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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
二章 姉の代わりに森の奥にある館に行く事になりまして

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迷う事なく無事に辿り着きました



 王国歴1005年 夏 某月某日 晴れ



 昼よりも少し早い時間に待ち合わせた一行は、現在王都の外へと出ていた。

 整備された街道から少し外れ草原を突っ切っている。

 目的地の森は、王都南門から出て大体10分~15分くらいで到着できる、本当に近場だ。だからこそ王都の住民も結構気軽に薬草を採りに来ているし、場合によっては騎士団の方でも薬草調達に来る事もある。


 その森から更に15分程進むと、森の中にある泉へと到着する。

 ここの水が身体にいいなどという話も一時期でていたため、ここまでなら結構な確率で王都の住民の姿を目撃できる。ちなみに効果の程は定かではない。普通の美味しい水だ。


 しかし王都の住民にしろ薬草調達に来た騎士にしろ、立ち入るのは大体ここまでだった。

 泉の更に先へ進むと、五分もしないうちに木々が生い茂り道らしい道も無くなり、大抵はここで引き返す事になる。それでも強引に先に進もうとした者もかつてはいたようだが、空を覆い隠すように広がり鬱蒼と生い茂る木々は、昼なお暗い、などという表現ですら生温いとさえ言える。散歩気分で進めば余計な怪我を負いかねない。

 過去、森を切り開いて開拓すべきだと主張した者もいたらしいが、森に棲む動物の中にはアーレンハイドで保護している種もいるらしく、住処を奪うべきではないという事から泉より先はほぼ暗黙の了解で立入禁止のような状態になっていた。密猟者の存在も懸念されていたものの、森の奥深くに入るにはそれなりの装備、そして準備が必要になりそうという事、そうなるとほぼ誰かに目撃されてしまい足がつくという事から今の所はそういった者も幸いな事に出ていない。



 モンスターの出現も確認されてはいたようだが、下手に縄張りに足を踏み入れなければ襲ってくる事もないようなのと、その縄張りが恐らくは森の奥らしいという事、そしてあまり活発に人の前に姿を見せるような類の魔物ではない事から、今の所騎士団側からもなるべく森の奥に入らないように注意を促しているだけだ。

 ちなみにここ数年でこの森でモンスターに遭遇したという話は何度か聞いた事があるものの、実際襲われて怪我、もしくは死んだ人間はいない。


「それにしてもさ、騎士団長が四人も王都の外に出ちゃって大丈夫なの?」

 先頭を歩くイリスが後ろに続く四人に向けて問いかける。

 モニカが来るのはわかっていた。他の三人は特に何も言ってこなかったけど、まぁヒマができたら来るのかもしれない……程度には思っていた。まさかの全員参加というのは予想外だったが。


「問題ありませんよ。副団長には外へ出る事を伝えているし、日帰りですから」

「こっちも副団長の他、各部隊の隊長にも少し出てくるとは伝えてあるし、何かあってもどうにか対処できるだろ」


 イリスの問いにあっさりと答えたのはアレクとクリスだった。

「やー、有能な部下を持つと楽できていいね」

 クリスに至ってはそんな事を言いながら笑っているほどだ。……何となく真紅騎士団員が苦労してるんじゃないかとほんのり思う。


「えぇと……レイヴンは?」

「問題ない。昨日までに全て終わらせた」

「そうなんだ」

 あまり深くは聞かない方がいいと判断し、追究はしない。流石に国の裏事情を覗き込む趣味はイリスには無かった。


 他愛の無い世間話をしつつ進む事数分。

 森へと辿り着き、イリスは一先ず姉の手紙に書かれていた地図を広げた。

 後ろからそれを眺める四人だったが、やはりわかりにくい。本当にこれで辿り着けるのだろうか……? そんな不安が胸中に宿る。

「泉までは問題無く行けるとは思いますけれど……本当にその地図で大丈夫なんですの?」

「大丈夫だと思うよー。ちょっと迷うかもしれないけど」


 それは本当に大丈夫なのか?

 疑問を口にするべきか考えたが、言ったところでどうにもならなさそうだという結論に落ち着いたのか、誰も何も言わなかった。

 イリスに何を言っても館があるという場所にすんなりと到着できるわけでもない。そのかわり方角の確認を怠らない事と目印をいくつかつけておく事だけをアレクとクリスが小声で話し、小さく頷き合う。


 ――泉がある場所まではすんなりと辿り着いた。

 途中、水を汲んで帰ろうとしている老夫婦とすれ違ったりもしたが、それ以外は誰かと遭遇する事もなく。


「問題はここから先ですわね」

「とりあえず地図の通りに行くとなるとまずはここ真っ直ぐかな」

 言いつつイリスはそのまま進む。


 とりあえずモンスターが出てきた時の事を想定して、即座に動く事ができるレイヴンをイリスの近くに、その後ろにはモニカとクリスが、殿を務めるのをアレクが、という風に自然と決まり、既に道らしき道も消えた森の中を進んで行く。

 既に木々に太陽が覆い隠され、周囲は薄暗い。魔術による明かりを発動させるべきかとモニカが問うたが、目が慣れてしまえば特に必要もないだろうという事で結局発動する事はなかった。明かりを目印にモンスターがこちらに向かってくるかもしれない可能性を考慮したというのもあるだろう。


 討伐に来たならばいくらでも引き寄せるくらいの事はするが、今回は別に討伐に来たわけではない。無益な殺生は避けるべきだろう。こちらには民間人もいる事だし――そう言ったのがクリスだったので、モニカが驚愕を露わにしていた。モニカの中で一体どれほどクリスは信用のない人間なのか――イリスが少々疑問に思うも、モニカに直接聞く事はできなかった。多分、ではあるが恐らくぼろくそに言われる気がする。


 そうして特にモンスターに遭遇する事もなく進む事、数十分。

「……地図だとここから少し曲がるんだけど、そろそろっぽいかな」

「そろそろって言っても、こんな人のロクに入り込めないような場所にそもそも館なんて建造するかね……あ」

「ありましたね」

「本当に存在したんですのね」


 一同、思わず足を止める。

 獣道もないような、歩きにくい森の中。人が滅多に来ないような森の奥深くに、あまり大きくないとはいえ確かに館はあった。館が本当にあった事も驚きだが、それ以前にこんな場所に一体いつ、誰が館を建てたのだろうか。


「……王都からここまで、大体一時間半といったところか」

 懐から懐中時計を取り出し、クリスが呟く。

 木々に遮られて見えないが、太陽は大体真上を少し通り過ぎた頃、といったところだろう。

「日が沈むのが遅くなったとはいえ、戻る時間を考えるとイリスの家の夕飯時刻の前には戻るようにした方がいいんだろうね」

「えーっと、って事は長くいても四時間くらいで引きあげた方が良さそうですね」

「あまり大きな館でもないし、それだけあれば充分だろう。それじゃ、早速中に入ろうか」


 イリスが鍵を取り出して、鍵穴へと差し込む。

 少々古めかしく見える外観ではあるが、イリスの予想を裏切って軋む音を立てる事もなく、扉が開いた。

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