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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
三章 黒幕の館に強制的にご案内されました

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決着がついたと思うのですが



「おや、一気に形勢不利というところでしょうか」

 未だに余裕がありそうな態度のウィリアムだが、ウォルターが動けなくなった時点で数の上では圧倒的に不利だという点は理解しているようで、嘆息した後で彼はひょいと小さく両手を上げた。降参の意を示すかのように。

 だがしかしそれより早く、アレクがウィリアムに飛び掛かる。

「そうはさせませんよ?」

 相も変わらず笑顔のままである。両手をがしりと掴みそのまま床に押し付けるようにすると、ウィリアムの白衣の袖口から何かがころりと転がり落ちてきた。

 小さく丸い形をしていたが、それが何であるのかイリスにはよくわからなかった。アレクが阻止したという事は、武器か、目くらましの為のアイテムか……

 ウィリアムもやはり素直に降参するつもりではなかったようで、床に押し倒された状態であるにも関わらずそこから足を振り上げてアレクへ蹴りを入れるつもりだったのか、それともただ勢いをつけただけなのかはわからないが、アレクはそこから投げ出され――何とか体勢を整えて着地する。まるで猫のように。

 ウィリアムの方もやや強引に振り払ったせいで無茶な体勢になっていたが、即座に立て直し速やかに立ち上がると床に落とされていた自らの剣を足で弾いて受け取り、お返しとばかりにアレクへと斬りかかる。

 即座にそれを阻止したのはレイヴンだったが、ウィリアムも深追いするつもりはなかったようですぐさま身を引いた。


「貴方の剣は、黄金騎士団の方々と太刀筋がよく似ていますね」

「それは恐らく……ウォルターから教わったのだろう」

 答えたのはウィリアムではなくフラッドだった。ウォルターについて知っている事と言えば、彼がWと名乗り何だか怪しげな実験をしていたりした事と、名前くらいである。彼が騎士であった、という事はレイヴンからちらりと聞いた。もっともどこの騎士団に所属していたかまではわからないが。しかしこの中で最も長く騎士団に在籍しているフラッドは知っていたのだろう。

「もっとも、ウォルターとの関係まではわからんがな」


「ただの友人ですよ」

「ただの友人というだけで、ここまでするのですか!?」

 モニカが驚いたように声を上げるが、ウィリアムはそれを一瞥しただけだった。

「ここまで、というのが何に対してかはわかりませんが……何だか面白そうな事をしていたから私から彼に声をかけた。その後彼の研究を手伝ったりもしましたが……滑稽ですよね。決して成功する事のない研究に人生費やして。

 まぁ、折角なので彼には色々役に立ってもらいましたけれど。……いつまで休んでいるんです? ほら、早く起きなさい」

「っ、まさか!?」

 ウィリアムの声に反応するように、ウォルターがゆっくりと起き上がる。パラパラと何かが落ちる音がして、床へ視線を移動させると黒焦げになっていた部分が剥がれ落ち――再生していた。


「皆さん、すいませんがウォルターの方頼みます」

 ウォルターをどうにかするよりもまずはウィリアムの方を、と考えたのだろう。アレクはさらりとそれだけ言うと、躊躇う事なくウィリアムへと突っ込んで行く。流石に単騎で突っ込んでくるとは思っていなかったのだろう、動揺したらしいウィリアムだったが、即座に剣を構えアレクを迎え撃つ。武器がある分、間合い的に有利なのはウィリアムだった。アレクの胴を薙ぐように剣を振ったが、直後アレクの姿が消えた。

「なっ……!?」

 姿勢を低くして、とか上に跳んで、とかではないらしい。ウィリアムの目がアレクの姿を探そうと、忙しなく動く。

 ウィリアムと同じようにイリスもアレクを探していた。対峙していたウィリアムだけでなく、少し離れた場所にいたイリスからもアレクの姿は消えたようにしか見えなかった。


 次の瞬間、ウォルターの身体が横から来た何かによって吹っ飛ばされた。応戦していたモニカたちですら、一体何が起きたのかわからなかったらしい。モニカに至ってはびくりと肩を震わせていた。吹っ飛んだウォルターがウィリアムにぶつかりそうになる。命中して下敷きになる事だけは免れたようだが、肩のあたりに掠ったらしく、ウィリアムは剣を取り落としていた。

 一体何で吹っ飛んだんだ……そう思いイリスが先程までウォルターがいたあたりへと視線を向けると、そこには上げていた足を下ろしかけているアレクの姿があった。


「……まさか、ウォルターを蹴り飛ばした、って事……?」

 これがウィリアムやレイヴンあたりの細身と呼べる相手ならまだわかる。しかしウォルターはこの場にいる誰よりも身体が大きく、そして重さもありそうだった。蹴りを入れるだけなら誰にでも出来るだろう。しかし、それだけの相手に蹴りを入れて吹っ飛ばすとなると……事実吹っ飛んだというのに、目の前の光景がイリスには信じられなかった。それ以前に、いきなりウィリアムの目の前から消えて一体いつの間にウォルターの背後へ回ったというのか。この中で一番素早いのはレイヴンだとばかり思っていたが、今のアレクはそれを軽く上回っているのではなかろうか。


 すっと足を下ろしたアレクが、即座に駆け出す。倒れたウォルターには目もくれずウィリアムが体勢を整え剣を拾う前に、ウィリアムが伸ばした手を掴み――


 ごきんっ。


 鈍い音が響いた。

 声無き悲鳴を上げたウィリアムが無事な方の腕で、音が響いた箇所を押さえる。

「折ってはいません。肩を外しただけなので、戻そうと思えば戻せますよ。……まぁ、少々乱暴に外したのでかなり痛いんじゃないかなとは思いますけど」

 あまりの痛さによろけ、バランスを崩し片膝を床につけたウィリアムを見下ろしながら言い放つ。

「……っ、ウォルター……!」

 苦々しげにアレクを見上げるウィリアムがその名を呼ぶと同時に、倒れていたウォルターが跳ね起きアレクへと襲い掛かる。


「――イグニートジャベリン!!」

 アレクが反応するよりも早く、ウォルターを襲ったのはクリスの放った術だった。勢いよく命中した炎によりウォルターは一瞬にして火達磨になる。

 あまりの熱さから逃れるようにもがき、足をよろめかせアレクたちから少し離れた場所で倒れる。

 魔術による炎は――そもそも建物が魔導器で護られている事もあり――他へ燃え移らずウォルターだけを焼き、それがやがて消える頃にはウォルターは黒焦げになっていた。


「な……何故……」


 信じられないようなものを見る目でウィリアムがクリスを見る。そうだ、クリス自身言っていたはずだ。罠にかかって魔術は使えないと。自分の顔は見えないが、恐らくイリスもウィリアムと似たような顔をしているのだろう。


「普通の相手なら数日は魔術が使えない状態だったかもしれないし、私も特に何の対策もしていなければそうだったけど。仮にも真紅騎士団の長を務める立場だよ? 魔力を封じられる事に対して何らかの対策をしていないとでも? って言ってもちょーっと時間かかったけどね」

「魔力を封じられて、その日のうちに解除できるなら上出来だと思うが」

 はははと軽く笑ってみせるクリスの横で、レイヴンがぽそりと呟く。確かに本来なら数日魔力を封じられ魔術が使えない状態が続く事を考えると、ここに足を踏み入れて魔力を封じられてから使えるようになるまでの時間など、ほんの一瞬のようなものだろう。


(こっちももう少しなんだけど……ってのは、この事だったのか……)

 それにしても、あのウォルターを一撃の魔術で仕留めるとは……アレクも大概だがクリスも随分と規格外だと思えてしまう。

「ふむ。どうやら完全に形勢逆転したと言ってもよさそうだな」

 すっかり使い物にならなくなった大剣を鞘へとおさめ、フラッドが言う。


 確かにその通りだった。先程まで苦戦していたウォルターは今はすっかり炭と化し動かないし、かなりの実力を持つと思えたウィリアムも利き手をやられた状態だ。対するこちらはフラッドの武器が使えなくなったとはいえ、静かなる鬼神と化したアレク、特に怪我をした様子もないレイヴン、魔術を使えるようになったクリス、魔力を消費しきったとはいえそれ以外は問題なく動けるモニカと揃っている。正直この面子ならアレクとクリスに任せて、いざという時のストッパーとしてレイヴンがいれば後はどうにでもなりそうだとさえ思える。


「ねぇウィリアム、君がWだったっていう事実には少しばかり驚いたけどさ、その他諸々の話はここじゃなくて詰所で聞くからそろそろ終わりにしようじゃないか」

 片膝をついた状態から何とか立ち上がり、ふらふらとした足取りながらも未だに諦めていないのかやや距離を取ろうとするウィリアムに、クリスが宥めるように声をかける。


「終わり……? えぇ、そうですね。そうするとしましょうか」


 クリスの言葉に、というよりはまるで自分に言い聞かせるかのように呟いて、ウィリアムはそのまま後ずさる。そうして背中が壁についたのと同時に。


 室内の明かりが、消えた。

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