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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
一章 祖父の知り合いの館は思った以上にヤバい場所だったようです

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真相は未だ不明ではあれど



 王国歴1005年 春 某月某日 雨


 アーレンハイド城 漆黒騎士団団長執務室


 ドアがノックされると同時に開け放たれる。部下からの火急の用かと思ったが、そこにいたのは漆黒騎士団の者ではなく真紅騎士団団長クリスだった。


「あぁ、いたいた。最近姿を見かけなかったから任務だと思ってたけどフラッド殿に聞いたら任務は今入ってないっていうし、一体何処に消えたのかと思ったよ」

「……何か?」

 クリスがこちらにわざわざ足を運ぶ理由が思いつかず、てっきり他にモニカやアレクがついてきているのではないかと思いクリスの背後に視線を向けたが、彼はどうやら一人でここに来たようだった。ドアの外からも特に人の気配は感じられない。


「任務じゃない、って事は私用だろうとは思ったんだけどね。少し腑に落ちないなと。暇があるならイリスと一緒に館に行くのを優先させると思ったけど、実際はどこか別の場所に行っていた。それって今行かなきゃいけない場所だった、って事だよね?

 私がレイヴン、君だとしたらロイ・クラッズの身元を洗うとかそんなところだと思うんだ。

 ……で? 実際の所はどうなんだい?」

「重要性のある任務は確かに今の所はないが、それ以外の仕事だって沢山ある。私用で出かけていたわけではない……と言ったら?」

「あはは、ないない。そこら辺はしっかり他の漆黒騎士団員からも情報収集してるから誤魔化そうったってそうはいかないよ。っていうか、最初に言ったろ? フラッド殿に聞いたって。その時点で察しなよ」


 勝ち誇ったかのような笑みを浮かべるクリスに、レイヴンは露骨に溜息を吐いた。この人本当に面倒臭い。そういった思いを一切隠さず顔に出す。


「ちょっと前にこの国に侵入してたスパイとか、税金ちょろまかしてとんずらした大臣とか始末したばっかだからさ。漆黒騎士団の暗殺任務なんてあったとしても君にばかり、って事はないと思うんだよね。フラッド殿だって最近は平和だから漆黒騎士団も夜間警備とかの通常任務しかしてないって言ってたし?」


 言いながらもクリスはソファに勢いよく座り足を組んだ。

「まぁ、君の話の前に君がいない間に館で起こった出来事を教えてあげようじゃないか。肝心な情報はあまりないかもしれないけどね」

 レイヴンが何かを話す話さない関わらず、クリスは一方的に話し出す。恐らくは、クリスの気が済むまで付き合わされるのだろう。

 実際ここ数日王都を離れていた事は確かだ。以前クリスがイリスと共に館に足を踏み入れた話を聞いて、その後の事はさらっとモニカから聞いたがそれ以降の出来事は全く知らない状態だ。聞いておいても損はないだろう。



「――ってところかなぁ。残る部屋もあと少しだし目的の物まであとちょっと! って所で帰ってきちゃったんだよねー。まぁあまり遅くなるとイリスのご両親も心配するかもしれないし、天気も悪かったし。焦ってヘマやらかすよりはマシだろうさ」


 話の途中でお茶を要求したため、クリスの目の前には現在ティーカップが置かれていた。それを手に取り口をつける。


「……初めの頃と比べると随分物騒になったものだな」

 レイヴンが言った時には棚が爆発しているのだが、そこら辺は物騒という点に加算されていないようだ。


「で? 君は一体ここ数日、本当に何をしていたんだい?」

 話すだけ話したら気が済むだろうと思っていたのだが、どうやらこちらが何をしていたかを知るまでは立ち去るつもりもないらしい。

「ロイ・クラッズについて調べていた。館にあった日記とやらの話を合わせてもまだ確証はない、がロイの言う八つ当たりでイリスの祖父を狙う理由の一つには行き着いたと思う」


「へぇ、こっちでも一応さらっと調べてはみたけど、ロイ・クラッズ自身特にこれといって犯罪歴もないみたいだから出身地くらいはわかったけど、何処で何をしていたとかそういうのほとんど出てこなかったんだよね。

 ……だというのによく推測とはいえそんな所まで辿り着いたものだよ」

「ロイ・クラッズを調べても情報があまり出てこないのは仕方ないだろう。故郷の村を出て王都に来るまでの間、彼はアーレンハイド領内にいなかった」



 ――ロイ・クラッズとイリスの祖父ジョージは同じ村の出身だというのはイリスの話で知っていたし、故郷の村はアーレンハイド領の外れの方とはいえ自国の領土だ。その情報が事実であるというのを確認するだけなら、出来ない事はない。ジョージの方は村を出た後もアーレンハイド領内を転々とし旅をしていたようだが、ロイの方は他国へと出てしまったらしく足取りを掴むのは容易ではなかった。


 だからこそレイヴンはまずジョージ・エルティートの事を調べてみた。ジョージにも特に犯罪歴などはない。故郷を出て旅の途中でイリスの祖母と出会い、王都へと移住。王都で暮らすようになったとはいえ、しばらくは出稼ぎなどで国内を転々としていたようだ。


「それだけだとロイとジョージが再会したのはやっぱり王都で、って事だよね? 特にこれといった因縁もないようにしか思えないけど」

「いや。王都以前に別の場所で会っている可能性がある。ロイの日記の内容から一方的な再会でジョージは恐らくその当時ロイの存在に気付いていないかもしれないが」

「一方的な再会っていうと、たまたまどこかで見かけたけど声をかける事ができなかった、って事でいいのかな?」

 確認するように言うクリスに、レイヴンは頷いてみせた。


「……って、ちょっと待て。ロイは他国へ、ジョージは出稼ぎとはいえ国内を出ていないんだろう? それじゃあ再会なんてできるわけ」

「エルトリオ戦役」

 すぐさまおかしいと思ったクリスが反論するも、レイヴンが発したその言葉に息を呑んだ。


 エルトリオ戦役。

 五十年程前に起こった近隣諸国との争いにして、今の所はアーレンハイドで最も新しい戦争の記憶だ。当時の国境付近だったエルトリオ平原で起こったためにそう呼ばれているが平たく言ってしまえばただの侵略戦争に過ぎない。ちなみに一年ほどで終結、アーレンハイドと争っていた当時の国は現在アーレンハイド領となっている。


「ジョージはアーレンハイド側の兵として、ロイは恐らく当時の敵国側にいたと思われる」

「それなら確かに再会も出来るだろうし、出会ってものんびり話し合いなんてできるような状況じゃない。そして敵の顔なんていちいちじっくり確認する間もない、となれば確かに一方的な再会とやらが起こる条件としては無いわけじゃないけど……あれ、でもイリスの祖父さん騎士とかじゃないよな?」

「志願兵として参加していたようだ。当時の記録というか目録というかに名前だけは載っていた」

 何か不都合でもあったのかレイヴンの表情は厳しい。クリスに対してうんざりしているだけ、というようには見えなかった。


「まだ、何かあったりするのかい?」

「……これはただの想像だが、敗戦国側の兵だったロイのその後はあまりいいものではなかっただろう。五体満足で生き延びただけ、死んだ者たちと比べればマシなのかもしれないがな。

 けれどどうやらエルトリオ戦役でロイは家族を失ったようだ。その数年後、ロイは王都に移住している。その後のロイの事は、あの日記にある通りなんだろう」

 ロイの日記には確かに王都に来るつもりはなかった、というような事も書いてあった気がする。それはつまり、かつて敵対した国だから、という事だろうか。家族を失う原因となった国、と考えればそれはまぁ、憎しみの一つや二つ抱くだろう。こちら側の理屈だと、攻めてくる侵略者に対して防衛行動を取ったに過ぎないと言ったにしても。


「成程、それならロイが言う八つ当たりの意味もわからないでもないな……」

「そしてもう一つ、Wがジョージに興味を抱いた原因も、恐らくはエルトリオ戦役が原因だと思う」

「……まさかWの正体も掴んじゃったとか?」

「いや、それはわからなかった」


 騎士と名がついてはいるが漆黒騎士団は夜間活動や密偵などに特化した部隊だ。だからこそもしかしてと思ったのだが、流石にそこまではわからなかったらしい。……やはりたかだか数日のレイヴン一人での情報収集でわかるほど、甘くないという事か。


「何だか長くなりそうだね。先にお茶のおかわりを貰えるかな?」

「自分で淹れろ」

 大真面目に言うクリスに、レイヴンはまたもや露骨に溜息を吐いた。

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