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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
二章 姉の代わりに森の奥にある館に行く事になりまして

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考えれば考える程面倒な案件かもしれません



 早速開いた部屋の一つは、どうやら応接室のようだった。

 座り心地の良さそうなソファが二つ、テーブルを挟んで置かれている。

「……何だか、前にも見たような……?」

 何となく既視感を覚えるが、応接室の内装などどこもそう変わらないものなのだろう。違うのは精々調度品や装飾品の類くらいで。


 パッと見た所、この部屋には特に何もなさそうだ。余興が宝探しのようなもの、という事で何かあったとしても、そうすぐに見つかるような場所に置かれていないだけかもしれないが。

「流石に罠なんてものは無いと思いますが……気を付けて下さいね」

「はーい」


 言いつつも、お互いそれぞれ手分けして室内を物色する。アレクが高い位置を、イリスが低い位置を。

 まぁ流石にこんな所まではないだろうと思いつつ、ぺらりと絨毯を捲ってみたりする。恐らく何かを隠すとして紙ならともかくそれ以外の物ならすぐに気付きそうだ。ソファの背もたれ部分なんかにたまに物が入り込んだりする事ってあるよなーと思いつつ確認してみたが、特に何もなかった。


 壁際に置かれている本棚を見ていたアレクが、何かを取り出す。

 本と本の間に挟まっていたのは、封筒だった。

「……手紙、ですかね?」

「宛名とかありますか?」

「いいえ。……余興に関する物なら見るべきですが、そうじゃないなら見ない方がいいんでしょうかね……?」

「んー、でもこの館の前の持ち主だって流石に見られたら不味いものは残したりしてないと思うんですよね。……とは言い切れないか」

 前回来た時にここで働いていたであろう人物の残したメモらしき物を見る限り、そうだとは言い切れないのが困る。

「まぁ、見られて困るような物まで残した相手が悪いって事で割り切るしかないんじゃないかな、と」

「それもそうですね」


 アレクがあっさりと封筒を開けて中身を取り出す。

 手紙か何かが出てくるものとばかり思っていたが、そこから出てきたのは厚紙に包まれた鍵だった。

「念の為もう少しこの部屋探してみましょうか」

「ですね。一部屋に一つっていうルールがあるならともかく、そうじゃないっぽいし」

 現在手元にある鍵は四つ。

 一つはこの館の玄関の鍵。前回休憩室と思しき場所で発見した鍵が二つ。そのうちの一つはこの部屋の鍵だった。

 そうして、今見つけた鍵。

 とりあえずあと二部屋は開ける事ができる状態だ。


「そういえば、お姉さんへの手紙には何て?」

 本棚のあたりを引き続き調べながら、アレクが問いかける。

「とりあえず館に行ってきたって事と、そこで前の持ち主が姉さん宛に余興らしきものを残していったって事は書きましたよ。そのせいで部屋のほとんどが鍵かかってて開かないから、探索する事になったっていう経緯も。

 それで、玄関の扉に貼ってあった余興のカード、あれも同封してついでに筆跡確認してもらおうかな、って。姉さんが館を譲り受けた時の書類くらいはあるだろうし。

 あとは……前の館の持ち主についてできるだけ詳しく、って」

「……あの魚については?」


 アレクが言いにくそうに、どう名付けるべきかわからない例の物体について口にする。イリスとしてはまぁそれかなり重要だよなと思いながらも、ゆっくりと首を横に振った。

「書いてません。どう説明するべきなのかまだちょっとよくわかんないし」


 自由奔放に王都を出て行った姉だが、自分が貰った館にモンスターらしきものが出ます、なんぞと書こうものなら流石に行くのを止めるだろう。自分が危険に首を突っ込む分には全然構わないという人だが、一応妹であるイリスに対して危険な事に首突っ込めなどと言うような姉ではない。

 確かに姉はちょっぴり横暴な部分もあったけれど、精々が半分に分けたおやつの大きい方を持っていくとかその程度だ。それも別に毎回ではなくたまに大きい方をイリスに譲ってくれる事もあるので、イリスとしては横暴だと騒ぎ立てる程の事でもない。


 あれが本当に危険な生物で、一緒についてきてくれている騎士団長の手に負えないような代物だというのならば、その旨を書いて館の探索を中止するという手紙くらいは出すつもりではいるが、今の所はわざわざ知らせる必要もないだろう。



 そんな会話をしつつ室内のあちこちを探してみたが、鍵が一つ出てきた以外は特にこれといった物は出てこなかった。

 応接室の探索を打ち切って、次の部屋へ行く事にする。発見した鍵が必ずしも近くの部屋のものだと限らないが、最終的にどこかの部屋は開くのだ。手近な場所から試していくのが一番無難だろう。

 そう思っていたのだが――


「すみませんイリス。先に二階を見てきてもいいでしょうか?」

 何やら考え込んでいたアレクが、ふとそんな事を言い出した。

「二階……ですか?」

「えぇ。少し気になる事があるのでそれの確認ついでに」

 アレクが一体何を気にしているのかはわからないが、一階から見ていかなきゃいけないというわけでもないし、イリスはあっさりと頷いた。


「……二階に、もしかしたらいたりするのかな……あいつら」

「一階にいなければ二階でしょうね。もしあいつらと遭遇したらイリスはできるだけ壁を背にしていて下さい」

「わかりました。張り付いてます」


 館、と言うものの、この館はそれほど大きくはない。どちらかというと別荘のつもりで建ててみました、というような小規模なものだ。

 部屋のほとんどに鍵がかかっている以上、あいつらが隠れる事ができる場所もそう多くはないはずで、更には前回出会ったのも二階であるという事を考えると何となく二階の方が遭遇しそうな気がしてならない。


 少々気が重いが、前はこちらの姿を見るだけで逃げ出したような相手だ。上手い事隠れて出会う事がないまま、という可能性もある。個人的にはそちらに賭けたい。


「それで、気になる事って何ですか?」

 前回上がった階段とは違う方――つまりはこちらの部屋から近い階段だ――へ向かいながら、何となく聞いてみる。


「この館のどこかに魔導器があるのは確実だとして、それでもおかしいと思いませんか?」

 いつどこであのモンスターが出てくるかわからない状況なので、即座に抜剣できるような状態で先を行くアレクの表情はイリスからは見えない。

 けれども何かを訝しんでいるという事だけはわかる。言われて、おかしな点をいくつか考えてみるが……おかしな点がありすぎてアレクが何をおかしいと思っているのかまではわからなかった。


「イリスのお姉さんがこの館を譲り受けて、一度さらっと確認してみたという所まではいいんです。その時は恐らく前の館の持ち主と同伴して来たのでしょう。そうして、館を後にする際、前の持ち主がこっそり余興に関するメッセージカードをドアに貼っておいた……と考えればまぁ、そこはおかしくないと思うんですが。

 問題はそれ以外です」


「それ以外……?」


 正直その流れだったとしても微妙に疑問点がいくつかありそうな気はするが、即座にあれこれ言える程イリスの中で考えが纏まらないので一先ず話の続きを促す。


「必要な物だけを引き払うから残りは好きにしていい、と言って余興に関する準備をしてから館の鍵を渡した可能性もありますが……それにしたってですよ?

 そこから僕たちがここに来るまでどれくらい放置されていたかはわかりませんが……ここ、綺麗すぎやしませんか?」

「部屋に物が散乱してる、とかの意味じゃなくて埃とかがないっていう意味での綺麗、って事ですか?」

「えぇ。とてもじゃありませんが、あのモンスターが掃除をしているようには思えませんし。鍵のかかっている部屋には流石に入れないでしょう。けれど、先程の部屋も綺麗なままだった。不自然だと思う程度には」


 荒れ果ててどこもかしこも触る事すら抵抗を覚えそうな所だったらそれはそれでイヤすぎるが、言われてみればおかしな話なのかもしれない。

 姉が王都を出ていったのは五年前。それからすぐにここを譲られたというわけでもないだろう。

 仮につい最近ここを貰ったとしても、数カ月は放置されているはずだ。

 人の住まない建物なんて荒れるまでにそう時間はかからない。……あのモンスターが棲んでいるから無人ではない、という理屈にはなりようがない。

 ……そうなると確かに綺麗すぎるのが気にかかる。


「もし、あのモンスターがここを掃除していたとして。それなら向こうの階段の踊り場にあった鏡の破片も片付いてないとおかしいですよ。鏡を触れない、とかいうならともかく」

「こっち側の階段通ったレイヴンの話だと、こっちの階段の踊り場にも同じように破片が散らばってたって言ってましたね」

 前回廊下に積まれていた箱を片付けた際、結局来た時と同じ階段を使って帰ったため実はこちら側の階段は使っていなかった。近いから、というのも確かにそうなのだが確認する意味もあってこちらの階段を使う事にしたのだが――


 確かに、鏡の破片が散らばっていた。

「もしかしたらこれも何かの意味があるのかもしれませんね」

 アレクがぽつりとそんな事を言う。

 素手で片付けるには危険なので掃除道具を見つけ次第片付けよう、と前に来た時にそんな流れになったが、もしこれに何か意味があるなら下手に片付けない方がいいのかもしれない。

 万一ここで転んだりしようものなら大惨事だな……と恐ろしい事を考えながらも二階へ上がる。



 二階も見る限り、前回と特に変わりはないようだ。道を塞ぐようにして積み上げられていた箱も、前回廊下の端によけたままその後何者かが触った形跡もない。

 天井までぐるりと見回して、見える範囲にはあの魚がいない事を確認するとアレクはそのまま真っ直ぐ突き進んでいく。その後ろをついていきながら、右にある一部屋と左にある二部屋に発見した鍵を差し込んでみるが、どうやらこの部屋の鍵ではないようだ。


 念の為二階で唯一開いていた休憩室のドアを開けて中を覗き込んでみるも、そこに何かが潜んでいるという事もなく。


「……一体何処に潜んでいるんですかね……?」

 警戒を強めつつ休憩室のドアを閉める。

「この館の中にいるの確実なんですか? もしかしたら外に出たのかもしれませんよ」

 玄関の鍵は閉めてあったとはいえ、窓を開けて出て行く事もあるだろう。

「……もしくは一人になったクリスの動向を探り、隙を見つけ次第、という可能性も」

「前は人が多かったから襲ってこなかった、ってのは考えられるけど。それじゃクリスが危ないかもしれないじゃないですか。……一旦戻ります?」

「そうですね。正直クリスが隙を見せたくらいで奴らにどうこうされるとは到底思えませんが……どのみちこの階の部屋がどれも開かなかったなら一階に戻らないといけませんし、戻るついでに様子を見にいきま……」


 不自然なまでにアレクの言葉が止まる。

 一体どうしたのだろう? そんな疑問を問いかける間もなく、イリスの背後に何かの気配が生じた。

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