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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
終章 五年ぶりに姉が帰ってきました

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巻き込まれますは普通の一般市民です!



 ある程度距離を置いてから、一旦彼女は足を止めた。

 さて、話題かどうかはさておき、『人喰いの館』らしきものは解体されていたようだし、そこで無理に粘っていてもそこにいた騎士からいらぬ嫌疑をかけられるだけなのでその場から離れた事は間違っていない。

 だがしかし、他にどこかを見て回ろうにも特に何も思い浮かばないのは問題だった。


 いっそこのまま公園突っ切って西区にある祖父の家を訪ねようかとも思ったが、一人で行ってもなぁ、とやや躊躇う。そもそも手土産らしき物は一切持たずに戻ってきてしまったので、行くならせめて何か買っていくべきなのだろう……とは思うが、ここで売っている物を買って持っていくというのもまた微妙な話だ。

 だったらせめて妹と二人で訪れて土産話でもした方が余程マシだろう。


 ……こうなれば早く帰るのがいいんだろうなぁ、と思いつつもどうにも足が進まない。家族には今の今まで手紙でそのうち帰る、とは書いていたもののそのうち、と言いながら気付けばもう五年だ。帰ったとして文句は言われないだろうがそれでももっと早く帰ってこい、くらいは言われるだろう。そこまではいい。母あたりは一言口にすればそれ以上深く言ってこないとは思うが、問題は父だ。かつて冒険者として色々な場所を訪れていた父は、自らの経験を元にちょっとでも危なそうな場所に近付こうものならそれはもう鬱陶しいくらいに心配性を発揮する。

 彼女が娘ではなく息子であったなら恐らくそこまで口煩くは言われなかった、とは思うが。

 あまり早い時間から帰るとその分くどくどと言われる時間が増えそうなので、正直まだ帰りたくはない。日が沈む前に帰ればいいかな、とは思うが、その時刻まではまだかなり時間がある。


 ――結局、五年も戻らなかったのだから多少店なども新しいのが出来ていたりするだろう、そう思いそこらで時間を潰す事にした。


 出来立てだよ、の一言に釣られ肉まんを買い、それを口にしながらぶらぶらと歩いていた時だった。

 見慣れない店を発見する。……彼女が王都を出る前には無かったので、新しくできたのだろう。外から見る限りは雑貨店のようだ。少しくらいなら時間を潰せるだろうと判断し、彼女はその店に足を踏み入れた。


 店に入って即座に失敗したな……と思ったが、顔には出さず、ついでにそそくさと店を出そうになった足を何とか踏み止まらせる。明らかに態度に出したらアウトだ。あくまでも自分はここに用があってやって来た、そんな風を装ってなるべく誰とも視線を合わせないようにして壁側にある棚に飾られた商品へと目を向ける。


 店内に客は数える程しかいない。店員も見える範囲にいるのは一人だ。

 ……店員が知り合い(それもさして仲がいいとは言えない)だった、とかならまだ良かった。それならまだ素直に顔を顰めて踵を返して店を出ても許されただろうから。

 彼女を除いて今いる客は三人……たった今一人が店を出たので彼女を含めて三人になる。上手いタイミングで脱出したな、とたった今出て行った客の背を見やる。

 並べられている商品に目を向けている振りをしながら、先客の様子を窺う。そこにいたのは白銀騎士団の青年と瑠璃騎士団の制服を着た女性だった。どちらも目の保養になりそうな顔立ちをしていててっきり恋人同士でやってきたのかと思ったが、聞こえてくる会話から判断するにそんな甘ったるい関係ではないらしい。


「んもう、もっとしっかり選んで下さいまし」

「そうは言いますが、これだっていうのが無いんですよね」

「食べ物でいいよーとか言ってましたけど、やっぱりどうせなら形に残るものがいいじゃないですか。こういうのって。ですがだからといって使い道もないような置物あげたところで埃かぶってそのうち捨てこそしないものの物置に放置とかじゃ意味がありませんもの」

「それはまぁ……そうですが」


 最初の部分を聞いただけなら瑠璃騎士の方が白銀騎士に何か贈ろうとしているが白銀騎士があまり乗り気ではない……といった風にも見えたのだが、どうにも様子が変だ。真剣そのものな顔をしている瑠璃騎士はまだいい。乗り気じゃないのかなと一瞬でも思った白銀騎士の方も眼は真剣に並べられている商品を見ていた。乗り気じゃない……わけではないらしい。

 となると他の誰かの贈り物か……とどこか微笑ましくなりつつも、何故だろう。二人の放つ雰囲気があまり微笑ましさを感じさせてくれないのは。


「あまり高い物を贈ると遠慮されてしまいますし……」

「そうなんですよね。先日装飾品を贈ったら全力で遠慮されてしまいましたし」

「本人の希望に添えるなら食べ物なんでしょうけど、今回に限ってそれはちょっと……」

「いっそ我が家で食事でもどうでしょう、と誘うのも考えたんですが」

「それは却下しますわ。そうやって何度も家に招待してそのまま外堀から埋めようなんて考えでしたらシャイニングエッジぶちまかしますわよ」

「外堀を埋めるだなんてとんでもない。最終的にいっそうちで暮らしてくれればいいなと思っているだけです」


 真顔で言い切った白銀騎士に瑠璃騎士が即座に肘を叩き込んだ。しかし鳩尾に綺麗に入ったわりに男の方は顔色一つ変えない挙句微動だにしない。

 今……確かに「ずどむ」としか言いようのない鈍い音がしたはずなのに、仕掛けた方も喰らった方も表情一つ変えないとか、何この騎士怖い。これくらいの事で表情一つ変えないのが騎士として当然の事なのだろうか。

 そんな風に思いながら彼女はそっと二人から距離をとった。とばっちりがくるとは思っていないが、念の為だ。


「装飾品ですら遠慮なさるとか、本当に奥ゆかしいですわよね。……しかし困りましたわ。だとすると贈る物が余計に限られてきてしまいます。流石に館一つぽんと差し上げるわけにもまいりませんし」

「装飾品以上に拒否られますよ。というかそれは僕からも却下です。そんな住む場所を提供するような真似をされたらますます遠のくじゃないですか。色々なものが」

「それを阻止するために是非ともわたくし館を贈呈したくなってきました。……とはいえ、本人が貰ってはくれなさそうですけれど。困りましたわねぇ……」


 聞こえてくる会話は相変わらず誰かに贈る物で悩んでいるものの、お互いがお互いを牽制し合っているようにしか見えない。……気のせい、ではないはずだ。

 これは本当に関わったら厄介な事になりそうだ。そう判断すると彼女は適当に棚に目を向けて、小さく溜息を吐いた。表面上は穏やかに会話しているはずの二人だが、見ていると何故かかなりギスギスした騎士に同じく関わりたくないといった空気を出している店員はまるでどうにかしてくれと言わんばかりにこちらを見ていた。おいおいたまたま来ただけの客に助け求めるな自分でどうにかしれくれ、と言いたいがうっかり口に出したら最後、見事に巻き込まれそうだ。


 一先ず特に目ぼしいものがなかった、といった雰囲気で彼女はあくまでも自然な動作で出入口へと足を向けようとした。入る、即出る、では明らかに不審だが入る、しばらく商品を見る、それから出るという流れなら不自然でもなんでもない。

 店員がこちらに何かを訴えるような視線を向けてきている気がするが、そんな気配も雰囲気も何も知りませんよと言わんばかりに店を出ようとして。


「あの……すみません」

 何故か瑠璃騎士の方に声をかけられた。店員に声をかけたのだろうと思ってそのまま店を出ようとしたら何故か腕を掴まれ呼び止められたので、彼女が呼び止められたという事実は間違ってはいない。

 どうして店員に声をかけない、と思ってちらりと視線を向けると店員は棚の陳列をおもむろに変更していた。今それやる必要なくないか? 思わずそう声に出しかけたが、下手に突っ込んで無駄に注目を浴びるのは得策ではない。いや、この場にいる人間が限られているのだから、声をかけてもいいのかもしれないが、下手に突っ込みを喰らうと墓穴を掘るような気しかしない。


 いやしかし、だ。店員が何やら忙しそうに作業をしていたとしても、声をかけるのはこの場合その場にいた第三者的立場の彼女ではなくやはり店員にかけるべきではないだろうか。……待て、もしかしたら商品を盗んだとかいう不名誉極まりない疑いをかけられている!? 一瞬でそこまで考えたが、腕を掴んで呼び止めたままの瑠璃騎士の様子から見るとそうでもないようだ。

 だとすると一体何故声をかけられたのだろうか。


「えぇと……何か?」

 これは……相手をしないといけないんだろうなあ、どうして声かけてきたのかなあ。思わずそう言い出しそうになるがぐっと堪え、彼女は口許を隠すようにマフラーを引き上げた。

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