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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
一章 祖父の知り合いの館は思った以上にヤバい場所だったようです

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閉じ込められたと言い切っていいかは微妙ですが、部屋から出るのが難しくなりました



 この部屋にあった日記には、それ以上特に有益な情報は記されていなかった。

 ロイ・クラッズがモンスターと暮らすに至った経緯だけが淡々と書き記され、その後のページは何事もなかったかのように日々の出来事だけが綴られている。ボギーとやらの生態がもう少し詳しく書かれているとかそういう事もなく。


 他の部屋を見に行こうにも、三階の部屋は全て鍵がかかっている。そして手持ちの鍵は全て使い他の部屋の鍵は見つけていない。

 ……これはいよいよバールが唸りを上げる時が来たという事なのだろうか。


「……イリス、この先どうやら部屋があるようですよ」

「え?」


 壁際にぴったりとつけられた棚の向こう側をアレクが指し示す。

 ほら、と言われ棚と壁の隙間を覗き込むと、確かにドアがあった。


「この棚どかしてみますね。イリスは離れていて下さい」

「はい。……それにしてもよく気がつきましたね」

「床に擦れた部分があったんですよ。なのでこの棚は元々ここにあったわけじゃないんだろうなと」

 言いながらも棚を押して。カチッという音がしたと同時にイリスの鼻先を何かが掠めていった。

「……え?」

 どすっという音がした方向へ目を向ける。見ると壁にまたも矢が突き刺さっていた。飛んできた方向へ今度は視線を向けるが、そこには別にボウガンが置かれたりはしていない。


「大丈夫ですか!? イリス!」

「ちょっとビックリしましたが大丈夫です」

「……どうやら床にスイッチが仕込まれていたようですね。すみません、気付かなかったばかりに」

「いやホント、大丈夫ですから!」


 ボウガンは無かったものの、よく見ると壁に小さな穴が開いている。矢は恐らくここから出てきたのだろう。

 ……何故こんな場所に罠が仕掛けられているのだろうか。

 さらに注意深く見ると、壁に開いている小さな穴はこれだけではないようだ。


「……他にも仕掛けがあるのか、それともあのスイッチを踏むたびにここから矢が出てくるのか……どちらにしても気を付けるしかありませんね」

「ですね。穴を塞いでおくにしても、丁度いい物は無さそうですし……」

 流石に石鹸を細かく砕いて穴に詰めても矢が飛び出てくるのを防ぐ事はできそうにないし、雑巾を壁に貼り付けるにしてもそれを留めるための物がない。

 ついでに言うとあまり綺麗な雑巾ではないようだったし、出来るなら触りたいとも思わない。

 壁にある穴の位置だけを確認して、万一そこを通る時は一気に通り過ぎるか身を屈めて進むのが無難だろう。


 棚で隠されていたドアは、どうやら引き戸のようだった。

 カラカラキィキィと耳障りな音を立てる。

 中は暗かった。見える範囲の壁に燭台は無く、蝋燭の灯りがない事から流石にこの中まではボギーも入り込めなかったという事だろうか。


 ドアから手を離し、アレクは一度引き返すと掃除道具が入っていた所からモップを取った。

「何するんですか?」

「万一の事を考えてこうしておきます」

 言って、引き戸が閉まらないようにモップを置く。手を離しただけで勝手に閉まっていくような引き戸だ。二人が中に入って引き戸が閉まって、その間に外側からボギーがドアを塞ぐような事になれば簡単に閉じ込められてしまうし、確かにこうしておくのが無難だろう。


 警戒しつつもアレクが一足先に中へと入る。途端、ぱっと暗かった室内が明るくなった。

「……何の部屋なんですか……?」

 入口から覗き込むようにしているイリスからは、最初どういう部屋なのかもよくわからなかった。戸に引っ掛けるようにしてあるモップを蹴飛ばしたり踏まないように気をつけつつイリスも中へと入って。


「何これ」

「魔導器ですね」

 部屋の半分を埋め尽くすような装置に対する二人の反応は、正反対のものだった。

「一般家庭には無いものなので知らなくてもおかしくはありません。王都の中にもいくつか設置されていますよ。主に上水道・下水道用の物とか、あとは街灯用の物とか」

「あー……あぁ、これが」

「しかし何故わざわざこのようなものまで……この規模の館ならこんな物を置く必要などないでしょうに。王都の外れにあるならまだしも」


 実物を見た事がないのでわからなかったが、魔導器と言われてイリスは納得する。王都内で設置されている場所も道端にどんと置かれているわけではないのであるという事は知っていても、実物を目にするのは初めてだ。

 これが置かれる前までは普通の家庭では水を汲みにわざわざ川まで行かなければならなかったし、夜も街灯を人の手で灯していかなければならなかったらしいという事だけは教わっている。

 実物を見た事はなくても、生活にすっかり欠かせない道具であるという事は王都に住む者ならば誰でも知っている。


「今この部屋が明るくなったのも、これが原因なんですかね?」

「恐らくは……おや?」


 アレクが何かに気付いたらしく、装置へと近づいて。

「こんな所に鍵が」

「うっかり置いたっていうよりここまでくるとわざとって感じしかしませんね」

「兎にも角にも次の部屋へ行く事ができますね」


 今までの部屋でみつけた鍵はまだうっかり、で済ませられそうだったのだが、この鍵だけはどうにも意図的なものが明確に感じられてあまりいい感じはしない。元々この館では嫌な予感ばかりだったので今更かもしれないが。


 魔導器が置いてあった部屋から掃除用具部屋へと戻る。


 一体いつの間に入り込んだのか、ドア付近にボギーが一匹いるのが見えた。

 大きさは先程襲い掛かってきたものと違い最初に見かけた小さいタイプだったが、それが何やらキョロキョロと周囲を見回して、てくてくと壁に沿って歩き出す。

 こちらを見るなり襲い掛かってきた先程のボギーとは違い、こちらに気付いても襲い掛かって来るどころか何かを探すような素振りをみせていて、こちらを気にしていませんと言わんばかりの態度にアレクは戸惑ったようにイリスの方を見た。

 一応何があってもいいように、剣に手だけはかけて。


「えぇと……何してるんだろ」

「モンスターとはいえ今の所こちらを襲う意思は無さそうですね……」


 声は当然聞こえているだろう。しかしボギーは気にした風もなく進み、目的地についたらしくそこにペタンと座り込んだ。特に何があるわけでもない場所だ。一体何事だろうかと見ていると、床の一部がスライドしてそこからレバーが出てくる。キッチンによくある隠し収納スペースのような物が何故ここに。

 出てきたレバーをボギーはがちゃんと手前に引いて。そのまま立ち上がると、

「プギャーッ」

 こちらに尻を向け、ぺしぺしと叩く。そうして素早く部屋から出ていった。


「……何だろう、イラっとする」

「気を付けて下さい、イリス。確実に罠です」


 気持ち的には追いかけていってあの頭に拳骨の一つでも落としたいところだが、アレクの言う通り確実に罠だろう。

「とりあえず、あのレバー元に戻した方がよさそうですね」

「えぇ、何の仕掛けかはわかりませんが、戻しておいた方がいいでしょうね」

 言って一歩進んだ直後――


 ヒュッ トスッ


「――!?」


 咄嗟にアレクは背後に飛び退っていた。

「え、上から!?」

 イリスが天井を見上げる。そこには壁にあったような小さな穴がずらりと並んでいた。たった今降ってきた矢は言うまでもなくそこから発射されたものだろう。


「……先程と違って何かのスイッチを踏んだり、という事で発動するわけではないようですね。先程歩いた部分と同じ場所を進むつもりで足を踏み出した結果がこうですから」

 引き戸に掛けてあったモップを手にすると、試しに目の前の床に放る。


 カカカカカッ!!


 モップの柄に次々と矢が刺さる。何射目かの矢で柄に亀裂が走り、床に落ちる頃にはモップの柄は真っ二つだった。


「上どころか今壁からも発射されてましたね」

「……厄介ですね」


 このままでは下手に動けない。最悪、部屋から出られない。

 閉じ込めフラグを回避したと思っていたが、どうやらまだ回避しきれていないようだった。

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