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第二十五話 泥沼関係、衝突!

「ぷりん、せす?」


 ひまりは朧げに反復して、首を捻る。


「アモーレ!! グラッチェ!! 素晴らしい!! ずっと探していた………キミのような光り輝くプリンセスを!!」


 真琴が紅潮した顔で興奮気味に叫ぶと、ひまりはびくりと肩が跳ねて、

 手を強く握り締めると、あわわ、と狼狽えて、

 ネコミミフードの中の顔が触れそうなほど近寄ると、ひゃいっ! と小さな悲鳴を上げた。


 小動物を追い詰めるじゃじゃ馬のような絵図だ。


「まるで舞台のヒロインだ………可憐で、華奢で、純真で、可愛らしい!! ああ………そのいたいけな瞳に吸い込まれるようだ………!!」


 と、言葉の通り、真琴は真っ赤な顔でぷるぷる震えるひまりの方へさらに顔を寄せ、額と額がくっつき、まつ毛とまつ毛が交差して、小さな唇同士が重なろうと────



「ちょっと待てゴラ────────!!」



 重なる寸前に、アイスケは真琴の背中を引っ掴んで引っぺがした。


「テメーひまりちゃんに何やらかしてんだ!! 可愛かったら何でもしていいとでも思うなよ爽やかセクハラ野郎!!」


 真琴はうっとうしい虫でも見るような目でアイスケの方へ振り返る。


「邪魔しないでくれるかな? 今、プリンセスとの愛を確かめ合っているところなんだ」


「完全に一方的な愛だろーが!! ひまりちゃん見てみろ!! ガチで怯えてんぞ!!」


 と、涙目でひっくひっくと嗚咽を漏らすひまりを顎で指した。


 真琴はにやぁ、とほくそ笑む。


「泣き顔も可愛いぃ………」


「変態かっ!」


 危うい性癖に目覚めそうな幼馴染かつライバルに、アイスケは激しいツッコみを入れた。いや、違う。とっくの前に目覚めてしまっているのだ。このミュージカルオタクのキザ少女は。


「ん?」


 真琴は訝しげに首を捻る。


「アイスケは、このキュートなプリンセスの知り合いなのかい?」


「あっ、あのっ、アイスケくんは………私の………」


(よし、ドヤ顔で言ってやれ、ひまりちゃん)


「アイスケくんは、私の………は、初めての人なんですっ!」


(ちがあああああああああう!! もうそのネタ流行らせないでえええええええ!!)


 は? と、真琴は目をぱちくりさせる。


 ひまりはドヤ顔か泣き顔か分からない曖昧な表情だが、ぶん、ぶん、と強く頷いていた。


 ゴッ、と真琴の瞳に殺気の光が宿り、アイスケを睥睨する。


「ボクの運命のプリンセスの純潔を…………キミは奪ったっていうのか………」


「ちっ、違う! そういう意味じゃなくって!」


 珠里様には及ばないが、男顔負けのドスの効いた低音ボイスが唸る。


「幼稚な色気しか出せないチビだと思っていたが…………どうやら侮っていたみたいだ。恐ろしい! 魔性の幼児めっ!」


「どいつもこいつも俺を淫魔みたく言うなっ!」


「ここで決着をつけようか………キミにだけは負けたくない」


「なっ………お、俺だって! お前にだけは勝ってみせるよ!!」


「けっ、喧嘩はダメなのです!」


 目から火花を散らし合う二人の間に、ひまりが飛び込んだ。


 アイスケを庇うようにして両手を広げて立ち塞がる。


「ちっ………手懐けたか………」


 真琴は不愉快そうに眉を吊り上げた。


 はぁぁああ、とアイスケはうんざりといったようなため息を吐く。


「だーかーらー、初めての友達ってやつだよ!」


 は? と真琴は目を細めた。


「そうだよね? ひまりちゃん? ちょっと言葉が足りなかったね?」


「はい! アイスケくんは私の初めてできたお友達ですっ!」


「頼むから次からそう言ってね」


「はいっ!」


 二人のけろりとした平穏な会話に、真琴はまた目をぱちくりさせた。


「ただの………友達なのかい?」


「そーだよっ! 清く正しい友人です!」


「清く正しく美しく?」


「それはジュエル歌劇団のモットーだろ! あーもうそういうことにしとけっ!」


 アイスケは半ばヤケクソに啖呵を切った。


 とにかくひまりのことで変な誤解は招きたくない。


 朝にも思ったことだが、中学生のゴシップ好きは深い経験上からしてかなり面倒くさいものなのだから。


「友達、ね………」


 ふぅ〜ん、と真琴はちょっとつまらなさそうに、二人を見交わす。


「その割には随分親しげに見えるけどな」


「友達なんだから親しくて当然だろ。あ、何? お前妬いてんのか〜? らしくね〜ぞ〜?」


 にやにやと意地悪な笑みで肘で突いたアイスケに、真琴は少し呆れるように半眼で見た。



「で、その友達のピンチにキミは何もできなかったってわけだ」



 ぐっ、と、その言葉は冷たいナイフのように胸に刺さった。


 怒りと悔しさが入り混じった負の感情が、腹の底から込み上げるが、口をぱくぱく開くだけで、言い返す言葉も浮かばずに、アイスケは、ぐぬぅ、と押し黙った。


 ふふん、と真琴は上機嫌に鼻を鳴らして、満悦の笑顔でひまりの方へ向いた。


「ひまりちゃんって言うのかぁ………可愛い名前だねぇ。ボクもそう呼んでいいかな?」


「えっ、えっと、あの………はい………」


「そんなに怖がらないで。ボクもキミと親しくなりたいんだ。そうだ! まずは、お友達から始めるっていうのはどうだろう?」


「は、始めるって………何を?」


「ふふふふ」


「ひまりちゃん!! 聞くなっ! そいつは悪魔の囁きだ!!」


「悪魔はキミだろ」


 アイスケの野次に一睨みして、またにっこり笑顔をひまりに向ける。


「ボク………キミと友達になりたいんだ………だめ、かな?」


 真琴はもじもじと指と指を合わせて、顎を引いて二重瞼のぱっちりお目目を憂わしげに潤ませた。


 うっ! とひまりは赤くなり、胸を押さえる。


「あっ、はっ、はい………おっ、お友達でしたら、私もほしかったので………よ、よろしくお願いします……」


「やった! ありがとう。プリンセスひまりちゃん」



 真琴は勝ち誇ったように笑うと、ちゅっ、とひまりのおでこにキスをした。



 ふにゃぁっ! とひまりは赤面しておでこを押さえる。


「安心して、友達のスキンシップだよ?」


「す、すきんしっぷ?」


「そうそう、後ろの悪魔兄弟なんかいい歳こいて毎日ちゅっちゅっしてるキス魔家族だよ? それに比べたらまだ清いものだろう?」


 その、後ろの悪魔は真っ黒い瘴気をツノから噴き出している。


 カッ、と紅い目が火がつくように開眼した。


「ふっざけんな変態ペテン師野郎────────っ!! テメーはひまりちゃんの半径十メートル以内に近づくんじゃねぇ────っ!!」


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