26 死してなお動く屍
「そう…なのね」
「そうそう、君に聞いておきたいんだ」
デルミーは指を鳴らすと、倒れていた狼が彼の横にノソノソと歩いてきた。
確かにマリアナの刃は体を劈いたはずなのに…まるで、関係ないと言わんばかりに狼は傷口からドロリとした液体を撒き散らしながらも主人の命令に従う。
「食材は後何体いるんだい?質は劣るが…まあ、今回は鮮度を取るとしようか」
「教えるわけがないでしょう」
デルミーは残念と、やっぱりかという顔が合わさった顔で肩を落とす。
「やっぱりか、それをいわれたのは君で三回目だよ。言ったから助ける道理はないけれども、私達に食われることが君達の生き様なのに、そんな私達の命令に従わないのは…少し、質が劣るね。野生だからね、仕方ないかな」
「明香」
「いや、ここで殺す」
マリアナはやんわりと逃亡を促すが、それを問答無用で拒否して剣を掴む手に力を入れる。
「逃すことくらいなら、今の私でもあんな若造であれば出来るが」
「いやだ…」
今の私には、スワナレが逃げるための時間を作らなければいけない。
きっと皆、そうして…。
(まだ、死んだと決まったわけじゃ…ない)
そんな訳ないだろうと囁く悪魔を振り払って、目の前の吸血鬼に集中する。
今は、あの時とは違う…今なら、手も足も出ないというのはないと信じていたい。
デルミーは、降参しない私に呆れながらも余裕の表情で口元に手をやって笑う。
「余裕は美しい、慈悲は美しい、力は美しい…私は強者で君は圧倒的弱者だ。故に、美しい私は君にハンデを与えてやろう」
パチンと指を鳴らすと、上空から枝をバサバサと掻き分けてカラスが白目をむいて上空から落ちてきた。
あんな高さから落ちれば即死のはずだろうに、カラスはむくりと起き上がるとあらぬ方向へ折れ曲がっていた翼をバキバキといやな音を立てながら元に戻す。
「私の能力『二度目の死は訪れない(イーブン・デス)』は美しいものを操る能力だ、素晴らしいだろう。死んだ動物は美しい、私はまだ力が及ばずいずれこの子達は腐敗していってしまうが…その過程も恍惚とする美しさだ」
それを見ていたマリアナが説明を付け加える。
「多分だけど、剥製卿の一族かと」
「剥製卿?」
「操ることに特化した一族、昔剥製マニアの吸血鬼が居たのだけれども、自分で作った剥製を動かして生きているように見せていた吸血鬼が居たのよ」
マリアナの言葉を復唱すると、デルミーはますます意味が分からないと言った顔でこちらを見る。
「何故、我らの偉大なる真祖のあだ名を貴方のような野良の人間が知っているのですか?」
うーんと考え込んだデルミーは、ぽんと手を叩く。
「もしかして、何処かの吸血鬼の手下だったりしますか?それなら、そうと始めに言ってください。もし、そ」
「違う」
反射的に反論する。
「私は吸血鬼の手下なんかじゃない」
公爵さまは私の親であって、主ではない。
それに、彼の元から抜け出した以上もう彼の子どもでもないし、彼以外の所有物になるつもりも今後一生ない。
「…もしそうなら、殺す前に言って下さいねと言うつもりだったんですが…そうですか、違うのですね。なら」
指を鳴らすと、彼に仕える死んだ狼の死体が一斉に動き出す。
「ここで彼らの養分になって下さい」
「あの手下には構わないこと!もう既に死んでいる以上、本体を叩かない限り意味がないわよ!」
「分かってるって!」




