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八咫ノ鏡 ーYATA NO KAGAMIー  作者: Alphonse Child (アルフォンス チャイルド)
2/2

第一話「世界の異変」

ここからが物語の始まりです。

 


 :2009年―。


 ――そこは英国イギリスの首都【ロンドン】

 歴史的な建造物や街並み、2000年以上にも及ぶ歴史財産が残る古き良き街だ。かつては多くの観光客が賑わいそれらを見に訪れていたのは過去の話。


 現在のイギリスでは、3年前から続く深刻な寒波の影響で空路や海路などの交通機関が閉ざされ、それによって他国からの物流や貿易、それに観光業が全面的に止待ったことによって、イギリスは絶大な経済打撃を受け続け、国力だけで立て直さなくてはいけない程の危機的状況に追い込まれていた。

 それはまさに国自体が崩壊一歩手前、いつ市民の暴動や大飢饉が訪れるか分からない状況だった。


 しかしこの状況はイギリスだけに限らず、世界各国いわば日本やアメリカといった四季のある国々だけがこのような深刻な寒波の影響を受けている。


 だがそれ以外の国々では、一年中温暖の国は極度に気温が下がり、寒冷国はまるで熱帯のような温暖状況の突如の変化、それらの温暖気象異常によって言わずもがな慣れない気温差に適応出来ず死んでいく者が後を絶たず世界各地でこのような気象異常が続いている。


 地球災害とも呼べるこの異常災害の兆候は15年前の1994年から見られ、最初は地震や津波、噴火などの自然災害が各国で頻繁に発生するようになり、その後世界各地で謎の伝染病も蔓延するようになり死人が山のように積みあがった。


 そして特効薬のおかげで伝染病がある程度消息した頃、メディアや一部のインフルエンサーがこの自然災害や伝染病は人為的起こしたものだと、世界に暗躍する裏の秘密組織、または何処かの国が世界の主導権を牛耳る為に兵器を使って戦争を起こそうしているに違いないなどと、ここぞって陰謀説を唱える者達が数多くいたが、全世界でそれも度重なる異常なまで発生し続ける自然災害や気象災害によって、日に日にそう言った声も小さくなっていった。


 そして世界各地の学者たちが、血眼になって原因の究明に取り掛かっているものの、未だに光明は見えづ現在もまだ足踏みをしている状態が15年も続いていた。


 そして現在ロンドンでは8月なのにも関わらず、寒波の影響で雪が降り積もり一帯は雪景色が広がっている。

 雪が降り続けるロンドン市街の道路を走るのは自動車ではなく大きな除車が列をなして巡回している。

 これも国の方針によるもので、3年前からロンドンでは自家用車の使用を禁じられている。その原因としてやはり一日中降り積もる雪を速やかに除雪する為に自家用車は除雪車の侵攻妨害の要因なるとイギリス政府は思い至ったのだ。


 それによって市民たちの公共交通機関の使用は地下鉄と時間指定のダブルデッカーに制限され市民たちの不満は雪のようにつもりに積もる一方だった。


 場面は移り変わり、そこはロンドンの中心地から然程離れていない郊外にある街【ハムステッド】

 本来なら最近の流行を取り入れたお洒落な雰囲気を醸し出した様々なお店が並び、それにどこか気品さと良き古き素朴な雰囲気が残る素敵な街の筈なのだが、こんな状況下もあって今はあらゆるお店が閉店していて、今だに営業を続けているお店は数えるほどしかない。

 それは歩道を往来する住民も然り疎らだ。


 こんなフィンランド並みの極寒に近い寒さの中を、仕事や買い物以外で好きこのんで外出する物好きなんてロンドン住民でごく僅かだろう。


 まるで壁のように並び建つ赤煉瓦色の建物の傍の歩道を腕に紙袋を抱えた一人の少年が、急ぐように歩いている。


 防寒具やズボンそれに靴下を最低でも2枚以上重ね着している事もあって、彼の姿はまるで頭から下は若干ふっくらしている。


 それでも外出する他のロンドン市民と比べてまだ少ない方で、稀に五枚以上重ね着る人もいるぐらい、今のロンドンの気象状況が芳しくなく、例えば隣に寝ていた恋人や家族が、防寒具を着て寒さ対策をしていたにも関わらず翌朝凍死している事や、普通に歩いていただけで、低体温症でそのまま死んでしまう事例が今のロンドンでは珍しくないのだ。


 特に夜間から朝方までは尋常ではない程の気温が下がり、ロンドン市民はこの時間帯をコールドスリープ【凍死への棺桶】と皮肉を込めて呼称しているものの、ちゃんとした寒さ対策をしなければ死に直結するほど油断ならない。


 そんな中、少年は顔の肌に突き刺さる寒さを我慢しながら、一早く帰路を目指す。

 歩きながらふと空を見上げると、いつもと変わらない曇天が果てしなく続き、最後にあの雲の上の青空を見たのは一体いつ頃だったのか思い出せない程にこの暗く荒んだ光景や状況に慣れてしまっている自分がいる。


 これ以上暗い曇天を眺めていては、反って自身の気が滅入りそうだと思ったのか、少年は溜息交じりに白い吐息を霧散させ、視線を正面に戻す。

 雪が積もり続ける歩道を歩いていると、ふと気になった物を見つけ少年はその場を立ち止まり視線と体をそこへ向ける。


 そこにあったのは緑色を基調とする煉瓦の外装をした古びた書店だった。

 少年は入店の素振りは見せず、只お店のショーケースの中をじっと眺めている。そんな少年の一際目を引いたのは、ケース内に飾られた数冊の本の内の青い色で装丁された一冊。


 表紙のタイトルが【孤独の()()】と書かれた本だった。

 少年は本の題名として記載された勇者とゆう単語を見て、かつて小さい頃に母がよく勇者や英雄が登場する童話の絵本を読み聞かせてくれた時の事をふと思いだし、自然と頬が緩む。


 ショーケースに顔を近づかせながら、多少の本自体がどんな内容なのか興味を沸いた少年は顎に指を当て購入しようか迷っていると、店内にいた顔に深い皺のある老婆が何故か訝しげな視線を少年に向けている。


 老婆と目が合うと少年はすかさず作り笑みを浮かべ、軽く会釈した後その場から逃げるように歩き始める。


 歩く度にサラサラと揺れる少年のその林檎のような赤い髪と女のような染み一つ無い乳白色の肌。それに英国人らしからぬ堀の浅い童顔に加え、まるで翠色の宝石のような綺麗な緑色の瞳。

 そんな今時珍し容姿をもつ少年に対して時折通行人とすれ違う度に彼等は好奇な視線を向けてくる。


 自意識過剰すぎるかもしれないがそれでも少年は自身の容姿に若干のコンプレックスを抱いてしまっているせいか、彼等の視線をそういう風に感じ取ってしまうのだ。

 だから少年は自身の瞳と容姿を前髪で隠すように、視線と顔の角度を下に下げながら歩き続ける。


 暫く歩いていると先程通ってきた古き良き素朴な雰囲気の街道から打って変わって、ここは落ち着いた雰囲気のある住宅街。この住宅街はかつて緑が豊かで原始林が少なからず残っていたが、環境の変化によって、カラカラに乾燥した木だけが残っていた。


 それにここは所謂、高級住宅街とも呼ばれ大きな一軒家が建ち並ぶも(ほとん)どが空き家で、かつてあった沢山の生活感を帯びた家々の明かりは僅かしか見受けられない。


 騒音一つ無い物静かな帰路へと続く長い住宅の坂道を登っていると、少年はふと前方の奥の方から何か此方に近づいて来る物体を視線で捉える。


 目を凝らし見ると、近づいてきてたのは自転車に乗った赤いメッセンジャーバッグを背負う郵便配達員の女性が物凄いスピードで坂を下りながら自分の方へ向かって何かを叫んでいた。

 よく聞こえなかったのか、少年は耳を澄ますと……。


「死にたくなかったらぁぁ、早くぅぅ道をあけなさぁぁぁい!!!」


 配達員の叫び声の意味を理解した途端、少年は慌てて躱し自転車との衝突を免れる。


 ――だがふと、すれ違いざま自転車に乗った女性と目が合う。

その一瞬だけ何故かその女性は少年の方に鋭い視線を帯びた横目を向け、不敵な笑みを浮かべていたのだ。

 そしてそのまま女性は颯爽と下りながら片手を上げて少年に向かって手振る。


「お互い命拾いして良かったねぇぇぇ!!!!」


 そんな言葉を残し、瞬く間に去っていく。

 彼女の背中が完全に見えなくなると、少年は先程一瞬だけ見えたあの女性の綺麗な横顔を思い出すと同時に、あの鋭い視線と意味深のある不気味な笑みが脳裏に過り何故か悪寒のような感覚が背筋を通る。


「――なんだんだ……いったい」

 少年はそう言葉を漏らし、頭を軽く掻きながら体を翻し再び歩き始める。


 長い坂道を登り終え暫く道なりに進むと、ようやく目的地の場所に到着する。


 そこは住宅街の一角に佇む三階建ての大きな学生寮。

 今は雪が積もって見えないが屋根は黒く茶色煉瓦の外装に加え、どこか70年代を彷彿させるようレトロな雰囲気がある建物だ。


 しかし外見は年代物に近い雰囲気だが、それと打って変わって内装は現代風に改装されモダンな仕上がりになっている。


 外気の寒さに耐え切れなくなった少年は駆け込むように学生寮の扉を開け入るな否や、寮内に充満した心地よい温かさが冷えた体全体を包みこまれるのを感じ少年は一息つく。


 そこそこ広い寮一階エントランスはまるでホテルロビーのような内装をしており、それに加え数台の暖房がフル稼働で完備されていて快適な程の暖かさだ。

 それに一階には広々としたラウンジも設けられていている為、大抵の寮生は寝る以外はそこに入り浸っていることが多く、今でもチラホラ数人の寮生が各々昼食や雑談などをしている。


 少年は視線をフロントの方に向けると、横長に伸びたカウンターに突っ伏しながら暇そうにしている紺色の髪をした一人の女性がいる。


 彼女の名前は【アメリア・ルフレット】。ここの寮の管理人兼スタッフの一人で、見た目は長身でスレンダー且つ十代にしか見えない程、物凄く若く見えるがああ見えて実は年増である。

 それに明るく過度な世話焼きな一面もある為、寮生全員に良く慕われ、少年自身も入寮当時からなにかと世話になっている。


 少年が自室へと続く階段を上がろうした時、「あっ!」と後ろから声が聞こえ振り向くと、先程まで突っ伏していたアメリアと視線が合う。


 ――すると彼女は慌てた様子で此方に声を向ける。

「ちょ、ちょっと待って、()()()! 部屋に戻る前に渡したいモノがあるのよ」


アメリアは ()()()()()を呼びながら、柔和な笑みを浮かべ手招きをしていた。



明日から夜勤なので、更新は恐らく四日後になります。

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