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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
一章 祖父の知り合いの館は思った以上にヤバい場所だったようです

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公開処刑に躊躇いがない事に定評があるとはよく言われる、と宣言されても困ります



 鍵を開けて入ったその部屋は、一見すると以前入った客室を更に簡素にしたような部屋だった。

 ベッドと、小さめのクローゼット。それから机。

「……使用人部屋といったところかな」

 必要最低限の家具しか置かれていない室内を見回してクリスが呟く。

 確かにこの部屋は寛ぐための空間というよりは、身支度を整えるのと寝るだけくらいしか利用されない部屋のような気がした。

 鍵に記された番号が3だったという事から、恐らくは1と2も同じような使用人部屋なのだろう。


 クリスの後ろからついていくように部屋に入ったイリスも、ぐるりと部屋の中を見回して。

 何だか妙に圧迫感のある部屋だな……と思う。この隣にあった部屋が置かれていた物の割に広々としていたから、余計にそう思うのかもしれない。


「使用人部屋なら、もしかしたら三階の部屋の鍵とか無いですかね、もしかして」

「……どうだろうね。あまり期待はしないほうがいいと思うよ」

 言いながら、クリスは机の引き出しを開けてみる。そこには分厚いノートが一冊入っていた。


「あれ、これ隣の部屋で見つけたのと同じやつだ……って事はこれも日記?」

「使用人の部屋にこの館の所有者の日記があるってのも可笑しな話じゃないか。日誌だと思うんだけど……あぁ、いや、日記だった」

 ぱらりと捲ったそこには、以前見かけた筆跡で文字が記されていた。しかしやはり日付は書かれていない。


「『全てを無くし失意のままに訪れた王都、アーレンハイド。出来る事ならここには来たくなかったが……他に行くあてもない。たまたま仕事で知り合った人物の紹介で、アーレンハイドへの移住はあっけないほど簡単に受理された』……ねぇ。日付も何もないけど、結構昔の話になりそうだな、これ」

 仮にも他人の日記を、事も無げに音読する。イリスが何か言いたげに見上げてきたが、見られて困るような物ならそれこそ厳重に保管しておくべきだと思う。そもそも使用人と思しき部屋にある時点で、多分他の誰かの目にも触れてる可能性が高い。

 イリスの視線に構わずに、続きを口にする。


「『この国は酷く穏やかだ。それが余計に辛い。もっと早くここに来ていれば、失う事もなかっただろうか。無くしたものの代わりを見つけるつもりもないが、最近新しく友と呼べる相手ができた。これは喜ばしい事なのかもしれない。けれど同時に酷く申し訳なくも思う』

『偶然、懐かしい顔と再会した。何十年ぶりだろう。村を出た後一度見かけた事はあったが、あの時は言葉を交わす余裕などなかった。向こうはきっとその時の事など知りもしないだろう。何もしらないあいつを見ていると、頭ではわかっていても酷く苛々する』

『最近沈みがちだった自分の事を心配した友人が、気分転換にと新しく出来た店に案内してくれた。友人の知人が経営しているというその店は、居心地がいい』

『仕事場と家を往復するだけだったが、最近はよくあの店に足を運んでいる。家に一人でいるとどうしても気分が沈むからだ。すっかり常連と化してしまったが、そういえば最近友人の姿を見かけない。店主に聞いても言葉を濁される。何かあったんだろうか……?』

 ……うん、ホントただの日記みたいだね」


「わざわざ音読しなくてもいいじゃないですか。本人いたら今頃両手で顔を覆って乙女座りで泣くか悶絶してますよ。公開処刑みたいな真似しなくてもいいと思うんだ」


「いやー、何か重要な事とか書いてないかなーって思ってそれっぽい雰囲気の部分だけ読んでみたけど、重要そうに見えて全然普通だったね」

 せめてもの情けかノートを元あった場所に戻そうとして、ぱたんと閉じるのと同時に。

 ちゃりんと小さな音がする。


 ふと音のした方へ視線を向けると、恐らくはノートの一番最後のページあたりにでも挟まっていたのだろう。鍵が一つ転がり出てきた。

「あったね、鍵」

「これが三階のどこかの部屋のならいいんだけどね」

 拾い上げ、とりあえずは使用人部屋の鍵を纏めてある輪と一緒にする。


 別の引き出しを開けてみたが、そっちには何も入っていなかった。ついでとばかりにベッドの下やらクローゼットの中も確認してみるが、これ以外の鍵はこの部屋にはないようだった。


「それじゃ、隣にでも――」

 行ってみようか。そう言う前に、ぱたぱたと軽やかな足音が聞こえたような気がした。

「……服が保管されてたところは前に鍵かけてきたし、そうなると次の部屋かな……でもそっちも鍵かかってるかもしれないんだよね」

「予備の鍵があれば関係ないだろ、そんなの。けど、どうやら確実に誰かはいるみたいだね。できれば話し合いが出来る相手ならいいんだけど」

「どういう意味ですか?」

「館の管理人ならいいけど、もしここが無人だという事に目をつけて隠れ住む事にした犯罪者の類だったら面倒だなぁっていう意味。犯罪者とっ捕まえるのは基本琥珀とか白銀の役目だからねー、あとは漆黒とか」

「おいちょっと待てそこの騎士。所属が違うからって軽やかに職務放棄発言とか言っちゃだめだろ、せめて思うだけにしとけ」

「まぁここに他に騎士はいないからね。万一犯罪者だったとしたら私がどうにかするしかないってのはわかってるよ。いくら面倒でも流石に職務放棄はしないから安心したまえ」


 にこやかに言われても信用できないのは何故だろうか。人徳か、人望か。


 念の為前回モニカと入った部屋の方を確認してみたが、そちらにはしっかりと鍵がかかっていた。

 恐らく2の鍵に対応しているであろう次の部屋に鍵を差し込む前に、何を思ったかクリスはドアに耳を押し付ける。

 何となくイリスもそれに倣って同じような行動に出た。


 ぱたぱたぱた……


 軽やかな足音は部屋の中から聞こえてくる。

 ……思わず息を潜めるイリスにクリスは無言で自分の後ろに行くよう手で指示を出し、その背に隠れるようにイリスが回り込む。自分を見上げてくる少女と無言でお互い小さく頷いて、中の相手に気付かれないようにクリスは音をたてないようそっとドアノブを回す――が、やはりというべきか鍵がかかっていた。ドアノブから手を離す時も細心の注意を払い、そっと鍵穴に鍵を差し込む。カチリと小さな音がしたが中から聞こえてくる足音は止まない。どうやら気付いてはいないようだ。


「騎士団の者だ、動くな!!」


 そう言い放って踏み込んだ部屋には――誰もいなかった。

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