27 殺意からくる決意
横にいた狼の他に、後ろから現れた二体に加え先程のカラスの系六匹を同時に動かすその技量には流石吸血鬼と言わざるをえない、その代わり動き自体は大雑把なものであり、左右に動きを揺らして突進すれば、躱すこと自体は難しくない。
「ふふ、確かに私の美しいペットを無視するのは有効な手段ですが…良いのですか」
振り下ろした剣を舞のようにするりと避けると、デルミーは距離を取る。
彼自身も接近戦は嫌らしくやっと詰めた距離がまた開いてしまう。
「私のペットを避けて突進してくると言うことは…囲まれると言うことですよ?」
勝ちを確信したような嘲笑う笑みで、デルミーは首を傾げる。
「『化合・水刃』」
主人の命令に従い、私に勢いをつけて神風特攻してきていたカラスの体が現れた水のギロチンによって頭と胴体で斬り分けられる。
「『化合・水弾』」
そして続いた現れた人一人余裕で押し潰せる水の塊が現れると、斬り分けられたカラスの体を一つ残らず押し潰した。
まだ死体となって時間の経っていないカラスの血液によって、透明だった水は赤く染まりそして弾けた。
「………ハァ?」
「あら?随分と美しくない顔になりましてね?」
先程の豆鉄砲を受けた顔とは比にならない、口をあんぐり開けた無様な顔に安っぽい挑発をかける。
「…何をした。お前のような人間がそんな力を持っている訳がないだろ」
「そう?人間だって結構いるのよ?一人くらいいてもおかしくないと思うけど」
美しさは何処に、チッと舌打ちをしてデルミーは手を翳すと森の奥から見慣れた剣が飛んで来てその手に収まる。
「!、それは」
「無礼にも挨拶もなしに硝煙臭いものをぶつけてきた雑魚から借りたものだ…吸血鬼かぶれの愚かな人間は私が直々に罰を与えてやる。私の美しいペットが変なウイルスを持ってはいけないからな」
デルミーが持っていた剣は、紛れもなく私が持っているものと同じものだった。
それに、爆弾という発言…あれは間違いなく。
(…ライトーニア)
湧き上がる怒りを深呼吸で治める。
今はこいつの足止めが最優先、こうして私に執着してくれるのであればそれは達成したようなものだろう。
「なるほど」
カラスを地面の染みとした張本人のマリアナは、暫く考えていたが考えがまとまったのか頷いた。
背後で何か劈かれる音がした。
「…貴様っ、私の可愛いペットを!」
「マリアナ!?」
怒りに満ちた顔をしたデルミーを見て、慌てて彼女の方を向くと中々と頷きながら残りの五匹の狼を地面から生やした水の槍でぐちゃぐちゃにしていた。
元々死体となって時間が経過していたのだろう、腐敗しかけの狼達はその攻撃に耐えきれる訳もなくおおよそ生物からは流れない液体と異臭を放って動かない屍と化していた。
「制御下を解かれると死体となるのか…なるほど」
「ちょ、なんで殺したの!?」
いや、殺しても良いけど…殺す必要あった!?
前を向くと、可愛いペットを全て殺されたデルミーは恐ろしい顔でこちらを睨み付けている。
「いやぁ〜」
マリアナはまったく反省の色を見せずに、吐き捨てる。
「そんなに大切なら、あんな不可解な現象が起こった時点で避難させましょうっていう話でぇ〜自惚れた若造にはそれ相応の鉄槌を下さないと」
ニコリと笑うマリアナからは怒りの雰囲気が見え隠れする。
どうやら、デルミーの言動の何処かにイラッときみたいだ。
「まあ、これであれは君を殺すことに執着するでしょう…本当に死にかけたら助けるようにしますが、あくまでも自分の力で頑張りなさい。幽霊は万能ではないのでね」
「ははは…期待しておくよ」
ふわりと浮上して、マリアナが視界から消える。
再度前を向けば、デルミーが怒りを抑えて美しくあろうとしていたがやはりペットがたかだ人間風情に殺されたことが気に食わない様子だった。
しかも、吸血鬼の真似事のような不可思議な能力まで使っているのがその苛立ちに拍車を掛けているようだ。
何故か左腕が破けた装飾が煩いコートを投げ捨て、吸血鬼の念力でその長い髪をこれまた赤地に金色の模様が端に施されたリボンで器用に一つ結びにする。
「美しくない所を見せることを事前に詫びておこう…死ね」
ウエストコートも見るからに良いものであるというのが分かり、その整った顔と美しい髪剣を構えているのを見ると今までの言動を忘れれば、絵本に出てくる王子様のようでもあった。
しかし、こいつは人を殺すことをなんとも思っていない一般的な吸血鬼でハンターとして…一個人としてここで殺す以外の選択肢はない。
(今、ここで道が決まった)
ルーシュの元凶の吸血鬼に一撃入れたいという願い、ライトーニアの吸血鬼の過去に囚われずに生きたいという願い、ナナヤの吸血鬼に人間の意地を見せつけたいという願い。
マリアナの手をとってここまでやってきた。
ずっと一つ気になっていたことがあった…何故、彼女は吸血鬼肯定派の私を外に連れ出したのか…私が目にした吸血鬼の現実は箱庭の世界は夢物語だったのではないかと思う程に酷いものだった。




