45 裏世界からの放流種
「ハロハロ、信者のお前らキュートなわえのご登場だよ★」
扉を開けたのは、巫女の服に身を包んだ子どもだった。
その真っ黒い目には白い大きな星が浮かんでいる。
無駄に広い部屋で円卓に座っている者達は、何ひとつ反応をせず部屋には冷たい空気で満ちる。
「酷いのじゃ、こうすれば信者のお前らは泣いて喜ぶというのに★」
本来、円で囲み形式上であってもそこに立場の差はなく、全員が平等ということを指し示す筈の円卓には椅子が四つしか置いておらず、本来の意味は失われていた。
「てか、召集なんて五百年ぶりじゃな★つまらない内容なら帰ったら信者なお前らを殺すが」
「キュートじゃなくなっていますよ」
「おっとこれはいけない、いけない★今日はキュートな巫女さんと決めておるんじゃ★」
ニコニコとした可愛らしい雰囲気から一気にテンションが下がり、殺意で部屋を埋めると子どもらしいぽやぽやした体格から、すれ違った異性だけではなく同性すら目線を釘付けにする豊満な女性に早変わりした。
そんな彼女の数メートル先の横に座っていた、フリルが美しいドレスを身につけたメガネとおさげの女性はパタンと本を閉じると彼女に一言入れた。
巫女はいっけなーい★と自分をコツンと叩くとまたしても子どもに戻る。
その反対側の椅子に座るペストマスクに上から下まで黒い革製の衣服に身を包み、首からは赤いストラップを引っ提げ胸ポケットに入れている。
「シュー、シュー、シュー」
「『疾患』〜もっと大きな声で話して欲しいぞ★なんせお前は何言ってるのか分からん★」
「ぜんがいば、五百二十一年前だ」
「相変わらずこまかいな、殺すぞ」
「『信仰』」
「いっけね★」
キュートでなくなると子ども用の服はほぼ意味を成さず肩は丸出し、股下も数センチという際どい服装になるというのに信仰と呼ばれた巫女は面倒になったのか、そのほぼ着ているか怪しい姿のまま椅子に膝をつく。
「しーぜーんーあんたの半身(弟)でしょ!時間厳守位は躾けておきなさいよ」
「あら、信仰知らないのですか?この世界には時差というのが御座いましてね」
「知らなーい!私が絶対だもん!」
信仰がバタバタと暴れるものだから、元々小さな服がさらに肌けていく。
どしん…どしんと部屋を揺らして大男が到着した。
巨人という言葉がこれほどまで似合う者はいるだろうか…という程には大きな男だった。
姉である、メガネの彼女が手のひらに乗るほどには。
「オデが最後カ?」
「いいえ、私達が先に来ただけですよ『生命』」
「あー『自然』がまた甘やかしているー!くそー、二人で一つの『脅威』だからってエコ贔屓は悪いんだー」
ワイワイガヤガヤとしていた部屋の『暗闇』に影が集まる。
全員それを察知すると椅子から立ち上がり、暗闇が過ぎ去るまで石像のように動かなくなった。
暗闇は何かを話すわけでもなく、姿を表すわけでもなく自分の同族を一瞥するとフッと姿を消した。
しかし、暗闇が姿を消しても数分間は誰一人として指先ひとつ動かさなかった。
「ソテルを見たって本当?生命」
「あぁ、オデの手下の情報に救世主らしき人間がいタ」
「ああ、ああ、この時をずっと待っていたのよ!」
信仰は恍惚とした表情で机を叩く。
「神の傑作の『人間』と神の最終兵器の『吸血鬼』が力を合わせたまさに!夢のコラボレーション!是非とも、その命が欲しいわ!」
裏の世界より出て、事故によりこの世界に居座ってしまった彼らのことを誰かは『精霊』と呼称した。
生物としての破綻者、種全体が蠱毒という表世界にいてはいけない生物。
「神…ああ、世界維持装置のことですか。あれは、私達のことを目の敵にしているから私はあまり好きではありませんね」
彼らにとってー一般的な神の有無は知らないがー神というのは、目障りな存在であった。
神と呼ばれる、この星を運営する意志にとって生物という財産が巡回すればそれ以外は些事な出来事であった。
生物はあわや絶滅しかけても、どこかの人間が絶滅させても自然を壊しても…死んでまた循環するならそれは正常であった。




