35 生還者1名
「相変わらず、逃げ足が速いなぁ」
直前でコウモリに変身して逃げられたため、何も貫かなかったトライデントの凝固を解除する。
バシャと大量の水が地面を濡らし、赤く染まった血の楽園の一部と混じって赤く濁っていく。
意識を巡らすが、吸血鬼の気配は存在せずまあいいかと旧知の彼を見送る。
青い色素が空中に消えていき、ふらりと体が崩れる。
「っっっっは」
酸素を求め肺を動かす、
ずっと水の中で息を止めていたと錯覚してしまう。
手を握り締めると、思った通りに動く…どうやら体の主導権が元に戻ったようだ。
「…あ」
「ほら、さっさとマディスにいきましょう?」
いつもの幽霊スタイルに戻ったマリアナが、やんわりと視界を遮るが幽霊の彼女では意味をなさない。
赤い血が、土を伝って私の靴を赤く汚す。
死体に囲まれ中で呆然とすることしか出来ない。
「明香」
「マディスに行くんだよね…分かってる…早く行ってみんなを回収して貰わないと…」
自分に言いつけるようにマリアナの言葉に答える。
「っ…」
前に進もうとした足にコツンと頭が転がってきた。
「そうだ…スワナレを…」
夢心地の中、ふらふらと森を飛び出して炎天下焼かれたスワナレの遺体の元へ向かう。
不幸中の幸いに、顔面が下になっていたためスワナレの顔は焼かれずに済んでいた。
「ごめんね…」
ぎゅっと抱きしめて、そこで始めて自分の状況に気づく。
「しまっ」
早く木陰に戻らなければ!
「落ち着け…熱い?明香」
駆け出そうとする私をふわふわと飛んできたマリアナがやんわりと制する。
「え?…あれ、なんで」
マリアナの言う通り、太陽の光を全身に浴びているのに皮膚は痒くならずポカポカとした気持ちの良い暖かさがある。
「まあ、そっちは駄目なようだから木陰には入った方がいいかもね」
「え?わ!」
日光に当たった腕の中のスワナレの顔が赤くなっていることに気づいて、慌てて森へと戻る。
マディスがある方向に、荷物を持ってマリアナと頭だけのスワナレと歩いていく。
「…あ」
建物の残骸のような場所にはまだ新しい赤い痕跡が残っており、散らばった食べ物には蟻が群がっており、一部はすでに野生動物に荒らされていた。
「何か、持っていけるものは」
「水ならいけるんじゃないかな?」
マリアナが指を振ると、バックの中に残っていた中で比較的残っていた皮で出来た水筒を取り出す。
「ありがとう…」
「また吸血鬼が来ないわけじゃないからさっさと行きましょう」
憑依もそう多用できないしね〜と前に進むマリアナを横目に、後髪を引かれる。
「明香」
無意識に戻ろうとする私を、マリアナがやんわりと引き戻す。
「夢心地の間に着かないとあなたが辛くなるわよ」
「あっ…ごめん」
それからのことよく覚えてなかった。
ただひたすらに、スワナレを落とさないように抱えてマリアナの背中を追って足を動かした。
マディスにたどり着いた時、迎えたハンターは絶句していたそうだ。
そりゃそうだろう、もうすぐ着くと待っていたらやってきたのは血まみれが一人と生首がひとつだけなのだから。




