第三十七話 クラスは混沌! アイスケの決意!
二年B組の教室は、今日も嵐のような歓声に溢れていた。
「真琴ちゃん久しぶりじゃ〜ん!」
「聞いたよ〜! あのファイアドレイク退治したの真琴ちゃんなんだってね!」
「さっすがSランクの真琴ちゃん!」
「わ〜! 今日も可愛い〜! お肌もツルツル〜!」
「あっ! ずるい私も〜!」
フェロモンでも飛散してるんじゃないかってくらい、真琴を囲む女子たちの甘ったるい声が沸いていた。
玉座の如く悠然と椅子に腰をかけ、はだけた足を組み、ネコミミを撫でられ頬を指で突かれ、満悦そうに真琴は微笑んだ。
「ごめんよキュートな子猫ちゃんたち。どうか許してほしい………ボクはとうとう、本命を見つけてしまったみたいだ」
指を振るうと、ふわっ、と緩やかな風がひまりの背中を押して、そのまま真琴の腕に抱き寄せられた。
「この子がボクの運命のプリンセス、ひまりちゃんだ」
少し低い声で耳元に囁くと、ひまりがはぅ、と小動物みたく声を漏らした。
「きゃあああああああああっ!!」
「美少女カップルううううううううっ!」
「萌えええええええええええええっ!」
女子たちは火が噴き出そうなまでに真っ赤な顔で、きゃあきゃあと黄色い悲鳴を上げてはカシャカシャとスマホで連写する。目眩を起こして机にもたれる者もいた。
「うちのクラスの女子たちって………もう女だけの楽園が出来上がってるよな………」
「野郎どもは眼中にねーみてーだ…….」
甘いフェロモンゾーンを横目に、男子たちは儚げに呟いた。
「ココロちゃん好きーっ! 好き好きーっ!」
「噛むんじゃないわよ! 噛むんじゃないわよ!? っだああああああああっ!!」
犬猫コンビこと、姉のココロとその背中にのしかかる妹ユメカ。ぎゅうっ、と腕を回して抱きつくまでが微笑ましい姉妹のじゃれあい。それも数分の愛撫、首に牙が刺さった瞬間、ココロは痛烈な絶叫を上げた。
さらに教室では少し低音な歓声も沸き上がっていた。
「アイちゃぁぁぁぁん!! ほらほらこっち向いて!! あ〜〜〜〜可愛いぃぃぃぃ〜!!」
「アイスケ、こっちだ。小舅じゃなくて俺のレンズを見ろ」
死んだ魚の目をしたアイスケ。
サングラスを両手に抱えて額まで持ち上げていた。ちなみに黒スーツは教頭にどやされて、いつものピンクパンダのジャージに戻った。
その前でボタンが壊れるんじゃないかってくらい、スマホで連写する二人の少年。
言うまでもなく、ブラコン兄のユウキと、幼馴染の不良少年、緋色だ。
「アイちゃんアイちゃん! お得意のウィンクして!!」
ぱちっ、と死んだ魚のような片目を瞑った。
「アイスケ。可愛く舌出してみろ」
べーっ、と嘔吐する一歩手前みたいに舌を出す。
ごくり、とユウキと緋色は固唾を飲んだ。
「「鬼可愛い」」
どうやらボタンより前に脳みそが壊れているようだ。この若さで可哀想に。
まぁこれもいつものことなので、「被せんな!!」と目から火花を散らし始めた二人はサングラスと一緒にさて置いといて、アイスケはひまりの方を見る。
びくびくと震えるひまりを腕に抱いた真琴と目が合うと、奴はにやりと薄ら笑いを浮かべた。
ぐっ! とアイスケは歯噛みして、今にも殴りかかりそうな腕を僅かな冷静さで抑えた。
さっきも露払いとして叩き潰すどころか、一瞬で返り討ちにされた。触れることすらできなかった。それでも奴は、小学生でも見て分かるほどに手加減していたのだ。毛ほどの魔力であの威力だ。悔しいが、力量では歯が立たないのはとうの昔から理解している。している、が、諦めるものか!
『ほ、他の連中よりはっ、信頼、でき、る………』
あんなにデレた超レア級な凛に頼まれた大役だ。
この尻尾が折れる覚悟を持ってでも、成し遂げなければ!
「おい真琴!!」
アイスケの雄叫びが、教室の音を止めた。
クラスメイトの視線を四方八方から浴びながら、アイスケはびしっ! とライバルに指を差す。
「お前にはぜってー負けねえからなッ!!」
雄々しい声音で響かせた、アイスケの宣戦布告。
ひまりの潤んだ満月の瞳。
ふふん、と真琴は、いつものように鼻を鳴らすだけだった。