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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
二章 姉の代わりに森の奥にある館に行く事になりまして

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あいつらとの決着をつける時が来たようです



 室内の半分を埋め尽くすように存在しているそれは、確かに魔導器なのだろう。あまり実物をお目にかかった事のないイリスにもそれくらいは理解できた。

 しかし、だ。

 先程から魔導器の存在を気にかけていたクリスが、いざ魔導器を前に一体何をするつもりなのか。それを聞く事すらしなかったイリスには彼が何をしようとしているのか皆目見当もつかなかった。


 室内に足を踏み入れるクリスに続くように、イリスも部屋の中へと入り。

 きょろきょろと周囲を見回すも、この部屋にはどうやらこの魔導器しかないようだった。大きさとしてはそこまでのものでもないはずだが、室内の半分を埋めるように設置されているため大きく感じられる。


「ところでクリス、魔導器を見つけて一体どうするつもり?」

 今更すぎる質問。

 以前魔導器は取り扱いにかなりの注意が必要となるような事を言われた覚えがあるので、まさか壊すなどと言い出したりはしないだろうが……


「あぁ、停止させるのは手順が面倒だから機能を最小限まで抑えるつもり」

「……え? それってつまりどうなるの?」

「そのうちわかるよ」

 言いつつ作業に入ったクリスは、懇切丁寧に説明するつもりはないようだ。あまり下手に話しかけて手元が狂って魔導器大暴走、なんて展開になられても困るしイリスは仕方なくクリスの作業を大人しく見守る事にする。

 何だかよくわからない装置のボタンやらレバーやらを恐らくは決められた手順でもって動かしているのだろう。時折何かを考え込むようにして動きを止めるクリスに、最初のうちこそ何かあった!? とビクビクしていたがどうやらそれは単純に手順を思い返しているだけなのだろうという結論に到達してからは、そうビクビクしなくなった。

 じっと見ているだけだが、法則性とかそういうものはイリスには一切わからない。おもむろにクリスが、それじゃあ今やったようにしてみるといいよ、なんぞと言い出そうものなら考える間もなく無理です覚えてませんと断言できる自信がある程度には――面倒な作業と呼んでいいだろう。


「さて、それじゃあ戻ろうか」

「終わったの?」

「あぁ、もう少ししたら機能がほぼ停止状態になるから、早いとこ戻ろうか」


 こんな所もう用など無いと言わんばかりにクリスは踵を返し足早に部屋を出る。そうして部屋に鍵をかけ、戻るついでに鍵をかけていなかった物置と食糧庫の鍵もしっかりとかける。


 その後をついていったイリスの手には、箒と塵取り。

 余興とやらで用意された宝物らしきものは、この地下にもなかった。そもそも最初から宝物なんて無いのではないか……という気がしないでもないが。


 食糧庫から真っ直ぐ階段へと進み、もう少しで階段、という所で薄っすらとついていた明かりが消える。

「えっ!?」

 唐突すぎる暗闇に思わずイリスが声を上げて。


「あぁ、意外と早かったね」

 クリスにとっては予想済みの展開だったのだろう。慌てる事なく魔術を発動させ、周囲を照らす。

「魔導器の機能を抑えたから、だよね。え、ちょっとまって? もしかして上の階も全部明かり消えたって事?」

「明かり以外に水も止まってるんじゃないかな。あとは館そのものの耐久度も大分下がったはずだね」

「つまり、今この館はちょっと頑丈なだけの普通の建物と変わらないって事?」

「そうだね。本気出せば壊せるんじゃないか? まぁ壊すまではするつもりもないけど」

 壊すつもりがないなら、何故わざわざ魔導器の機能を抑えるなんて真似をしたのだろう。その疑問を口に出す前に、クリスが早くモニカと合流しようかなどと言い出したため結局聞きそびれてしまった。



「――ちょっとクリス! せめて事前に何をするつもりなのか告知しておいて下さいまし! わたくしいきなり明かりが消えてそれはもう驚きましたのよ!?」


 絵画のあった部屋へ戻ると同時、モニカがクリスに詰め寄る。驚いた、という割に室内はモニカが発動させた魔術により明るく照らされているため、暗闇の中モニカが一人怯えて待つ羽目になった、などという展開にはなっていない。だからこそクリスはそれをさらりと受け流して。


「はいはい、それじゃこれからする事を説明するよ。ところでこっちは問題なかったのかい?」

「あぁ、あの魚達なら出ましたわ。……あれにも驚きましたけれど。それで、これからする事というのは?」

「決まってるじゃないか。私達の仕事の一つ――モンスター退治だよ」

「倒すのですか?」

 モニカの言葉には言外にできるのか? というのが含まれていた。確かに今までも倒そうとした事はあれど、あまりの素早さに逃げられ追い詰める事すらできなかったのだ。ここに来たメンバーの中で最も速さを誇るレイヴンですら追いつけなかったあの魚達を、クリスとモニカだけで追い詰める事ができるのか。


「そうだね。気は進まないけど倒しておかないといけない。どのみちそう長く生きるかどうか怪しいけど、このまま野放しにするわけにはいかないだろう?」


 クリスの返事はあっさりしたものだった。


「ですが……一体どうやって?」

「逃げ場を奪ってしまえば追い詰める事もできると思うんだよね」

「随分簡単におっしゃいますのね」

 実行できるかどうかはさておき、言うだけなら簡単な話だ。そんな事ができるのならば、そもそも最初のうちにどうにかしている……モニカの表情は明らかにそう言いたげだった。


「今ならできるさ。準備は必要になるけど」

「準備……今の状態もそれに含まれますの?」

「勿論。さて、それじゃ早速説明に入ろうか。なるべく早く終わらせたいからね」





 ――説明を聞き終えたモニカの表情は、まだどこか納得のいかないものだったがクリスはそんな事お構いなしのようだった。言うだけ言って「さてそれじゃあ、行動に移ろうか」などとモニカの反応もイリスの疑問も今は気にしている余裕がないとばかりに部屋を出る。

「……まったく、仕方ありませんわね……行きましょうか、イリス」

「え? あぁ、うん。いいの?」

「クリスが人の話を聞かない事なんて、今更ですわ。やる事やって駄目ならダークブリンガーで小突き回せばいいだけの話ですもの」

「そう、なんだ……」

 実際そんな事になったらクリスの生命が危険な事になるんじゃなかろうか。恐らく大変な事になるのは確実だろうが、だからといってクリスが今更ちゃんとモニカが納得するまで説明するとは限らないし、上手くいく事を願うしかない。


 まず最初にやらなければならない事は、この館にある鏡を全て撤去する事だった。地下で見つけた箒と塵取りはただ掃除をするために持ってきたわけではなく、階段の途中にある割れた破片を一つ残らず回収するための物のようだ。

 割れた破片以外の普通の鏡――こちらはクリスが部屋を回って回収、壁に掛けられて固定された物も取り外してくれるらしいので、一先ずはクリスと別行動だ。


 そうして回収した鏡と破片は、館の外に出すように言われた。


 何で鏡を? 至極最もな疑問は当然イリスの口から出た。イリスが言わなければモニカが問うていただろう。


「移動手段を絶たないと、逃げられてばかりだろう?」

「移動手段……?」

「詳しい話は鏡を全て撤去して、次の行動に移る時だ。終わったらエントランスで待っていてくれ」


 両端にある階段の割れた破片を回収するだけのイリスとモニカの二人とは違い、それ以外の部屋の鏡を回収する役を買って出たクリスの方は急がないと二人以上に時間がかかるだろう。だからこそ足早でその場を離れたのもわかるのだが……


「手鏡とかの回収なら私達でもできると思うんだけどなぁ……」

「まぁ、クリスにはクリスなりの考えがあるんでしょうね」


 鏡の回収以外に、明かりが消えてしまった館内部を照らすように言われたモニカが、小さな光の球を早速浮かび上がらせる。天井以外にも、床とか壁とか高さを様々にしてなるべく沢山浮かべておくように、と地味に面倒な注文が入ったが館内にそれを施す事はそう難しくはない。破片を回収し終えたら、二階全体も同じように照らしてそれからエントランスへ行けば大体いいタイミングでクリスと合流できるだろう。――余計な邪魔さえ入らなければ、というのが前提ではあるが。

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