30 奇跡は人を見限った
静かに受け入れた死は、叫び声によって中断される。
「うわああああああああああああああああ」
「なっ」
背中を押さえつけていた重しがなくなり、叫び声と共にデルミーの焦った声が聞こえる。
「…は?」
ぼんやりと思考停止していた頭は、その声を処理した瞬間覚醒した。
痛い体をなんとか動かして、声の遠くなった方向…森の外を見つめる。
「離せ!離せ!この、人間風情がっっっっ!」
「離すもんか、お姉ちゃんは私が守んだっ、私は足手纏いじゃない、私だって誰かを助けられる!」
「なんで…そんなことよりも、スワナレ!」
灼熱の太陽の下で、逃げたはずのスワナレとデルミーが取っ組み合っていた。
デルミーはスワナレを引き剥がそうとするが、スワナレはその両脚に引っ付きそれを許さない。
吸血鬼のデルミーはもちろんのこと、スワナレの衣服に隠れていない肌も赤く腫れその皮膚を爛れさせていく。
助けに行こうと力を入れるが、負傷した臓器と足首がそれを許さない。
「戻ってきて!ダメ、君じゃそいつは」
「小賢しい!!」
「ぎゃっ」
デルミーはスワナレの首根っこを掴むと、思いっきり森とは反対方向に放り投げた。
「スワっ…」
反射的に立ち上がり前に進もうとするが、満身創痍の体では立ったことすら意地であり一歩前に進んだだけでばたりと地面に倒れ込んでしまう。
「あぁ、くっそっ、なんで私がこんなっっっ目がっっっ!」
デルミーは太陽光を目に入れてしまったのか、目を手で覆って転げ回っていたが次第に動かなくなった。
「スワナレ!早く、こっちに!」
思いっきり地面に叩きつけられたスワナレは、地面にうつ伏せになり動かない。
その間も、皮膚は焼かれ続けており…ゆらりと煙が上がる。
ふわりと横に気配を感じる。
「マリアナ!お願い、スワナレを助けて、お願いだから」
何も感情のない表情のまま無言で手を翳す。
「マリアナ、お願い…森に連れ戻すだけでいい…ポルターガイストでそれくらい出来るでしょう…お願いだから」
スワナレの頭上に、カラスを斬り落とした時とは比べられないほど大きな刃が生成される。
それだけでいい、そうしたら私が意地でマディスまでおんぶして連れていく…それだけで。
しかし、マリアナはこちらを一瞥することなくその手を振り翳した。
水の刃は、先生の怖いお話で出てきたギロチンのようにすっと垂直に落ちるとスワナレの首を斬り落とした。
コマ送りのような世界で、宙を舞ったスワナレの青空と同じ目がゆっくりと瞬きした。
ニコリと、その目を細めて口角を少し上げて笑ったように見えた。
「あああああああああ!」
落ちた果実のように、元通りになった時間の世界でスワナレの頭は赤い涙の道を流しながら転がっていく。
その赤い道すら、太陽の熱が消し去っていく。
「どちらにせよ、マディスまでは保たないわ」
「そんなこと、やってみないと」
「そうして、苦しみながら殺すつもり?」
軽蔑でもなく憐れみでもなく、淡々と何も篭っていない目でマリアナは私を見下ろし現実をつげる。
「私だけ助かった」
「そうね」
「私だけ…」
確かな夢があった、確かな未来があった、確かな目標があった。
私より小さい子がいた、妹達と同じくらいの年齢の子がいた。
「私が…私が死ねば…」
マリアナは肯定も否定もせず、ただ地面に蹲る私のことを見つめていた。




