23 恐怖の伝染
「そういうことや、あんたら片付けのテンポを上げるんやで、飲み物と干物は均等に分配しておき」
じゅっと昨晩汲んでおいた水を焚き火に掛け、ルーシュが周りに指示を仰ぐ。
「お姉ちゃん…」
「大丈夫。ライトーニアが連れて帰ってきてくれるよ」
不安そうに裾を掴むスワナレを落ち着かせて、残飯は土に埋めこれまでの試験の中で置いていかれたらしい器具は汚れがつかないように木箱の中に入れ、残骸の中の雨風が防げる元の位置に戻す。
後片付けが終わり、後は出発するだけなのだが…。
「まだ帰ってこないんかあいつ」
ルーシュの声には、焦りが見られた。
ナナヤがカチッとリロードして、その長い銃身の先をライトーニアが向かった先に向ける。
怖がっている子ども達を抱きしめて、建物の残骸に身を隠す。
もう、彼が向かって五分は経っている…まだ探しているのか…いや、彼はある程度探して見つからなければ切り捨てられる人物である。
最悪の事態を想定するには、爆弾の音が鳴らず全員状況が分からず動くに動けない状態だった。
バンと乾いた爆発音が静かな森の中の何処かで鳴り響いた。
「っ……お前ら、全員バラバラに逃げろ、良いか立ち向かうな生き残ることだけを意識しろ!」
ナナヤが、搾り出したような声で叫んで銃を構えて走り出す。
「おま、どこに行くつもりだよ!?」
「今ここで一番吸血鬼を足止め出来るのは俺だろ、ここは任せて早く行け」
「ふぜけるなよ、ナナヤあんたまで死にいくつもりか!」
その恐怖に耐えきれなくなったのは、人の感情に敏感な子どもが先だった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「まっ…」
腕に隠れていた子どもの一人が、耐えきれなくなったのか叫び声を上げながら湖とは逆の方向へと走って行ってしまう。
反射的に腕を伸ばすが、その手は宙を掴んだだけだった。
それに感化されたように、恐怖の水が決壊したように子ども達は訳も分からず無我夢中に足を動かしてこの恐怖から逃れようとする。
追いかけるため、立ちあがろうとするがぐいっと強い力によってそれすら叶わなかった。
「………」
スワナレが、恐怖により腰を抜かしたのか目線をその森の先に向けて小刻みに眼孔を揺らしながらその裾を掴んでいた。
はくはくと開閉するその口は、何かを紡ごうとするが恐怖という刃物がその糸を切り裂いていく。
「あいつらはうちに任せな、二人は避難しておき!」
ナナヤと言い争っていたはずのルーシュが、ウインクをして子ども達の方へと足を向ける。
「まって…だって」
「アスカ」
バラバラに逃げるというのは、誰かを生贄に一人でも生存確率を上げる方法だ。
それに吸血鬼の恐ろしさという点で見れば、私以上に知っているはずのルーシュはその顔に汗を流しながらも、こちらを安心させるために笑顔を浮かべる。
「集合場所はマディスやからな、火の球が落ちる方向に行けば着くから迷子になるんやないで」
「ま…ルーシュ待って私も行く!」
私の制止を聞かず、ルーシュはこちらから顔を背けると姿も見えなくなった子ども達の方へ走って行ってしまった。




