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世界を裏切り、救世主へと至る者達へ  作者: 朝霧旺
ソール
11/47

10 それでも世界は続いている

 バサバサと鳥の群れが朝の訪れと共に、動き出す。

 鳥も、動物も、虫も、魚も相変わらず太陽の光の下で今日も元気に生を謳歌しているのだろう。

「太陽に嫌われた吸血鬼と、太陽に追い出された人間…眠っている間に随分と様変わりしたわね……本当に」

 明香が眠りについたので、居住区を守る砦に立って地平線から登る太陽を見つめる。

 前よりも眩しい気もするし、そうでないかも知れない。

 吸血鬼の頃は太陽を拝むなんてそんな神経を疑うような趣味は持ち合わせていなかったため、久しぶりに見た太陽の変化は分からない。

 今から約七百年ほど前、長く見積もっても千年以内のある日地上を洗い流すほどの大雨が何日も続いた…らしい。

 私は知らない。

 私はその前に死んでいるので知らない、だが幽霊となって調べていくうちにある程度のことは把握した。

 雨が降った、毎晩毎晩止まない雨が。

 水が押し寄せる全てをリセットせんと、選択を誤った世界への戒めのように、取り返しのつかない行き止まりの終焉を予防するために世界は最悪を選択した。

「舟がなくとも生物は繋がるのね」

 ノアは居ない、船もなかっただろう、それでも人類も他の生物も生き繋がっている。

 多少絶滅した種も存在するだろうが、それはこの星の終焉を食い止めるための最悪の代償といったところだろう。

 明香にノアの箱舟と言っても首を傾げるだろう、公爵は短命な夢で生きる彼女達に現実も、もう戻ることがない人間の栄光の時代教えることはなかった、だからか昔の知識が断絶している今の人類の中でも明香は特に無知であった。

 映画は見せていたらしいが、中身は厳選していただろうから幽霊やゾンビという俗物な知識にしかなっていないようだ。


「神は死んだ」


 今の人類には、神という概念がない。

 海を越えた大地には、存在するかもしれないがそれは今は横に置いておく。

 怒りで燃え盛る太陽の光の下では人間はまともに活動することが出来ず、進化を放棄した人類には適応する力は残されていなかった。

 カリスマ性を持った人間が居ないのか、太陽と吸血鬼という二重の脅威によってそのような余力がないのか、その概念を壊されたのか。

 少なくとも、吸血鬼はこの役目を無くした教会の跡地を毛嫌いし近寄らず、ただの水の癖に飲んだら太陽下でも多少動ける水など、神という存在が消え去った訳ではない、あれは確かに今も存在しているのだろうが…。

「生みの親の考えなんて分からんな」

 あれにとっての敵は、今も昔も変わらず一つだ。

 それでも、人間を昼から追い出しその繁栄を阻害しているあたり、人類は私の死後相当最悪の選択をしたのだろう。

「生き残った奴らは何を思ったんだろうなぁ…」

 少なくともだ、少なくとも腕の中に抱え込んだ人間に危害を加える奴は誰であっても許さなかったハイゼンが、短い幸せを提供し殺して売るようなことをしている段階で、想像以上にこの新時代は人類にとっても吸血鬼にとっても大洪水の再来後の日々は厳しい時代なのかも知れない。

 鳥がバサバサと慌てて飛んで行く、先程の群れに置いてきぼりにされたのだろうか。

「暇ねー」

 真っ赤に燃える太陽に目を細め、足をゆらゆらと揺らして生前ではあり得なかった青空を見るめる。

 いや、そうでもないか。

『マリアナよ、見てみるが良い。貴殿と同じ光が届かない深海の青色と比べれば偽物のように薄い青色じゃろ、夜空は確かに貴殿の瞳に似ておるが、空はこんなにも明るくもなれるんじゃぞ』

 あのジジイの瞳から見上げた青空は、今よりも薄い澄み渡った青色をしていたかも知れないな。

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