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八咫ノ鏡 ーYATA NO KAGAMIー  作者: Alphonse Child (アルフォンス チャイルド)
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ープロローグー

これから八咫ノ鏡をよろしくお願いいたします。

 

「創造力は知識よりも重要だ。知識には限界があるが、創造力は世界を覆う」

 ―アルベルト・アインシュタイン―


 

 ―1994年 2月11日【日本】―


 そこは首都圏から遠く離れた場所にある大きな研究施設。

 如何にも怪しげな雰囲気を醸し出す施設だが、辺りは警備員一人もいないく無人だった。

 真夜中にも関わらず外には照明の明かり一つ無く研究施設一帯は真っ暗で静まり返り、そのせいもあって今宵の夜空に浮かぶ月や星々が鮮明に見える。


 怪しげな研究施設から地下研究所に続く通路は本来ならば強固な鋼鉄の扉と防衛セキュリティー及び武装兵によって厳重に警守されていたはずだった。

 だが一夜にしてその鋼鉄の扉は何者のかの手によって無残にも粉々に破壊されていた。

 そのうえ壁や床には武装兵達のものらしき肉塊の四肢や臓物がまるで汚物のようにグチャグチャに飛び散り転がっている。


 研究所内は侵入者の存在を知らせるかのように警報アラームが五月蠅く鳴り響き続けるも、そこにいたはずの研究員達の姿や気配、足音、息遣いさえ聞こえない。

 聞こえてくるのは天井のスプリンクラーから滴る水滴が落ちる音が通路内を不気味に木霊し、水浸しになった通路一帯は真っ赤な色に染め上がっていた。


 地下6階フロア内の一角にある広々とした研究室。

 そこには様々な大きな機械や研究道具が置かれ、一室の中央に置かれた研究対象らしき物体の下からは数多くの大小のパイプがまるで蛇のように壁際まで伸びている。

 天井から外れかけた配線を剝き出しにぶら下がる蛍光灯は、チカチカと点滅しながら()()()()()()()()()をリズムよく照らす。


 中央に置かれたその()()()()()()()()()()()()()の表面の色はまるで生き血を啜っていたかのような血液に似た鮮紅色をしている。薄暗い一室で唯一照明に照らさているからなのか、その得体の知れない箱の色合いと一室の雰囲気が相まってより一層不気味さを際立たせている。

 物体の表面にはあらゆる箇所に文字が施された御札のような紙が無数に貼り付けられ、それはまさに良からぬ物を封印しているかのようだった。


 すると薄暗い一室の奥から、黒い外套のフードを深々と被った3人組が、悠然と中央の物体に近づいて行く。

 3人の内2人は室内に転がる無数の死体を避けながら進む一方、もう一人はまるで蟻の行列を好奇心で踏みつぶす子供のように、中世的な声を発しながら転がる死体をわざとらしく踏みつける。


「虫けらのくせして余計な手間だけ取らせてくれたよ、まったく。 無駄な反抗さえしなければ楽に殺してやったのに……おかげでボクのお気に入りの服に汚い人間の血がついちまったじゃねか!」


 まるで当たり散らすようにその者は愉快な笑みを浮かべ死体を踏み遊ぶ。

 その様子を横目で見ていた小柄な体型をしたもう一人が、苛立ちを帯びた女声で中性的な声を宿した仲間に対して言葉を告げる。


「いい加減にその稚拙な行為を控えなさい、()()()()。 貴方のその愚行は生命の魂を冒涜し、我々【八咫烏】としての品格を下げる行為だと自覚しなさい」


 フードの微かな隙間から覗かせる殺意を帯びた視線と命令口調な言葉をシャウトと呼ばれた者に浴びせる。それを聞いたシャウトは舌打ちを漏らし、踏みつけていた足を一旦止め視線を小柄な仲間の方に移す。


「魂の冒涜? 八咫烏としての品格だぁ? アンタの凝り固まった価値観をボクにまで押し付けようとするなよ、()()()()。  自分が殺した死体を屍姦しようが、弄ぼうが、それを有する権利は殺したボクにある。 一々アンタのお堅倫理観でボクの楽しみの邪魔をしないでくれ。 それにアンタの方こそあんな楽しそうに、惨たらしくここの連中をぶっ殺していたくせして、品格やらなんやらを問うてくるじゃねぇよ。 いい加減その分厚い偽善者の皮を剥いだらどうだ?      

 ボクみたいに窮屈せず楽しく生きられるぜぇ?」


 シャウトは嘲笑うかのように中指を立てながらネクロンに対して鼻で笑う。いい加減シャウトの舐め腐った態度が癇に障ったのか、ネクロンは両手の指の関節をボキボキ鳴らしながら自身の体と視線を向ける。


「あら、今日はよく口が達者に回るのね。 そのよくしゃべる饒舌な舌を引き抜いて貴方の目の前で踏みつぶしてあげようかしら? それに年上に対する口の利き方もなってないようだから、これを機に正しい敬い方を教えてあげてもよろしくてよ?」


「おっと、そんな怖い顔で睨むなよ。 偽善者のアンタと違ってボクは素直で正直者だからさぁ、つい本音を漏らしてしまうんだよ。 それに今更自分の態度を改める気はないし、アンタのような虚構で塗か固められたさもしい女から何一つ教わる気も無いヨ」


 二人の間から一触即発の空気と冷たい沈黙が漂うも、もう一人の()()()()()()()()()の人物は仲間割れを始めようとする二人を止める素振りも一切見せず、中央に置かれた物体に向かって歩き続ける。

 そんな大柄な人物の背中をネクロンは横目で追いかけた後小さく溜息を漏らし、リーダーの後ろを付いて行くように体の向きを翻し歩く。

 同じくシャウトも目を細め、眉間を指で押さえながら再び歩き出す。


 3人共赤い箱のような物体の前に立つと、大柄の人物は他の二人より一歩前に出ては右手を広げながら前に突き出し、左手は人差し指と中指を立てながら胸の前に置き、呪文のような言葉を口ずさみ始める。


「我が言霊は、我が主の御言葉。 我が名、アローンに名において汝に命ず。 三眼の黒き神蔦(しんちょう)の一族たる我が血、我が器、我が魂を汝に捧げる。 契約の時来たれり。 汝の主、来たれり。 主は汝を求める。 とこ末に眠りし神器よ、目覚めの時来たれり。 我が言霊を聞き届け、その忌まわしき楔を断ち切り、真姿、我が前に顕現せよ!」


 ()()()()は呪文を唱え終えると、左手で力強く自身の胸を貫く。

 肉を抉る生々しい音を周囲に響かせながら左手で心の蔵を抜きとると、差し出すように赤い箱の前に突き付ける。

 未だに掌の上で小さく脈打つ自身の心臓を思いっきり握り潰しした後、それを箱の表面に投げつけた。それと同時にアーロンは自身の口元から盛大に吐血を噴出させ、そのまま背中から後ろへ倒れようとするも、隣に立っていたネクロンがすかさず両腕で受け止める。


 小柄な体型ながらも軽々と大柄のアーロンを優しく支え、そのまま床に寝かせる。

 フードの隙から微かに垣間見えたネクロンの瞳からはまるで寂しさと悲観さを帯びているかのようにユラユラと揺れている。

 ネクロンは自身の手で、目を見開きながら息を引き取ったアローンの瞼をゆっくり閉じる。


「あとは私達に任せてゆっくりおやすみ、アーロン。 主君の願いは()()()必ず成就させるわ」


 ネクロンはそう言ってその場を立ち上がり、正面にある赤い箱を見据える。

 同じく、仲間の死を悲しむ事も無くうんざりしたような表情を浮かべながら、シャウトは目の前の赤い箱を見つめる。


 先程、赤い箱の表面に付着したアーロの心臓の肉片や血液をまるで吸収するかのように、瞬く間に内側へ取り込こんでいく。

 まさに永い眠りから息を引き返すかのように赤い箱の表面上の至る所から血管のような管が浮かび上がり、より一層、禍々しさと気色悪さが際立つ。そして心臓の鼓動のように脈動し始めると突然、目の前の赤い箱から赤子の産声のような甲高い奇声を上げる。


 箱の前にいた二人の鼓膜を震わせ、思わず耳を塞ぐ。

 奇声が治まると同時にプシュッっと箱の隙間から赤い煙噴き出た後、箱が開き中身が(あらわ)になる。


 そこには煌びやかで傷一つ無い、黄金色に輝いた三つの物体が横に並んでいる。

 物体が纏う輝かしい色合いや造形に見惚れたのか、堪らずシャウトは興奮のあまり外套のフードを取り口元を(ゆる)める。

 その表情にはまるで林檎のように頬と耳を赤らめ、まさに美麗な物に心奪われたかのように表情を高揚させる。


「あぁ、さすが主様が愛用していた三種の神器と呼ばれることはある。 数千年の時を経ってもなお、その美しさは健在。 さぞ、良き終焉への音色を奏でてくれるに違ない……」


 そう言ってシャウトは中世的な顔に似合わない不気味な笑みを浮かべている。それ横で見ていたネクロンは気味の悪い物を見るかのような目でシャウトを見ている。


 そしてシャウトは開かれた赤い箱も中にある三種の神器の内の二つ、手鏡のような形をした()()()と煌びやかな装飾が施された()()()()を手に取ると、それを持ってネクロンのいる所もまで近づく。

 シャウトは八咫鏡を雑にネクロンに投げ渡すと、すかさずネクロンは自身の片腕を前に突き出すと八咫鏡は彼女の放つ得体の知れない謎の力によって空中で留まるように浮いている。


「時間が惜しいいわ。 早く始めなさい」

 ネクロンはそう言ってシャウトを急かす。


「うっせーな。 わかっているよ、そう急かさないでくれ」


 シャウトは鏡の前まで近づき、剣を振り上げながら呟く。

「我が主の代行者が一人、シャウトが汝、八咫の鏡に命ずる。 この時をもって我らは新たな世界の八柱を生み落とす事を許したまえ。 妖言惑衆を説き、世を乱す醜悪で紛いモノが跋扈するこの世界を破壊し、我が主、()()()()()の宿願たる新たな生命の楽園を目指す為に……」


 シャウトは剣を強く両手で握り締め……。


「さぁ!! 今こそ、破壊と新生の幕開けの鐘の音を鳴らしたまえ!!!!!」


 握っていた剣を目一杯振り下ろし、八咫鏡を叩き壊したと同時に、美しい玲瓏(れいろ)が響きわたったのだった……。



『そしてこの日を境に、世界各地で気象災害や自然災害、伝染病の蔓延が人類を襲った。 それはまるで神が人間達に理不尽な神罰を下したかのように、前触れも無く突如世界に厄災とゆう形で災難が降り注いだ……』


『まさに一刻一刻、一日一日と目まぐるしく光景と状況が変化していき、まるで刻々と世界に滅びが近づいてくる中、一部の人間たち以外はこの状況の発端に関して露知らず、しかも周囲の異常性や変化に気付いていながらもまるで他人事のように目を逸らし、滑稽で、暢気なほどに各々自身の日常を演じている』


『だがそれも仕方ない事だ。 ただでさえ自身の事や家族、友人、身の回りの事だけ気を配るのに背一杯なのに、一個人の力だけでこの世界の異常性をどうにかしろなんていくら何でも無理な話……』


『それに世界全体で起きてる異常現象の原因がまさか、鏡の中にあるもう一つの世界の干渉によるものなんて、平凡な日常を過ごす人間達にこの事を到底知る由もないのだから……』


呪文の台詞って意外と考えるの難しい……。

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