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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
三章 黒幕の館に強制的にご案内されました

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脱出は案の定失敗しました



 時計がないため正確な時間はわからないが、窓の外から見える太陽の位置からすると大体昼……くらいだろうか。

 もっとも、時計がある場所へ行ったとしてもこの邸の中の時計は既に時を刻む事を止めているのでどの道正確な時刻など知りようがないのだが。


 人とは違う異形――名など必要なかったのだがそれでは不便だと言われボギーと名付けられたそれは、テーブルから飛び降りると今度は窓際へと登る。人より小さな身体では、人が住んでいる場所は不便ではあるがもう慣れた。

 ここからなら外が良く見える。しばらくじっとそうして眺めていたが、誰かが通る気配はない。

 先程部屋を出ていった少女は、まだここから脱出できていないようだ。


「……ふむ、そりゃまぁ、あやつは大体二階におるからのぅ。どう頑張っても見つかるわな」

 顎髭を撫で付けつつ呟く。おかげで自分が二階の部屋を片付ける時も大変だった。なるべくあれには手を出すな、と主から言われていたが、何度うっかり手が滑っちゃった、みたいなノリで罠を仕掛けてやろうかと思った事か。

 主もどうせならこちらに手を出さないようにしておいてくれてもいいものを。

 あれのせいで一階と二階の掃除は恐ろしく骨が折れた。妨害さえなければさっさと終わったのだが、片付けたり逃げたり隠れたりと片付けるよりも身を隠す方に費やした時間の方が多い気さえする。

 もしあれの攻撃を喰らえば、恐らく自分はひとたまりもないだろう。……仮にそうなったとしても、主が困る事もなさそうだ。ここの片付けは何となく命じただけで、もし途中であれに襲われ死んだとしてもかまわない――そう考えている事だろう。


 わしの扱い結構酷くない? そんな風に考えて。

 とはいえ創造主相手に造反できるわけもなく。創られた身の上の悲しい所である。


 さてさて、外に出られた様子もないし、そろそろあの嬢ちゃん戻ってくるんじゃなかろうか。そう思った直後、パタパタと軽やかな足音が聞こえてくる。ふむ、予想通り。



 だがしかし予想に反してどうやら違う部屋のドアが開けられたようだ。

 来たばかりだからとはいえ、もしかしてどこの部屋だったか覚えていないのだろうか。声を掛けるべきか悩むが、再び聞こえてきた足音はどうやらこちらに近付いているようだ。


 だがしかし再び別の部屋のドアが開く音。

「これは……もしかしなくとも迷っておるんじゃなかろうな」





「――結論から言うまでもなく、失敗しました」

 しばらくいると言っていた通り、その部屋にボギーはいた。

 出て行く前はテーブルの上にいたが、今は窓に寄りかかるようにしている彼にわかりきった宣言をする。

「そりゃまぁ、ここにいるという事はそういう事じゃろ」

 あっけらかんと言ってくるボギーに、ですよねー、と返して。

 イリスは再び椅子に腰を下ろした。ついでに、他の部屋で調達してきた缶詰と水差しをテーブルの上に置く。

 逃げる時でも手放さなかった缶切りで缶詰を開けて。


「ついでにそろそろお昼っぽいからご飯調達してきたよ。……って言っても缶詰なんだけどさ」

 窓から再びテーブルへと移動してきたボギーに、開けた缶詰を一つ差し出す。

「? わしに差し出してどうする?」

「あれ? 食べられなかったっけ?」

 お互いがお互いにきょとんとしつつ、缶詰とお互いの顔を見やる。


「……食べられなくもないが……食べる必要もないのぅ」

「食べられるんなら食べればいいと思うよ。折角持ってきたわけだし」

 イリスからしたら小さく見える缶詰も、ボギーが持つと随分大きく見える。受け取った缶詰をしばし見つめ、ボギーは諦めたかのようにテーブルの上に置いた。

「嬢ちゃん、変わってると言われんかね」

「何で?」

「わし一応モンスター」

「それは知ってる。でもまぁ、何だかんだで助けてもらってるし」


 言葉をしゃべらない方のボギーであったならイリスとてこんな事しなかっただろう。というかそもそも先程の時点で助けられる事もなかったはずだ。確かに彼は誰が見てもモンスターだが、言葉を理解できるし喋れる時点で意思の疎通はできる。

 更に言うなら常識や倫理観などが酷くぶっ飛んだ様子もない。ロイ・クラッズの館で罠を仕掛けたりはしていたが、その程度だ。ロイ・クラッズと共に生活をしていた事もあったようだし、致命的なまでに人と相容れないわけでもない。モンスターだと自らが言うように確かに外見は誰がどう見てもそうではあるが、もし彼が普通に人の姿をしていたならば、誰もモンスターだなどと気付く事もないどころか、普通に溶け込んでいるんじゃなかろうか。


 少なくとも、イリスからしてみれば変わり果てたであろう姿になった先代Wと比べれば意思の疎通ができるだけマシな存在である。


「あ、そういえばさ、私の服って見かけなかった?」

「服? 嬢ちゃんの? ふむぅ……わしは見とらんが……あるとするならあっちの一階か二階のどこかにあるじゃろ。捨てた覚えないし」

「やっぱりかー……」


 この格好のまま外に出ても問題はないが、やはり寒いものは寒い。ついでに靴もないため外に出てから家に辿り着くまでが大変そうだ。場合によっては数日マトモに歩けなくなるかもしれない程度に足の裏にダメージを負うかもしれない。


「って事は服を探すにしても玄関に向かうにしても先代どうにかしないといけないって事かー……」

「……あやつがいるのは大体一階か二階で三階と四階は滅多に来ないからの。ふむ、三階に風呂場があるから念の為そこ調べてみるのもいいかもしれん。最後にわしがそこ行ったの五日前じゃからの。もしかしたらそこにあるかもしれん」

「三階にお風呂って……また随分と微妙な所にあるんだね」

 ある意味もっともな突っ込みに、ボギーは何も言わなかった。彼も恐らくはそう思っているから何も言わないのだろう。ボギーが最後にそこに行ったのが五日前なら、イリスがその後ここに連れてこられてからWがイリスの服などをそこらに置いた可能性もある。ボギーの言葉が確かなら、先程先代は三階にやって来た。滅多にこないというのなら、つい先程来たばかりだし立て続けにそう何度もやっては来ないだろう。


「でもまぁ、他に行く所ないし、行ってみるよ」

「……嬢ちゃん風呂場の場所知っとるのかね?」

「え? いや知らないけど三階でしょ?」


 部屋数が多いがそんなものは手当たり次第開けていけばいい話だ。あまり騒がしくすると先代に気付かれてまたやってくる可能性もあるからなるべく静かに探索するつもりではいるが。

「……わしも行くからついてくるがえぇ」

「案内してくれるの? ありがたいけど、何で?」

「さっきの部屋を見てわかると思うが、三階はまだ片付けが済んでない部屋が沢山あるんじゃよ。そんな部屋に入って汚れた状態であちこち歩き回られるとわしの仕事が増えるからの」

 ほれ行くぞ、と言うなりテーブルの上から飛び降りるボギーを思わずイリスは手で受け止めていた。

「……何のつもりじゃ?」

「や、えぇと……何か後ろからついていくとうっかり蹴飛ばしそうな気がするし。だったら私の肩にでも乗っかってもらって案内してくれた方が安全かな、って」


 かつてロイ・クラッズの館でボギーの後をついていった時も、うっかりすると蹴飛ばしそうな気がしていたため、イリスがとった行動はほぼ反射的なものだった。

 それにもし、先代と遭遇した際逃げようとして、その拍子に彼を踏み潰す事がないとも言い切れない。だったら最初からこうするのがお互いに安全な気がする。


 ボギーの方も少し考え、背後からうっかり蹴飛ばされたり踏み潰されては堪らないと思ったのだろう。器用にイリスの腕から肩へと移動すると、大人しく腰を下ろした。





 ボギーの案内もあってか、浴室へはあっさり到着する事ができた。

 イリスの服こそなかったがここへ来る事はWにとって予想済みだったのか、今イリスが着ているのと全く同じ白いワンピースが置かれていた。

「……ふむ、嬢ちゃんが今着ているのは随分汚れてきておるし、いっそ着替えていくかね? 何なら風呂も沸かしとくけど」

「お風呂に入りたいのはそりゃ入りたいけどさ……大丈夫なの?」

 のんびり湯に浸かっている時に先代がやってきたらと考えると、それじゃあちょっと入っていこうかな、と気軽には言いにくい。もしそんな事態に陥ったら今度は全裸で逃げなくてはならないかもしれないのだ。躊躇いたくもなるだろう。


「……まぁ大丈夫じゃろ。一応わし見張っとくからさっと入ってさっとあがれば多分」

 まぁ、とか多分、とか随分と曖昧である。絶対大丈夫と断言されてもそれはそれで怪しいのだが。


 本来ならば、止めておくべきなのかもしれない。けれどイリスは考えて考えた末に――風呂に入るという決断を下した。ここに第三者がいれば逃げる気あるのかと突っ込まれそうだが仕方ない。最後に風呂に入ったのは収穫祭前日、即ち攫われる前の日の夜である。


「あ、それじゃあわしその間に下着洗って乾燥させとくから。これタオル」

 乾燥させるにしても、どうするつもりなのかと思っていたら何気に乾燥機が存在した。

 そういやここ、一応貴族の邸だった。魔導器のエネルギーの使い道を激しく間違えているような気がするが、今この瞬間その事は気にしない事にする。

 ちなみにタオルは小さめのもので、服を着替えた後に肩にかけるなどの用途に使えそうになかった。まぁ贅沢は言ってられないと、諦めて身体を拭くという用途に使うだけにする。


 運がいいのかはさておき、入浴中に先代がこちらにやって来るといったハプニングが起こらなかった事だけは述べておく。

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