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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
一章 祖父の知り合いの館は思った以上にヤバい場所だったようです

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多分祖父ならこう答えると思います。ワシこそがジョージ達の中で最も最弱じゃ、と――



 流石に五十年も昔の話が出るなんて思ってもみなかったため、クリスも無意識のうちに溜息をついてしまったのは仕方のない事と言えた。

 五十年……今の騎士団長が全員生まれる前の話である。下手をすれば先代どころか先々代の騎士団長の頃の話だ。


「エルトリオ戦役で英雄と呼ばれた男の事は知っているか?」

 レイヴンの口調は淡々としていて、質問なのか確認なのかよくわからなかった。英雄、と口の中で呟いてクリスは自分の知るエルトリオ戦役の事を思い返し、

「ギリアム……だったっけ? フラッド殿の親戚筋にあたる人物だったと聞いてはいるけど確かエルトリオ戦役で戦死したっていう」

「表向きの英雄としてはそのギリアムを指すが、俺が言ってるのはもう一人の方だ」

 答えた言葉にレイヴンが即座に返す。


「もう一人……? いや、流石にそこまでは」


 自分が生まれる前の話だ。

 一応歴史の勉強だとかで聞いた記憶はあるがあまり熱心な生徒ではなかったため、さらりと聞き流していたような記憶しかない。特に自分の興味を惹くような事がなかったのも覚えていない原因になるだろう。覚えているのは本当に大雑把な部分だけだ。


「ギリアムは最も過酷な戦線で戦っていた。その結果命を落としたわけだが、ギリアムは当時民衆の希望も同然だった。だからこそ彼が死に士気が大きく下がり一度はアーレンハイド側の敗北かと思われていた……らしいがその後、彼の意志を継ぐと宣言しギリアムのかわりに最前線で一騎当千の活躍をした者がいたらしい。

 その男の名が――ジョージ」

「……えぇと……イリスの祖父さん随分熱血っていうか、凄かったんだ……」

「どうだろうな」

「本にでもすれば一部の熱血物語大好きな層からは絶賛されるんじゃないか?」

「ちなみにエルトリオ戦役に参加していたジョージは六人いる」


「……え?」


 たった今言われた言葉の意味を理解するまでに、残念ながらクリスであっても少々の時間を要した。


 レイヴンの話によると、ギリアム亡き後確かに彼の意志を継ぎ彼以上に活躍をした人物は実在したらしい。しかし彼はその後表舞台に出る事を良しとせずそっと姿を消したらしい。

 そしてジョージという名はよくある名前のため、その男が名乗ったのが本名か偽名かは定かではなく。


「記録にあるジョージは六人。このうち本名であると確認されているのは四名。残り二名は戦役後の消息が掴めなかったが、残る四人のうち一人は当時瑠璃騎士団に所属していたジョージ・アレクシア。とはいえ彼は後方支援が主な活動だったようだし、現在は既に騎士団を抜け故郷で暮らしている。念の為当時の話を確認してきたが、彼がもう一人の英雄である可能性は低い。……彼の話が本当なら、な」

「残り二名は?」

「戦役終了後、一人は二年、もう一人は四年目に亡くなっていた」

「ふむ……」


 顎に手をやり考える。

 第二の英雄とも言えるジョージは、そうなると消息不明になっている残り二名のうちのどちらか、という風に考えた方がいいだろう。

 表舞台に出る事を良しとしなかったらしいのだから、人知れず姿を消した――こう考えれば自然と英雄は消息を絶ったどちらかのジョージ、という考えに行き着く。

 しかし、だ。もしイリスの祖父が嘘をついていたとしたら。


 元々国内を転々と出稼ぎに出ていたらしいジョージ・エルティートが戦役後、他の地域でしばらくひそやかに行動し時間がある程度経過してから何食わぬ顔で王都へと帰還していたとしたら……そういう風に考える事もできる。

 イリスの祖父にWが興味を抱いたというならば恐らくはかつての英雄かもしれない男、という部分である事は間違いないだろう。


「ジョージ・エルティートも現在は齢80を超えている。普通に考えればかつて英雄だったかもしれない男とはいえ、今はただの年寄りだ。……と言えればいいが、彼は去年、引ったくりを捕まえ更には酔っ払いの乱闘騒ぎに巻き込まれるもそれを鎮圧、他にもたまたま買い物に出かけた先で強盗に遭遇するもそれを制圧しているからな。

 ……か弱い老人だと言い切るには少々難しい」

「そりゃそんだけ武勇伝作ればね。Wが興味を抱いたとしても不思議じゃないと思う」


 それ以前に80オーバーのじいさんがそれだけやってればWじゃなくてももしかして……と思うだろう。自分だってそう考えるし事実今考えた。


 孤独に耐え切れなかったか、それともWが巧みに取り入ったのか定かではないが、どちらにしろロイが過去の話をWにしたのは間違いないだろう。だからこそジョージが館に招かれる事になった。

「ふむ、まぁ繋がったといえば繋がったように思えるね」


 とはいえどれもが推測で、確証は一切無いのだが。

 レイヴンが調べてきた事とロイの日記に書かれていた文章の一部を見る限り、確かに一致しているようには思う。しかし本当にそうなのかと問われると断言はできなかった。だからこそレイヴンも話すつもりはなかったのだろう。クリスが粘るから仕方なく口にしただけで。


「ふむ、推測の域を出ないんじゃ、モニカやアレクには話す必要はないかな……と思うけど終わった後で話すのもそれはそれで何か言われそうだしな……とりあえずこの事は私の方から伝えておくよ。イリスには」

「話す必要はないだろう」

「それもそうだね。少なくともロイ・クラッズに関しては館の探索をしてジョージ宛の何かを手にすれば事実には辿り着くだろうし」

 それに、お前の所のじいさん実は英雄かもしれないんだぜ、とか言ったとしてもイリスの反応が「へー」とか「ふーん」とか「知ってる」とか淡々と返してきそうな気しかしない。「えっ、そうなの!? じいちゃんそんな凄い人だったの!?」みたいに目を丸くして驚く姿を想像しようとしたが、どう頑張ってもクリスの脳裏にその姿は浮かんでこなかった。

 レイヴンの方も恐らく同じような事を考えたのだろう。どのみち推測でしかない事を話されても、イリスだってどういうリアクションを取るべきなのか困るに違いない。



 用は済んだとばかりに立ち上がる。

 推測だらけの話だが、一応モニカとアレクに伝えにいくのだろう――そう判断し、レイヴンもこれ以上話す事は何もないため黙って見送る。

「あ、そうだ。最後に一つ」

 そのまま出て行くのだと思いきや、まだ何かあるらしい。




「――それじゃあ私はこれで」

 言うだけ言って完全に用件が済んだらしいクリスが部屋を出る。


「……一番重要な部分じゃないのか……今の話」

 ぱたんとドアが閉められたため、レイヴンの呟きは恐らく聞こえていないだろう。ロイの日記の内容よりもまず最初にそれを話すべきなのでは……というツッコミをしようにも完全に手遅れだった。本日何度目かの溜息が、無意識のうちにまたもや大きく吐き出されていた。

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