29 絶対的な力の差※多少残酷な描写を含みます
互いに互いの剣が当たるほど近い距離まで近付いてきたデルミーがこちらを見下ろす。
ふらっと体重が傾いて、腕が動く。
上半身を反らせて、最小限の動きで避けると体重を右に掛けてしゃがむ。
(いっ!)
全体重を掛けている右足に鈍い痛みが走る。
どうやら最初に急ブレーキをかけた時に足をやっていたようだった。
(それでも)
―ここで諦めるわけにはいかない。
剣をガラ空きの左側からその心臓を狙って突き刺す。
スローな世界で、デルミーは瞬きをし次にその真っ赤に染まった瞳はこちらを見下ろし、その口角を上げた。
ぐさりと剣は確かに肉を突き進み、赤い血液をその隙間から溢れ出して私の視界を赤で覆い隠した。
腹を思いっきり蹴られてその剣を突き刺したものごと吹っ飛ばされる。
「『二度目の死は訪れない(イーブン・デス)』は死体限定ではありますが生きているように動かすことが出来る能力です。腐敗という自然の摂理は覆すことは出来ませんが…その最後の時まで生きている時の姿を纏うことが出来るのです」
顔にへばりついた血を手で拭って、立ちあがろうとした。
「いっ…」
力を入れようとした瞬間、体内からも痛みが走りかはっと赤い血が口から吐き出される。
(変な所に入ったか…?)
「人間を操るのは…正直、私の理念に反するのですが…私のペット達の無念は晴らさないといけません」
「…人間」
「そうです?お知り合いですか?」
デルミーが指を鳴らすと、胸に剣を突き立てられたナナヤがふらりと一人で立っていた。
その両腕は引きちぎられたように無くなっており、彼の能力の効果なのか赤く血で潤った断面と白い骨が外気に触れている。
「っは…」
「二兎追うものは一兎も得ず…でしたっけ?銃があるのですからまだあの爆弾無礼な人間よりは戦えたでしょうに、私の可愛い犬達に目を取られたばかりに」
「その腕は…」
私の茫然とした声をデルミーがきちんと拾っていた。
「え、ああ」
およよと泣く真似をしていたデルミーは、すんと真顔になると至極当然のように吐き捨てた。
「私の左腕が吹っ飛ばされたので代わりに引き千切って差し上げようと思ったのですが…左右を間違えたばかりにこうなりました」
こんな些細なことを間違えるとは、真の美しさへ道はまだまだですね。
真っ白になる頭の中で何かを言おうとするのだが、考えがまとまらず息だけを吐き出す。
「あ、ちょっと待ってくださいね…んん、『俺のことを攻撃するなんてひどいじゃないか、仲間だろ』」
「っっっっ、死ね!殺す!」
真っ白だった頭が怒りの赤で染まり、本能のまま言葉を吐く。
「そんな怒らないで下さいよ、冗談ですって」
もう用はないとパチリと指を鳴らすと、糸が切れたようにナナヤの体が地面に倒れその両腕と私が突き立てた箇所から井戸水のように血を垂れ流す。
腕に力を入れ、無理やり起きあがろうとするがその前にデルミーに背中を踏みつけられる。
「あ、そうです。どうです?日向がすぐそこですが、逃げますか?」
「ぐっ」
目と鼻の先に広がるこの鬱蒼とした森と違い、熱くそして爽やかな外を指さしていた。
折れた肋骨が、ぐりぐりと踏みつけられるたびに刺さってはいけない所に深く突き刺さっているような気がする。
一歩も動けないことなど分かりきっているだろうに、デルミーは煽るような顔で手を翳す。
ぐちゃりと音を立てて、ナナヤに突き刺さっていた剣が抜け赤い血を滴り落としながらデルミーの手の中にある。
「女子供の肉はやらかいですから、私の美しいペットが生きていればあの群れのように食べて差し上げましたのに…残念です」
「それでは、さようなら食べる価値もない人間さん」
(ごめん…先生…公爵さま…)




