19 星に手は届かない
昔話が明香の番になったため、ふわりと浮上して近くにある木の頂点に着陸する。
地上では、地獄へと歩むまだまだ幼い子ども達が焚き火を囲んでわいわいと話している。
寝なくて良いのかお前らとも思うが、まあ夜更かしは子どもの特権だしなと視線を地平線に戻す。
私はこの姿になって色々見て回ったつもりだったが、ほぼの確率で会いたくねぇなぁと思っていた奴が確定で生存しているのが知れたのは朗報なのか悲報なのか。
「ま、生きているか」
性格も趣味もクソ野郎だったが、実力は確かな吸血鬼であった。
あのナナヤという子どもの話を聞いて、西暦の時代を思い出した。
「あの頃は、地球のほとんどが人間の物資で…いや、それでも物資は枯渇していたかしら」
このちっぽけな星に、七十億という人間が生きていて、平等に富を分けていれば枯渇する事などなかっただろうが、欲望と進歩、より良い生活と優位性を突き詰めるしかなかった人類はいつだって資源が足りないと嘆いていた気もする。
夜空には変わらない星が広がっている。
「オリオン座は…こんなに多いと逆に分からないわね」
ジジイが、いつかそう遠くない未来にオリオン座が肉眼では見られなくなってしまうのだと、光に満ちたこの現代でも多少の知識があれば見つけられるかの星が夜空からなくなるのは少し寂しくなってしまうなとぼやいていた。
あれから百年以上が経った今、オリオン座はあるかも知れないがないかも知れない。
少なくとも、暗い空を埋め尽くす夜空から特徴的な砂時計の形を見つけるのは難易度が高かった。
「変わったわね…」
夜を切り裂き、光で模った夜の世界はなくなってしまった。
太陽の下から追い出された人間は夜にしか住むしかないので、光がない訳ではないが…住める場所が限定されているためかこういった地平線まで居住区がない場所だと光のひとつもありゃしない。
星だってそうだ、どうにもこいつらは遠い遠い宇宙の果てから時間を超えて届いているらしい。
あの頃から届き続ける星はどれだろうか、あれから生まれた星はどいつだろうか…私が眠っている間に消えた星もあるだろう。
もしかすれば、あの日に生まれた星だってあるかも知れない。
「宇宙まで手が届いたのにな、どうしようもない愚かな種族だよ…まったく」
神が洗い流したのが地上だけなら、スペースデブリにはあの頃の残骸が残っているのだろうか。
「ふふっ、そうしたら古代核戦争並みの都市伝説が生まれるだろうな」
いつか、また宇宙に手が届く時が来たとして地球の周りを何かの残骸が回転していたら一体何を思うのだろうか。
「…くるだろうか、そんな日が」
あの頃(前回)とは訳が違う、人間の敵は同族、自然、獣以外にも吸血鬼がいる。
それに…。
ふと下を見ると、いつの間にか明香の話は終わっており彼らは驚きながらも良い奴らだったんだなと明香の話を肯定していた。
それを聞いた彼女は、箱庭を抜け出して初めて心の底からの笑顔を浮かべていた。
良かったな肯定してもらえてと内心微笑みながら、風に乗る獣の足音に耳を澄ませる。
確かにここは名もなき教会の跡地であり、吸血鬼は寄ってこないが野生の獣どもは話が別だ。
火を焚いてはいるが、火を怖がらない個体もいない訳はなく、あの貧弱を極めた単体だとクソ雑魚の人間は良い獲物になるのがオチなのである。
流石に予防できる脅威をそのままにするのも忍びなく、一本の刃を生成する。
「『化合』」
そして手を振り下ろせば、生物として本来恐るはずの火に引き寄せられる狼の真横に突き刺さる。
犬畜生は、きゃうんと情けない声を出しながら慌てたように踵を返して彼女らとは反対方向のきた道に逃げていく。
いつの間にか交代時間になっており、明香とナナヤはすやすやと夢の世界に旅立っている。
残った二人は、地図を取り出して入念にこの後のことを再確認していた。




