25 デルミー
「ご、ごめんなさい…私」
「大丈夫。私が助けるから」
揺さぶって、頬を軽く叩いてやっとスワナレの意識は元に戻った。
腰が抜けたスワナレを抱っこして、とにかくあそこから距離を取る。
「……」
宙を飛びながら、後ろ向きに飛んでいるマリアナの顔は険しく今この状況が油断出来ない逼迫した状況なのを突きつけられる。
森の外は完全に太陽が顔を出しており、逃げ出すことも叶わない。
それでも、吸血鬼もまた日光を苦手とするため森の端を駆け抜けていく。
(追いつかれる前に辿り着かないと死ぬ経験なんて一回で十分だって!)
この森には、他の皆も隠れているはずなのにやけに静かで自分の息だけが嫌に耳に残る。
想定したくない最悪を想定してしまい、その度頭を振ってひたすらに足を動かす。
今は、スワナレを連れてマディスに辿り着くこと以外に考えるべきではない。
ルーシュは、マディスで会おうと言ってくれた…だから、きっと会える。
「………!、明香止まれ」
「なっ…いっ」
マリアナの声に、反射的に足でブレーキをかける。
足首に鈍い痛みが走ったが、ぎゅっと腕に抱えるスワナレを落とさないように抱きしめる。
すると、目の前を狼が突っ切っていった。
「おや、どうにも鼻が効くようですね。いい食材になりそうです」
「吸血鬼っ」
横から現れたのは、赤い髪を靡かせた長身の吸血鬼だった。
「大切な私のペットが一匹お亡くなりになられてしまいました…まぁ、最近寿命も近かったのでいいですが」
吸血鬼の横には、生気のない狼が従順にこちらを見つめている。
「一人で逃げられる?」
「いやっ…いやだ、お姉ちゃんを置いていけない!」
スワナレを下に降ろして、ヒソヒソ話で話しかける。
彼女は首をブンブンと振って拒否するが、正直私の実力では守りながら戦うのは不可能に近かった。
「大丈夫、後で追いかけるから」
「で、でも…」
「スワナレ」
肩を持って目を見る。
「お願い」
その大きな瞳に涙を浮かべて、スワナレは歯を食いしばってから何も言わず進むべき方向へと走り出す。
「お前達」
「させるわけないでしょう『化合・雨』」
スワナレが逃げた方向に、吸血鬼は狼の一匹を放ったがそれが彼女に到達する前にマリアナが手を翳すと宙にきらりと輝く刃が生成されたかと思うと、狼に雨のように降り注ぐ。
「は?」
刃に劈かれた狼は、悲鳴ひとつあげずに地面に倒れ込む。
吸血鬼は、豆鉄砲を喰らった鳩のように目を点にしてその光景を見ていた。
「……吸血鬼…いや匂いがしない…だが、人間ごときにあんな技…」
呆けている間に、スワナレの背中は見えなくなっていた。
「ちっ…まあ、いい…後で探し出して殺せば良いからね…んん、混乱するなんて美しくないな」
先程の動揺を掻き消すように、吸血鬼は何故か肩から先がない左手を胸に添えてお辞儀をする。
「たとえ食われるだけの食材が相手でも礼儀を欠かさないこそ、真の美しい者へ至る第一歩」
真っ赤な髪に、真っ赤な目白い服がに身を包んだ吸血鬼は目を細めて微笑む。
「私の名前はデルミーと申します。冥土の土産にどうぞあの世でお友達にお教え下さい」
「…あんたが殺したの?」
腰に掛けていた鞘から剣を抜き取り、構える。
デルミーはニコリとその笑顔を崩さずに、軽く頷く。
「君のお仲間が誰なのか知らないけど…六体程度なら殺しました」
さらりとデルミーは当たり前のように告げる。




