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第三十二話 突撃部隊の個性派たち

「はぁ〜〜〜〜〜、緊張しましたぁ…………」


 突撃部隊会議室を出たベリーの横を並んで、盛大な嘆息を漏らしたのは、後輩のひいらぎ 出雲いずもだった。

 空気が抜けたバルーンみたいにへなへなに脱力する様を見て、ベリーは苦笑する。


「柊くん、本部こっちの緊急会議は初めてでしたね」


「もう人数から威圧感まで何もかも規模が違いすぎますよぉ………あ〜頭痛と腹痛と吐き気と目眩が一気に………はぁ〜〜〜〜………」


 柊は、北海道支部出身で、四月に入ってから本部へと派遣された若手の騎士。入団当時は期待の新鋭と噂が立っていたようだが、蓋を開ければ極度のあがり症で、会議中はおろか事件現場でもカクカク人形並みに硬直してしまい、手練れた剣術もいざという時には空振り三昧という残念中の残念な男だ。あまりの不出来に呆れた上層部から、日本一周レベルに部署をたらい回しにされ、ついには究極の修練に励めと無理往生に本部へ投げ込まれたという。


「しかも俺、警備部隊のパトロールの増援に入れとか………めちゃくちゃぞんざいに扱われてません? もうみんな蚊帳の外だと思ってません?」


「そっ、そんなことありませんよ! 柊くんは頭もいいですし、気が利く子ですし、まだまだ伸びしろがありますよ! 現場に慣れたらあがり症もきっと治りますから!」


「それ地元の上司にも言われましたけど、もう入団して五年は過ぎてるんですよねぇ………あはは」


 遠い目をしてしらけた笑みを浮かべる柊に、ベリーはあたふたとする。


「だっ、大丈夫ですって! ひ、柊くんは他にも、ご飯も残さず食べますし、好き嫌いもしませんし、ほらっ! こないだのお昼もスーパーのお刺身の中のギザギザ葉っぱもムシャクシャ食べてたじゃないですかぁ!」


「ただのやばい人にしか聞こえないんですけど…………あれ刺身と間違えて食べただけなんで武勇伝みたく言わないでもらえますか?」


 うぅっ、と笑みが引きつるベリーを見て、柊の顔が綻びて、吹っ切れたように笑った。


「ベリー先輩って優しいですよねぇ。失礼ですけど、魔王の子だっていうのが信じられないくらいです」


「はは……威厳がないとは弟妹たちにもよく言われます」


「でも、お兄さんって感じですよ」


 ぐーっと、柊は腕を上へと伸ばす。


「何かちょっぴり元気出ました。ありがとうございます」


「あまり気負いすぎないでくださいね」


「先輩も。優しいあまりに悪人に騙されないでくださいよぉ?」


 ニヒルに笑ってからかうように言った柊に、ベリーは微笑を漏らした。


「じゃ、俺いってきますね」


 柊は言うと、颯爽と背中を見せて駆けて行った。


 ベリーはひらひらと手を振って見送る。


「!」


 その背後から、シュッ! と残像が走って風が舞った。


 頭上から榛色の髪をなびかせた男が降り落ちて、筋肉質な腕がベリーの肩に回った。


「よっ! 元気か?」


 突撃部隊隊長の宝坂 鷹尾が、ガサツな笑いを飛ばす。


「鷹尾先輩!! 毎度毎度空間移動(テレポート)で現れる癖やめてもらえます!?」


「いーだろぉ〜? 宝坂の挨拶みてーなもんだよ」


「心臓に悪すぎます! 老人相手にやったら卒倒ですよ!?」


 天性血統、宝坂一族は「時空の加護」を持ち、騎士団にもその逸材の強豪たちは栄光なる戦力を咲かせている。しかし今、勇者班の長期の出張に多くの増援として町を離れ、本部に残ったのはこのへらへら笑い耳のピアスを銀光りしたチャラ呼ばわりされる鷹尾一人だった。


 ベリーにとっては高校時代からの付き合い。隊長相手といえどわしゃわしゃ髪の毛を撫でられては、ジト目で睨み返すほど二人の距離は遠いものではなかった。


「っていうか先輩、今屍食鬼(グール)の裏ルートをハッキング中でしょう?」


「おう、サイバー班に任せてるわ。暇だから来た」


「こんな大事件だっていうのに………相変わらず呑気ですね」


「流されず染められず、マイペースが俺がモットーなんですぅ」


 鷹揚な笑みでのんびりと語る鷹尾に、ベリーは今日で数十回目の嘆息を漏らした。


「はぁ………柊くんにも雑用ばっかり与えて………彼、結構落ち込んでましたよ?」


 あー? と鷹尾はうざったそうに唸った。


「だってあいつ昨日の屍食鬼グールん時もテンパって空振りさせたうえに後ろから食われかけてたんだぜ? いちいちフォローする身にもなれってんだよぉ〜」


「フォローするのが隊長の役目でしょう」


「お? さっきから生意気ばっか言う口はこれか? ん〜?」


「いだゃだだだだだだっ!」


 へらりと意地悪そうに笑いながら、鷹尾はベリーの口端を引っ掴んでつねった。


 廊下を歩く何人かの隊員らは、それを横目にぷっと吹き出す。


 名家の騎士と魔王の子のじゃれ合いは、今に始まったことではない。これが不思議に、違和感も思わせないのだ。


「いいのかぁ? そんな態度で。お前のだ〜いすきな嫁ちゃんのフィギュア、ゲーセンで当てちゃったんだけどなぁ〜」


「わあああああああっ!! それはっ!! フルーツ・ラブカスのいちごちゃんの水着バージョン!!」


 鷹尾が上からぶらつかせたのは、苺柄の水着を身に纏う美少女のフィギュア。

 フルーツ・ラブカスとは、ベリーの長年ハマっている歴史あるギャルゲーで、特に甘えんぼキャラないちごちゃんは自宅の部屋に特大ポスターを貼るほどの推しキャラであった。ちなみに天井のポスターは同部屋の鬼畜な弟が「視界の邪魔」だとイラついて雷鳴と共に散らしてしまったとか。


 そんな悲しい思い出はさておいて、頭上にブラブラする艶かしい嫁を前に、ベリーの目は爛々と光った。

 ぴょんぴょんとうさぎみたいに跳ねて手を伸ばすが、長身の鷹尾はサディスティックな笑顔で嫁ことフィギュアを上下に揺らした。


「ひどいですよ先輩!! いちごちゃんのことビッチ呼ばわりしてたくせに!! いらないなら僕にくださいよぉ!!」


「ん〜? 先輩かつ隊長サマの俺に尊敬の気持ちがない後輩にはご褒美はやれねえなぁ〜」


「先輩尊敬してます!! 先輩イケメン!! エリート!! 天才!! 浮気性!! どクズ!!」


「最後の方ディスってんだろ!!」


「早く水着いちごちゃんください!! パンツを捲らせてください!! Fカップのおっぱいを見せてください!! 乳首をッ!! 乳首を見せてくださいッ!!」


「分かった分かった!! 落ち着け!!」


「乳首いいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


「分かったやるから黙れっ!! ほらっ!! いちごちゃんやるからっ!! マジな顔で卑猥な言葉叫ぶんじゃねーっ!!」


 サディスティックからニヒリスティックな表情に一変、鷹尾は押しつけるようにいちごちゃんを手渡しすると、虚な目でか細い吐息を漏らした。


 対してベリーは、ぱあっ、と花火が弾けるような満面の笑みで、いちごちゃんとご対面している。


 「カブトムシゲットしたぞ!」という台詞がお似合いのいたいけな少年のような顔で、カブトムシならぬギャルゲーの嫁 (水着バージョン)をほっぺにすりすりしているのを下目に、鷹尾は呟いた。


「ほんっと、お前には昔っからかなわねーわ………」


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