外の世界の吸血鬼
マリアナは考える。
怒りで燃え盛る太陽を隠すほどの曇天、公爵の商品の出荷時期ということもあり一定数の吸血鬼は商品の到着を住処で今か今かと待っていると想定すれば、活発的に活動している吸血鬼の減少と見ることもできる。
そもそも彼女が出荷の前に連れ出さないといけなかった以上、これ以上のタイミングなど存在し得ないが…それでも、怖いものなど何もないと音を立てながら森を歩く同胞をどう振り切るかを考える。
進行方向はこの先で、人間の砦に入ることができれば残留した加護の力で中まで追ってくることはないが…この、クソ雑魚な明香ではまず逃げられない。
そして、今の私は同胞を退却させられるほどの現実干渉はない、強強吸血鬼ではあるがそれでも一度死んだ幽霊であることには変わりないからだ。
だが、詰みではない。詰ませることなどさせてなるものか、これ以上とない逸材…必ず、ハンターにし私の。
「マ…ゆ、幽霊さん!」
「人間の子どもがひとり何故、こんなところに?」
風が吹いたかと思えば、私達を見下ろすように先生よりも強い黄色の髪を靡かせながら、地上を焼き照らす火の球のような赤い目をした男性の吸血鬼?は私達を塞ぐように地面に着地する。
「あっちに向かってひたすら走りなさい!戦っては駄目、今の貴方では到底勝てない!」
「まあ、今の情勢ひとりの子どもなんて対して珍しくもないか、親を同胞に殺されひとり彷徨っている餓鬼など捨てるほどいるな」
咄嗟に、名前を隠してマリアナを呼べば吸血鬼が突っ立っている方角を指差す。
そして、出された無理難題に思わず目一杯にかっ開き抗議する。
「無茶よ!」
マリアナは、有無を言わせない声で私の抗議を切り捨てる。
「なら死ぬだけよ!」
男の吸血鬼は、感情の籠らない声で何かを呟くと白い光の線が手に集まる。
「『パフォーマンス』」
ええい、どうにでもなってしまえと白い線が絡まる手の指を鳴らした吸血鬼の側を駆け抜けダダダダと足を木の根っこに引っ掛けないように足を上げて懸命に走る。
「あああアアアあゝあ」
「は、離してっ…」
男の吸血鬼は目線で私を追ってはいたが、追いかけることもなく後ろから見続けていた。
そちらをチラッと一瞬見ていただけなのに、いつの間にか顔が異様に白い大人の人間に囲まれる。
足の合間から抜け出そうと駆け寄るが、ゾロゾロゾロと映画で先生達と見たゾンビのように人の壁が厚くなっていき動ける範囲が狭くなっていく。
「それは、あいつに噛まれて眷属化した人間だったものよ…ああなりたくないなら、走りなさい。居住区は目と鼻の先よ」
マリアナが、開いていた頭上から腕を引っ張って放り投げるように人だったものの外に出してくれた。
「驚いた、まさか人形達の壁を飛び越えるものがいるとは…もしかして、お前ダンピールか?…いや、同胞の匂いが一切しないから違うか」
ひとりの眷属の頭を踏みつけながら恐ろしい吸血鬼は優雅に地上に降り立ち、感心したような声を出す。
両手を大きく降り、落ち葉でふかふかな走りにくい地面を懸命に蹴るが、吸血鬼は必死に逃げ惑う虫を無慈悲に押し潰すように、首元を掴みそのまま地面に叩きつけられる。
「うっ…」
「人形どもには困ってないが…先程の跳躍力には目を見張るものがあった。私の所有物となる権利をやろう」
長い爪が皮膚に突き刺さり、白い肌に赤い血が流れる。
「私の名は、『人形遣い』ヘリオだ。まあ、すぐに忘れるだろうが冥土の土産にその足りない頭にたたき入れておけ」
酸素不足で視界がぼやける中、本能で暴れるが全く意に介さないヘリオと名乗った吸血鬼の鋭い歯が突き刺さりそうになった、その時。