31 絶体絶命
「まだだ…まだ、私は…」
「………なんで」
ずるっ、ずるっと美しい赤い髪を燃やし切り、皮膚はただれ肉となり歩く度に体の一部の肉を失い一部は骨を露出させ…それでも、デルミーは赤い目を光らせて動く死体のようにこちらに歩いてきていた。
「私は偉大な…偉大な吸血鬼である!こんな…こんな死など受け入れない!お前の…お前の血を全て吸い取って私は生き残ってみせる!」
「ヒッ」
初めてこの吸血鬼に恐れを感じ、距離を取ろうとするが恐怖と痛みでそれすら叶わない。
「『化合』…ちっ、使いすぎたか」
驚いた顔をしていたマリアナが冷静に水の刃を生成しようとしたが、水は輪郭を取る前にシャボン玉のように弾けて消えてしまった。
デルミーは左腕を骨だけにしながらも、日陰に足をかけて勝ち誇った顔でその皮膚を失った恐ろしい顔で私を嘲笑う。
「懺悔は済んだか!?お前はこれからゆっくりと血を吸われ、私の一部とな」
「『エチュード』」
背後から、髪を靡かせる程の速さの何かが通り過ぎたかと思えばデルミーの腹を押して再び太陽の下に押し退ける。
「あああああ、誰だ!誰っ、私を誰だと思っているんだああああ」
「うるさい」
黒いカラスが、バサリと羽ばたいたかと思えばその厳つい爪でその体内を引きちぎり体内に日光を浴びさせる。
「くっそっ、くっそっ、あと少しだったのに、あと少しでぇぇぇぇぇ」
デルミーはそう叫ぶと、石のように固まったかと思えばサラサラと砂になっていった。
「…まーじか」
マリアナがその顔に汗を流し、はははと初めて焦った声を出した。
「やあ、君からすればお久しぶりでいいのかな?」
「お前は…」
ばさりとその肩にカラスを止まらせながら、金髪に赤い目をした男は私を見下ろす。
「「人形遣いヘリオ」」
ヘリオはまさか覚えているとは思っていなかったようで、おやっと感心した声を出す。
「まさか覚えているとは…君は人間にしては記憶力がいいのかな?」
ふとデルミーと彼の能力っぽいものを思い出して聞いてみる。
「…あんたも、剥製卿?っていう人の一族だったりする?」
ヘリオは、目をパチパチをしてから手を横に振る。
「俺が?あいつの?ないないない。そもそもお…私は彼とは初対面だ…多分」
あんなに顔が爛れていたら…もしかしたら会ったことあるかも?と少し不安になっている。
「明香」
マリアナが、地面に伏せている私に耳打ちするように声をかけてくる。
視線だけ動かして、返事をする。
「動ける?」
無茶を言わないでくれ、動けるならさっきの時点で動いている。
顔にありありと気持ちが浮き出ているのか、マリアナはそーよねぇと困ったように笑っているが、その目線は彼から離していなかった。
目線を戻してとりあえず情報収集をする、どうやら彼はお話に付き合ってくれるように見えた。
「何故ここに?私を追ってきた?」
「まさか?下僕は足りていると言っただろ?たまたま近くを通った時に声が聞こえたから気になっただけだ」
デルミーの仲間という訳ではないようだ、まあ彼に止めを入れたのはコイツなのでその線は元から薄かったが。
「なら帰ったら?」
「ところで」
デルミーの血に染まった髪とは違う、赤い炎のような目が細められる。
「ところで、前回の勧誘の件はどうかな?」
「勧誘…」
そこで、そういえば所有物にならないか?とかいう滅茶苦茶悪趣味な勧誘をされていたなとそこで始めて思い出す。
「私なら、君のその怪我も治すことが出来る…まあ、意識はなくなり私の人形と成り下がるが」
「ちなみに拒否権は…」
ヘリオは答えずニコリと笑うだけだった。
(ないと…)
体に力を入れて逃亡を図ってみるが、やはり痛みによって強制キャンセルされてしまう。
一歩、二歩と先程のデルミーと同じ構図の筈なのに妙な緊張感があるのは格の違いという奴なのだろうか。
(一難去ってまた一難か…)
その首を掴まれ、ゆっくりと持ち上げられる。
前回と違い首を絞められている訳ではないのでそこまで苦しくはないが、そうも易々と持ち上げられるとその細い体のどこにそんな力があるんだと、吸血鬼ってずるいなぁと思ってしまう。
「遺言はあるか?」
「そう…ね」
視線を動かして、マリアナを見る。
先生と似ているけど違う色の髪しか見えず、彼女は何かを考えているようだった。
「ない…かな」
「そうか」
ばちっと顔を上げたマリアナの夜空のような目と視線が交わる。




