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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
三章 黒幕の館に強制的にご案内されました

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これで弱点がなかったら詰んでました



 ようやく邸から外に出てこんな場所とはおさらばだ、と高らかに宣言してしまいたかったがそうすんなりとはいかないらしい。一階へ行くための階段付近にいるウォルターは明らかにこちらの進行を阻止するつもりのようだった。


 まず最初に動いたのはレイヴンだった。双剣を抜き放ち躊躇う事なくウォルターへ向かって駆ける。次に動いたのはクリスだった。本来ならば後方から魔術で攻撃するべきであろう彼は、しかし今現在その魔術を封じられている。更に言うならばレイヴン同様真っ先に敵と対峙するはずのアレクは武器がない状態だ。武器を所持しているクリスがアレクのかわりに続いたのは、当然の流れだったのだろう。


 そしてクリスのかわりにアレクが魔術での支援をするつもりのようだった。クリスと違いアレクは魔術を発動させるのに詠唱が必要なため、術を発動させるのにはまだ少し時間がかかりそうだ。

 モニカもダガーを構えてはいるが、ウォルターへと向かって攻撃を仕掛けるというよりは牽制のために、というような感じだった。


 鈍い音と僅かだが焦ったような声がしたのは、その直後の事だった。


 レイヴンが斬りかかった直後にクリスも追撃をしかけるつもりだった。レイヴンの攻撃を受け止めて怯めば良し、躱されてもその隙を突いて攻撃できるはずだったのだ。レイヴンの攻撃を受けてもウォルターが平然としていなければ。

 レイヴンの方も一撃で仕留める、というような攻撃を仕掛けたわけではない。すぐ後ろからクリスが来ていたのは気配でわかっていたし、だからこそまずは相手の隙を作るつもりだった。隙をついて奇襲攻撃を仕掛けるならともかく、真正面から向かっていっているのだ。まず間違いなく攻撃は受け流されるか躱されるかのどちらかだとレイヴン自身、考えたうえで攻撃を仕掛けた。反撃を受ける可能性も高かったため、相手の動きはどんな小さなものでも見逃さないように注意深く観察していたはずだった。


 だがレイヴンの予想をあっさりと裏切って、ウォルターは攻撃を避ける事もせず真正面からその斬撃を受けた。皮膚もなく筋肉やら骨やらが見えている状態でもあるウォルターは、それこそ斬られれば大抵の傷が致命傷になりそうな気がしていたのだが……肉を斬る音というよりは鋼にでも打ち込んだような重たい音がしてレイヴンの剣が跳ね返された。そしてレイヴン目掛けてウォルターの拳が振り下ろされる。


 咄嗟にそれを躱し、レイヴンの後ろから続いていたクリスも慌ててそれを避けるように身を捻る。

 重い、それこそ魔導器がなければ床に穴が開いたであろう程に重たい音がして、僅かに足下が揺れた気がした。

 ウォルターの拳が床に叩き付けられたその隙に再びレイヴンが斬りかかるがやはり鈍い音がして弾かれる。


 関節部分を狙ってクリスがレイピアを突き刺したが、それも貫通する事なく弾かれた。

 床に打ち付けていた手とは逆の手がクリス目掛けて振り払おうとするのを見て、反射的に距離を取るべく飛び退りはしたが、空振ったその手から凄まじい風圧が生じる。


「ファイアーボール」


 あまり詠唱に長い時間をかけていられないと判断したのかアレクが先程まで唱えていた術を中断し、即座に放てる術を発動させたがタイミングが悪かった。振り払おうとした手から生じた風圧がアレクの発動させた術をも弾いて、ウォルターの攻撃から逃れたクリスの方へと向かう。

「うわっ、ちょっ……!」

 制服の裾のあたりを掠めていった火炎球は壁に当たって四散し消滅した。


「危ない所でしたわね……魔術にもある程度の耐久性がある制服だから良かったものの、そうじゃなければ火達磨でしたわ。……んもぅ」

「モニカ、ものすっごくナチュラルにクリスが助かって残念です、みたいな態度出てる。せめてもうちょっと隠そうか。頼むから」


 こういう状況でも一切ぶれないモニカに感心するべきなのか恐れ戦くべきなのか……暢気に考えている余裕は無さそうだったのでとりあえず突っ込むだけに留めておく。


「しかし厄介ですね……生半可な術じゃ通じないようですし、術じゃなくても攻撃が通らない」

「こちらが万全の状態で挑んだとしても、果たして倒せるでしょうか……」


 モニカとアレクが深刻な声色で言っているのを聞いて、あんな化物から今までよく逃げきれてたな……と今更のように思う。力や耐久性は抜群らしいが、素早さはそこまでではない。これは何度も逃げていたイリスから見ても確かだろう。


 少し離れた場所でレイヴンがクリスに何やら話しかけているのが見えたが、ここからでは何を言っているのかまではわからなかった。

 ウォルターはというと、積極的にこちらに襲い掛かるつもりはないのか先程からあまり位置は移動していない。だからこそ向こうでもレイヴンとクリスが会話をする事ができているのだろう。もっとも、この状況からして決して良い事だとは言えないが。


 真っ向勝負を挑んでも勝ち目があるのかはイリスにはわからない。モニカやアレクに問いかけたとしても、難しい顔をされるのは予想できる。どうにかして階段のあるあの場所からウォルターを引き離す事ができればその隙に一階に行って玄関を開けて逃げ出せるのだが……

 しかしそれを提案する事はできなかった。もしその案が通ってしまえば、言うまでもなく鍵を持っていてかつ非戦闘員であるイリスが玄関へ向かう事になる。その間四人はウォルターの注意を引きつける側に回るのは当然の流れだ。

 玄関さえ開けてしまえばイリスは無事に脱出できる。しかし、他の四人が全員同時に一階へ向かうのは難しいだろう。


 最悪、一番最後に残された人物を見捨てる可能性も出てきてしまう。


 それならば一時的にでもウォルターを戦闘不能状態にしてその隙に逃げた方が良さそうな気がした。一時的とはいえ、現状でどうすればそうなるのかはイリスには思いつきもしなかったが。


 視線をウォルターの方へと向ける。弾かれるとわかっているようだが、またもやレイヴンが攻撃に転じている所だった。その近くにいると思われたクリスの姿は見当たらない。一体どこに……そう思い視線を巡らせると、こちらに向かってきているのが見えた。


「正直、私の腕じゃ足手纏いになりかねない。というわけで代わりに君が行ってきてくれないかな?」

 自嘲するような笑みを浮かべ、クリスが言う。手にしていたレイピアをアレクに差し出しながら。

 クリスも騎士団長と呼ばれる立場ではあるのだから、決して剣の腕が悪いわけではない。しかしウォルターを相手にするには少々厳しいようだ。このままレイヴンと共に攻撃を仕掛けていても隙を作るどころか逆にこちらが隙を作ってしまいかねないと判断したのだろう。


「……使い勝手は悪いかもしれないけど、無いよりマシだろう?」

 レイピアへと手を伸ばしかけたアレクに言うが、受け取る直前で手が止まる。


「……モニカ、貴女のダガーを貸して下さい」

「え? わたくしの、ですか……?」

「使い勝手が悪いというのなら、どちらも似たような物です。それからクリス、万が一という事もありますから、モニカとイリスを頼みます」

「あぁ、わかっているよ」


 使い慣れたロングソードと比べれば、クリスのレイピアもモニカのダガーも使いにくい事にかわりはない。一通りの武器を使いこなせるように教わってはいるが、普段から使用している武器と比べるとやはり差は出てしまう。

 けれども、レイピアよりはダガーの方がマシな気がした。やや戸惑いがちにモニカがダガーを差し出す。それを手にすると、アレクはウォルターへと向かい駆けていった。


 ほぼ通用していないようだが手数の多さで攻めていたレイヴンが駆けてくるアレクに気付いたのか、ウォルターの注意を自分へ向けようとあえて隙を作るとウォルターはすかさず反撃してきた。それをギリギリで躱しウォルターの視界にアレクがなるべく入らないような位置へ移動する。

 レイヴンの意図にアレクも気付いたのだろう。なるべくウォルターの死角になるような位置から攻撃を仕掛けた。


「薄々理解してはいましたが、やはり堅いですね……!」

 何度目かの鈍い音とともに、武器が弾かれる。

 クリスからレイピアを借りていたならば、恐らくは早々にレイピアは折れていた事だろう。



「……さて、完全にあの二人頼みになってしまったけれどモニカ、君はあとどれくらい術を行使できそう?」

「難しいですわね。先程予想以上に魔力を消費してしまいましたので。治癒術なら大きめなのを二、三度といった所でしょうか」

「……ギリギリだね。とりあえずあいつその場をほとんど動かないからダークブリンガーを一つ発動させてみてくれないか?」

「どういうつもりですの?」

「レイヴンの仮説が正しいかどうかが知りたい。それだけだよ?」

 弾かれながらも攻撃の手は緩めない二人を眺めながらそう言ったクリスの表情は、特に何かを企んでいるようには見えない。仮説……? と小さく呟いてモニカは眉を寄せたがレイヴンの、という部分で何かを納得したらしい。早口で詠唱を開始する。

 レイヴンの仮説、というのは先程向こうで二人が何やらしていた会話の事だろう。どういうつもりなんだと思いながらクリスを見るが、すぐにわかると言わんばかりの顔をされたのでイリスはウォルターへと視線を戻した。

 見ると二人は大体の箇所に攻撃を仕掛けそれら全てが弾かれたからか、剥き出しの眼球に向けて攻撃を仕掛けようとしていた所だった。流石に眼球も金属並に硬い、というはずはないと思いたい。実際他の攻撃はそのまま受けていたウォルターが眼球への攻撃は防ごうとしていたので、上手くいけば攻撃が通じるのだろう。


「ダークブリンガー!」


 ウォルターの注意が完全にアレクとレイヴンへと向いている中で、モニカの術が発動する。

 焦ったようにその術を躱そうとしたウォルターだったが、アレクとレイヴンの攻撃も防ぎながらだったためか、僅かに遅かったらしい。足下から伸びた影のような黒い剣はウォルターの背中を掠めていった。


「……うん、やっぱりレイヴンの仮説は正しかったみたいだね」

 弾かれる事もなく、それどころか掠っただけだというのにかなりのダメージだったらしいそれを見て、クリスが苦々しげに呟く。

「あいつ、魔術以外はほぼ通用しないみたいだ」

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