34 最強の一角
人形技師の能力自体は、血を与え眷属にした者を操ることが出来るといったありきたりなものである。
その最大の特徴は、眷属にした生物はその瞬間から時間が止まっているというものであった。
老いることもなく、朽ちることもない、餓死することも、病気になることもない。
主である俺が生きている限り、眷属を解かない限りその者達は眷属になった瞬間であり続けた。
意識操作は出来るが基本生きてはいないが、死んでもいない意識を持たないそんな人形を作り出すのが俺の固有能力だった。
故に、幻覚や催眠といったものはこいつらには効かない…それに、こいつが本当にマリアナであるなら。
マリアナは、一番近くに居た人形の体にトライデントを突き刺すとそいつが吐き出した赤い血でその他の人形の首を円を描くように切り落とした。
彼らを操っていた糸がひとつ…ひとつと切れていき、最後にはひとつも残らなくなった。
カラスに繋がった糸だけが残った。
「『パフォーマンス』」
カラスに命令をして、住処に帰らせる。
西暦から共にいるあいつは意識を与えているため、特に問題なく帰ることが出来るだろう。
「相変わらずお前は、自分の能力に生存の縛りを設けているのかい?再三注意したが、お前は優しすぎるぞ」
人間の味方であるはずのマリアナは、先程まで生きていた人形の死体の中心で赤い池に足を浸かりながら呆れたような声で話しかけてくる。
「…本当に、マリアナなんだな」
「そうだと言っているでしょう?」
その、時折思い出したような柔らかい言葉も吸血鬼にすら恐れられた能力も…全てが間違いなくこいつは、吸血鬼の原初の真祖の一人であるマリアナであると突き付けてくる。
「人間を愛しているんだろう?貴様は…」
「そうだが?愛してないと契約なんてしないわよ」
たった今、大量の人間を顔色ひとつ変えずに殺したくせに彼女は人間を愛していると宣う。
「っ…なら、どうして人間のことを愛していながらそんなにも無慈悲に殺せるんだ!」
マリアナは、子どもの癇癪を仕方ないと受け入れる親のような顔で肩を竦める。
それもそうだ、この質問も何回目だ。
その度、受け入れなくて、また質問して、受け入れなくてを繰り返した。
「勘違いするな、立ち塞がるなら人間だろうが吸血鬼だろうが殺すだけよ」
一言一句変わらない言葉で、マリアナは下僕だったものから溢れ出す血で生成した赤い刃の雨を形成していく。
「お前ら年寄りの考えは分からない」
「奇遇ね、私も君が何を気に入らないのかを昔からずっと分からないの」
それが合図と言わんばかりに、無数の血の刃が俺に向かって降り注ぐ。
「…クソがっ」
マリアナの辞書に手加減などという言葉があるわけもないので、的確に心臓と脳天を狙ってきている刃を避けていく。
避ける度に、地面が赤く染まっていく。
手から糸を生成し、木々に引っ掛けて刃の一部を弾いてマリアナの方にお返しする。
「なんだ、糸だけも出せるんじゃない。変なこだわりは捨てる方がいいわよ絶対」
「こんの、くそチート!」
血の刃はマリアナに届くことなく、液体に戻り地面を汚す汚物に成り下がる。
「私より強い吸血鬼もいるわよ」
「おう、誰だ言ってみろ」
「……」
マリアナが一瞬考えたが、わっかんねと言わんばかりの顔で肩をすくめる。
「じゃあ」
すっと目の温度が下がり、彼女がトライデントを構える。
「また来世でね」
一瞬で間合いまで接近させられ、パチンとウインクをしてマリアナはトライデントを突き刺した。




