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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
二章 姉の代わりに森の奥にある館に行く事になりまして

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姉は本当に面倒な館を譲り受けたものです



 隠されていた階段を下り、地下へ。

 思っていた程長い距離でもなく、地下へはあっさりと到着した。

 薄ぼんやりとしてはいるが照明がついているため、周囲を見るのに困る事もなく。


「今まで見つけた鍵で使っていないのは、こっちの鍵なんだろうね。……イリス、その鍵預かってもいいかな?」

「あ、うん」

 何処で使うのかわからなかった鍵を全て、言われるままクリスへと渡す。


 階段を下りた先はてっきり長い通路でも伸びているかと思ったがそんな事はなく、両側に壁があり、そう遠くない先にはドアが一つ。とりあえずそのドアへと近づくと、右側に細く通路が伸びているのが見えた。

 一先ず手前のドアを開けるべく鍵を差し込んで、特に警戒した様子もなくクリスはドアを開けた。



「……何、ここ……」


 クリスの背後からそっと顔だけを出して覗き込む。広さは二階の休憩室と同じくらいあるだろうか。そこそこの広さではあるが、そこには何もなかった。

 いくつか棚があるにはあったが、中身は空で物置と考えるには殺風景すぎる。部屋の隅の方にはいくつかの袋が置かれていたが、そのどれもが中身は空っぽのようだ。


「恐らくは、食糧庫だったんじゃないかな。そっちの隅に小麦の残骸っぽい物が落ちてるし」

 ざっと見回して、特に何もない事だけを確認するとクリスは早々にドアを閉めた。それから狭い通路を進んで間もなく、右側にドアが見えた。その少し先の左側にもドアが見える。

 近いのは右側のドアだった。クリスは速度を落とす事なく足早に進み、そのドアを開ける。


 こちらの部屋はどうやら物置のようだ。上の階にあった物置と比べると、物が少々乱雑に置かれている。ごちゃごちゃしていてどこに何があるのか、一目でわかるような感じではない。

 ただ一箇所、明らかに不自然に整頓された場所があった。恐らく、ではあるがこの部屋に置かれている物はいずれ処分する予定の物ばかりだったのだろう。そしてその不自然に整頓された場所にあったのは、箒と塵取り、そして鍵だった。

「また鍵か……そろそろないと思っていたんだけど」

「これはどこの鍵なんだろうね」

 この地下がどれくらいの広さなのかはわからないが、館の規模に反して地下が広大だなんてオチは流石にないと思いたい。むしろここで今までの探索は序の口だったのですよ、みたいな前の所持者の手紙が発見されたらイリスは見なかった事にしてこの館の記憶も封印して帰る事だろう。余興? あんなの姉宛なんだから今からでも姉に丸投げしたっていいと思う。


「一応その掃除道具を持ってきてくれるかい、イリス」

「え? 掃除するの?」

「あぁ、後で使う。確実に」

 今更館の掃除をすると言われても、何でまた……としか思わないが、クリスがこうまでキッパリと断言しているのなら持っていくしかないだろう。


 物置を出て、今度はその少し先に見えた左側のドアへと向かう。

「……てっきりあの魚とかこういう場所に隠れてるんじゃないかと思ったんだけど……出ないね」

「多分だけど、あいつらここに来る事はできなかったんだと思うよ。何らかの手段で接近しようと試みた可能性はあるけど、無駄だったんじゃないかな」

「……何で?」

「確証を得る事ができるかわからないけど、恐らくあの魚も魔導器をどうにかしようと考えていた可能性がある。もしくは、魔導器ではなく食糧庫に一縷の望みをかけたか」

「ん? クリスは一体何をどういう風に考えた結果そういう話になったの? ちょっとよくわかんないんだけど」

「証拠もないような単なる想像だけど、後でモニカと合流したら話すよ。まずは魔導器がここにあるかを確認したい」


 言って、ドアを開ける。

 部屋の広さは隣の食糧庫と同じくらいだろうか。隣の部屋の殺風景さと比べると、この部屋は物が溢れているような気さえした。

 整然と並べられた樽。それから、飾っているかのように並ぶ瓶。貼られたラベルを見る限り、相当古い物もあるようだ。


「これはまた……随分沢山のワインが保管されてたものだね。……保存状態も良さそうだ。イリス、君のお父さんにお土産として持っていけば喜ぶんじゃないかな?」

「……ここが普通の館だったら持ってったとは思うけどさ。Wが関わってる可能性が恐ろしく高い場所にあったワインとか、見た目普通でも本当に普通のワインかどうかわかんないし、やめとくよ」

 これらのワインが全て買い集めた物であるというのならばまだしも、ここの住民が作ったワインだってあるかもしれないのだ。ここで働いていた六名が作っただけであるならばまだいい。Wが言葉巧みに怪しげな薬を入れて作らせた、という可能性があるかもしれないワインなど恐ろしくてとても身内への土産として持ってはいけない。


「ふむ。賢明な判断だね」

「それって……」

「ここに訪れた患者とやらに振舞われた可能性が濃厚なワインとか、流石の私も恐ろしくて飲めないかなぁ」

「自分でも飲めないなぁとか言える代物を人の父親の土産に勧めようとかしないでくれるかな」

「ははは、まぁ持っていくとか言い出したら一応止めるつもりではいたよ。一応ね」

「止める以前にそもそも最初から言い出さないでほしいんだけど」


 そんな会話をしながらも、室内をぐるりと回ってドアの前まで戻って来る。


 どうやらこの部屋にはワイン以外は何もなさそうだ。

 こういう部屋にこそ鍵を隠しておけば良かったと思うのだが……


「イリスは……あぁ、いやいいんだ。次に行こうか」

 何かを言いかけておきながらあっさりと言葉を噤んだクリスは、この部屋にこれ以上長居は無用とばかりに部屋を出た。そうして再びこの部屋に鍵をかける。


「……何でわざわざ鍵を? っていうか、今何言いかけたのさ」

「気付いていないならそのままでいる事をお勧めするよ」

「そういう言い方されると余計気になるんだけど……」

「そう? あの部屋で人が死んでたとかそういう部分に気付きたかった?」

「……は?」


 先程言葉を濁して言わなかった事をあっさりと今度は口にしたクリスに、何を言われたのか理解するまで少々時間がかかった。人が死んでた? 一体何を……


「え、だってあの部屋ワインくらいしかなかったよね……?」

「死体はとうに片付けられてる。ただ、殺した痕跡を消そうとして血の跡をワインで洗い流そうとしたんじゃないかな。部屋の奥の方、広範囲で染みが広がってただろう?」

 言われて思い返してみる。確かに奥の方の床の色が少々違っていたようだが、単純にワインの樽か何かを間違えて引っくり返してしまったとか、そういうオチではなかろうか。

 そう考えたのが表情に出たのかはわからないが、クリスはさらりと言葉を続ける。


「床の方はワインを盛大に零してしまった、って事でいいかもしれないけど、壁に飛び散ってたのは気が付いてなかった? 結構広範囲に飛んでたっぽいからなぁ。何かに躓いて転んだ拍子に、というより何者かが故意にやったと考えていいと思うよ」

「それって……」

「二階の診察室だっけ? そこと同じような惨劇がここでも起こったと考えていいだろうね」

「……もうやだこのいわくつき物件」

 二階の診察室の光景を思い出して、イリスの口からかろうじて出た言葉はかすかにクリスを笑わせただけだった。


 ワインセラー(と呼んでいいだろう)から出て、更に奥へと進もうとして。

 途中で右に通路が分かれている事に気付く。

 一先ず真っ直ぐ進もうとしていたクリスだったが、二、三歩進んだ時点で足を止め、踵を返す。

「え、あれ? どうしたの?」

「向こうは行き止まりみたいだ」

「そうなの?」

 目を凝らしても、通路の先は見えない。いや、見えないというよりは薄暗くてよくわからない、というべきか。


「気になるなら確認してくるかい?」

「いや、いいよ」

 クリスなら何かあれば調べようとするだろう。しかしそれをしないのは、そうする必要がないからだ。イリスにとって知られたくないような事があったとして、その先を見せないようにしたいのならば、口先三寸丸め込んでいるだろうし、本当に何もないのだろう。


 右に伸びていた通路を進む。少し進んだ先にドアらしきものが見えた。食糧庫や物置、ワインセラーなどは左右に分かれてはいるものの同じ通路にドアが見えていたが、この部屋はそうではない。ある意味最深部と呼んで差し支えないだろう。


「さて、ここにあるといいんだけどねぇ……魔導器」

 他の部屋のドアと違い、錆び付いている挙句立て付けも悪いのか中々開かないドアを渾身の力を込めて開ける。

 ぎいと耳障りな音を立て開いたその先には、クリスの言葉に応えるかのように魔導器が設置されていた。

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