17 コロシアム
「はあーい、俺だぞ」
「先越された!」
ナナヤを押し退けライトーニアが手をヒラヒラと揺らす。
問答無用で後にされたナナヤが、嘆いている。
どうにも、彼にも彼なりのハンターを志した理由はあるようだが、どうしても外から来た私達に比べると弱いからと先に言いたかったらしい。
そんな嘆きを一刀両断して、ライトーニアはカラッとした表情で告げる。
「俺は、コロシアム出身の戦士だ。以上!」
「コロシアム?」
「古代ローマの闘技じょ…人間が戦っているのを見る娯楽施設のことよ」
「人間と人間を戦わせたり、人間と猛獣を戦わせたりしてそれを見る施設の名前だな。司会者がコロシアムって説明していたし、施設の名前だと思うぞ?」
マリアナが私の質問に反射的に答えようとして、途中で説明が随分と簡素なものになった。
(つまり、吸血鬼が人間を見る娯楽施設ってとこかな?)
マリアナの言い方的に、その元になったものが昔の世界にあるようだ…吸血鬼世界にも年長者は敬う文化があるのだろうか…それとも、長く生きている吸血鬼はもれなく全員化け物なのか。
「そこってどんなことしていたんだい?」
ナナヤが恐る恐ると聞いていた。
「どんなとこって…倒れたら死のデスマッチ」
「やっぱそういう系なんだね…」
知ってたさ…とナナヤが嘆いている、ついでにこれの後に僕のを言うのかとも嘆いている。
「ま、勝てば次の日も生き残れるんだから安いもんさ、どの道この世界は人間が生きるには過酷すぎる」
「ライトーニアが、戦い慣れていたのは…そう言う経歴だからなんだね」
「そ、まあ俺はそこまで過去を引き摺ってねぇし、実践の戦闘経験を積めたから悪くねぇとは思ってる」
少し闇を纏っていたルーシュと違い、ライトーニアは過去は過去と割り切っている様子だった。
「恨みも嫉みも一切なしだったからな、全員生きたいから戦っている。昨晩檻越しに話した奴と殺し合うなんてよくあることだったさ、だがそんな奴を全て殺したからこそ今の俺は生きている」
ライトーニアは、不敵な笑みを浮かべる。
「そんなあいつらの命も背負って俺は生きてんだ、過去に囚われて生きるのはまっぴらごめんだね」
「嘘こけ、いつか吸血鬼にも効く武器を手に入れて地面に膝を着かせてやるって言ってたやんけ」
「それはそれ、これはこれだな」
「よく、抜け出せたね」
思い出すのは、箱庭の聳え立つ壁。
娯楽施設ということなので、私の居たあの場所と違い吸血鬼の行き来が前提で建物が作られているのなら、抜け穴があるのかも知れないが。
「それは…俺が五年間勝ち続けたからだな」
ライトーニアが、思い出すように視線を外してからこちらに戻す。
「最強が居続けてもエンターテイメントとして、つまらないからと五年間勝ち越したら自由の身に慣れるっていうシステムだったんだよ…まあ、施設から出して貰えるだけだからソールまで来るのに苦労したが」
「吸血鬼って約束守るんだな…」
「ナナヤ、お前吸血鬼のことなんだと思ってんだよ」
ライトーニアがジトッとナナヤを怪訝な目で見る。
「え、あの糸目野郎約束なんて一日も覚えていたことなかったで」
「そこは個体差じゃないかな?」
思わずつっこんでしまったが、さて公爵さまはどうだったかな…そう言えばいつも些細な約束事でもすぐ手帳にメモしていた気もする。
「まあ、俺の話はこんなもんだ。だから、対人間も対獣もある程度は役に立つと思うぞ…まあ、ある程度だろうが…」
「随分、弱気だな」
「装備の差がなぁ…コロシアムはなんやかんや装備はきちんとしていたし」
なるほど、物資が困窮している人間の装備では力を全て発揮するのは難しいのか。
「ま、絶対的な信頼は困るけどそれでも期待はしておいてくれ」
「頼りにしてんで筋肉バカ」
「ハハハ、喧嘩なら引き受けるぞ」
「やめてくれ」
ナナヤがまたしても苦言を入れる。




