00 始まりの朝
―『幽霊』って知っている?
―んーん。それはなーに?
―先生達が言っていたんだけど、昔は夜には『幽霊』って言う恐ろしい存在がいたんだって。
―それなら、今は安心だね。
―だって、夜は先生達のような吸血鬼が守ってくれるんだもの、幽霊なんて怖くないよ。
「急がないと…」
空が少し眩しくなって月によって冷やさた空が暁光のよってジリジリと焼かれていく。
私と同じような遅刻さんな鳥達が羽ばたいて、薄明かりの空を自由に羽ばたいている。
私と同じで、帰るべきお家へと帰って行くのだろうか。
点呼が始まる前に部屋へ帰ろうと、先生達と植えた花達が風に揺られて踊っている中庭を抜けて近道をしようと駆け足で歩く。
絶えず、水が流れる噴水の音が聞こえる。
―特に変わりのない、音であった。
結露で潤った色とりどりの花弁が、きらりと光る。
―特に変わりのない、景色であった。
しかし、その時の私はふとそちらの方が気になって急いで駆けながらも顔を向けて噴水を見た。
そこには、見たことがないキラキラと煌めく銀色の髪をした背の高い女性がぼんやりと噴水の方を見ていた。
「……幽霊?」
急いでいたことも忘れ、数日前に姉妹達から聞いた単語を口から零す。
「ん?」
色素が薄く、体の先にある噴水を半透明にぼやかしながらも女性は私の声が聞こえたのか、ゆっくりとこちらに振り向き瞬きを数回した。
まじまじと見て初めて気づく、女性は足先がなく…というより足先に進むにつれて体が薄くなっていた、それは紛れもない姉妹達から聞いた『幽霊』の特徴であった。
「たいようが昇る時間よ、確か今の貴方達も駄目なのでしょう?」
「やばっ…点呼が始まっちゃう!」
恐ろしい存在とは思えない程優しい声の幽霊さんは、ひらひらと手を振って館へ入っていく私を噴水の側から動かずに見送っていた。
「私は暫くこの噴水の所に居るから、興味があるなら来ると良いわ」