39 吸血鬼ではない物
マリアナとの特訓の日々はそうして過ぎてった。
ハンターとしての特訓もあったが、今外に出ていざという時にフラッシュバックしても大変なことになるためソール内での仕事が主であった。
「っっっっっしょ」
「十秒突破〜おめでとう〜」
水面から一センチほど浮かび上がった水滴程の球体は、マリアナのその言葉を聞いてぴちゃんと元に戻る。
「しんどい」
「筋は…まあ、可もなく不可もなしかな。標準的かな」
「……そう」
水を操るのはとにかく精神力を使った。
たった十秒のはずなのに、数キロ綱渡りをしたような疲労感がある。
「…疲れた」
「地面に寝転ばないの」
地面に大の字で寝転がり、まんまるなお月様を見つめていた。
「今日は…もう寝よう」
そう上半身を浮かべた私の耳に入ってきたのは、けたたましい警報と放送だった。
「吸血鬼襲来!吸血鬼襲来!市民は避難を、ハンターは西門に至急集合!繰り返す、吸血鬼襲来!!吸血鬼襲来!!」
「……え?」
なんで吸血鬼が?
バッとマリアナの方を見上げると、いつの間にかいなくなっていた。
「吸血鬼襲来!吸血鬼襲来!市民は避難を、ハンターは西門に至急集合!繰り返す、吸血鬼襲来!!吸血鬼襲来!!」
「っ…早く行かないと!」
壁内で吸血鬼の襲来などソールが出来てから一度もなかったと聞いている…なら、何故?
報復の可能性があると、特別に与えられていた銃剣付きの銃を持って西門に駆けつける。
視界先にはマリアナが先に来ており、その表情は見えない。
「マリ…あれ何?」
視線の先には、西門で銃弾を受けながらも全く意に介していない動物がいた。
狼の体にヘラジカのような大きな角、鷲のような鋭い爪を持った何かがいた。
「えっと…マンティコアだっけ」
「それはライオンベースよ」
ちっと舌打ちをしたマリアナは、こちらを向くと声のトーンを変えることなく提案する。
「……明香、敵前逃亡する気はあるかしら?」
マリアナの提案に、ふるふると首を振る。
「これ以上居住区を失えない」
「そう…よねぇ。分かったわ…出来るだけ手を貸してあげる。
だけど、死にそうになったら逃げること、わかった?まだ、憑依のクールタイムも上がってないんだから」
有無を言わせないいつもにも増して真面目な顔と声で、マリアナが忠告する。
「わ、わかった」
近くにいたハンターに襲い掛かりその内臓を食べていたソレは、フクロウの様にこちらに頭を動かすと食い散らかした死体を踏みつけて、のそのそとこちらに向かってくる。
「走りなさい!!此処を守りたいなら離れなさい!」
マリアナの声を合図に全力でダッシュする。
背後では、マリアナが混乱の人々の中で『化合・雨』を発動させてソレの行く手を阻害するように振り下ろす。
砦の階段を駆け上がり緊急の紐を掴んで地面まで降ると居住区の外へ出てソールから離れる。
「マリアナ、あれ何!?吸血鬼!?」
「馬鹿言わないの!あれが吸血鬼なわけがないでしょ!それよりももっとやばいやつよ!というより、明香あんた本当に運が皆無ね!?凶星の星の下に生きていたりする?私が見えるから生きているわよね!」
マリアナが定期的に後ろを向き、刃の雨を降らしているが足音は全く止まる気配がしない。
「とにかく、この近くに小さな湖があったでしょうそこに行きましょう」
「わ、わかった」
森を走っていけば、あの湖よりはひと回り程小さな湖が月を空に浮かべている。
「今、チャージされている分を使ってトライデントを生成するわ。ブローチを掴んで両手を重ねて胸の前で構えなさい」
「わ、分かった」
言われた通りに、手を重ね力を入れる。
「『全なる涙・遺物生成』」
マリアナはその上から手を翳した。
すると、背後の水が竜巻のように手の中に吸い込まれていき、細長い三叉槍の武器が生成されていく。




