14 満天の星の下で
森を抜け、焚き火の材料を抱えて移動したり、食べれるきのみを採ったり二日程順調に旅路は進んでいた。
その日の夜空月が浮かんでおらず、月光によって隠れていた無数の光が所狭しと姿を現していた。
その圧巻の光景に言葉を失っていると、子どもが興奮して声でライトーニアをペシペシと叩く。
「すごーい!あの空に浮いてるぶつぶつは何?」
「知らん」
ライトーニアが子供の質問をバッサリ切り捨てて、それを見ていたナナヤが苦笑する。
「ルーさんは博識やから知っとるで、あれは星って言うんや」
「ルーシュすげー!」
「せやろ、あの暴力お化け頭まで筋肉のライトーニアとは違うんやで」
「あ?表でろやゴラッ!」
「二人とも、あまりはしゃいで体力使わないで欲しいかな」
森の停滞可能スポットに着くと、焚き火をして光を取る。
どうにも、次の区間は停滞可能スポットまで距離がある一番の難所らしく、ここで腹ごしらえをしてから仮眠を取り、火の球が顔を出す前に出発し昼頃に光の当たらない所で休憩を少し取り、停滞可能スポットまで行く算段とのこと。
子ども達は初めての外に流石に疲れが蓄積していたのか一人一人と夢の世界に旅立ち、スワナレも私の膝を枕にすぅすぅと寝息を立てている。
年長組は交代制で今は私と、ナナヤが夜番の時間だった。
「アスカ、何かあったか?」
「あ…いや、なんで吸血鬼来ないのかなって」
吸血鬼どころか、彼らの配下と言われている蝙蝠の羽音すら聞こえない。
パチパチと木が燃える音だけが暗い森に木霊して、世界に私達だけが取り残されたような気持ちにすらなる。
壁であったような痕跡が見えるものや、色とりどりのガラスの破片が落ちている箇所など何かがあったと言うのだけは推測出来る。
「それは…先輩達でも知らないそうだよ。けど、こういった建物の痕跡の一部は吸血鬼が嫌がって近寄らないんだってさ。全ての建物の痕跡がそうではないらしいから難しい所なんだけどね」
ナナヤはスワナレが起きないように静かに隣に座ると、お湯が入ったコップを差し出した。
「味はついてないんだけど…」
「ありがとう」
笑顔で受け取ると、ナナヤが微笑んだ。
ずずっと啜れば、味はついていないが森の中で焚き火を見ながら飲むのはなんだか風情があった。
そうでなくとも温かい飲み物というのはなんだか無性に安心した、知らず知らずの間に肩に入っていた力がふぅと息と共に抜けていく。
「僕は…」
ナナヤは焚き火の方を向いたまま、ぼんやりと呟く。
「僕はあの子達にあんなことを言ったけど…実は僕もソール生まれソール育ちでね、外に出るのは今回が初めてなんだ」
「そうなの?」
「恥ずかしいことに。だから、あんな偉そうなことを言っていたけど君やあいつらと違って、吸血鬼の恐ろしさは理解しているつもりでしかないんだ」
ナナヤは、麦のような色をした髪を炎に照らして恥ずかしそうに頬を掻く。
「アスカ、君にとって吸血鬼はどういう存在なんだい?」
ナナヤにとっても、あの残していった二人にとっても襲われない壁によって守られて生きてきた彼らにとって吸血鬼は実感のないものなのだろう。
「私にとって…」
『その気持ちは閉まっておいてね』
霙さんの言葉を思い出して、開いた口を閉じる…けど、私は私の気持ちに嘘を言いたくはない。
それが、私は死地へと赴ける原動力であるからこそ、偽りたくはなかった。
「大切な人。殺されかけたし、襲われたけど…私にとって大切な人もまた吸血鬼だから恨みたくはないかな」
少し目を見開いて驚いた様子のナナヤは、吹き出すように笑った。
「ごめん、ごめん笑うつもりはなかったんだ…でも少し安心して」
「安心です…か?」
ナナヤは、空になったコップを指に引っ掛けご飯の前に確保しておいた木の枝を炎の中に投げ入れる。
「なんというか…吸血鬼もやっぱり色々いるんだなって」




