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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
三章 黒幕の館に強制的にご案内されました

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道は自らの手で切り開くものです



 もしかしたら誰かが助けに来てくれるかもしれない……そんな考えが甘い事はよく理解した。となれば残された手段は自力でどうにかする――これしかない。できるかどうかは別として。


「……ねぇ、聞いてもいい?」

 その為には、少しでも多くの情報が欲しい。力技やらごり押しでどうにかできるならいいが、確実にそうもいかないだろうから。

「なんじゃ?」

 ボギーの方はイリスがどうしてここにいるのか、という疑問が解決されたらしく少しだけすっきりした表情を浮かべていた。助けてくれたとはいえそれもほんの気まぐれだ。彼自身の疑問が解決したのなら、イリスの質問に答えてくれないかもしれない。


「ここは一体どこなのか、とかさっきのあれは一体何なのか、とか」


 答えてくれない事も想定して、イリスは駄目元で問いかける。ある意味これがイリスの中で重要な質問だった。これに答えてくれなければ、他の事を聞いても恐らくはマトモな答えなど返ってこないだろう。そんな風にも考えて。


「ここか? 薄々気付いておると思ったが……まぁいいじゃろ。Wの邸じゃよ、ここは」

 ロイ・クラッズの館で出会った時、彼はWに関しての質問などには答える事ができないと言っていた。そういう風に創られているとも。

 だがこの質問にあっさりと答えるという事は、これは別に知られても問題のない情報という事なのだろうか……?


「それから先程のアレについてじゃが……」


 ボギーはやや躊躇うように、顎髭をしばし撫で付けて言葉を濁らせる。これはもしかしたら答える事のできない質問だったのかもしれない、イリスがそう思った矢先、ボギーは言葉の先を続けた。


「Wじゃよ」

「っ!?」


 その答えは予想外だった。ボギーはWについての情報を口にする事はできないだろうと思っていた。Wに関する情報なら一つたりとも漏らす事はないだろうとさえ思っていたのだが……

 あっさりと答えられたそれに、イリスは驚き声すら出せなかった。


「……あれ? でもちょっとまって、おかしくない?」

 頭の回転が速い方というわけでもないが、それでもその答えは不自然なように思えた。ボギーが嘘をついているという風にも見えない。

「私をここに連れてきたのがWだとばかり思ってたんだけど……あれがWだというのなら、私はあれに襲われた……? いやでも、いくらあの時周囲が暗かったとはいえ、あんなの王都をうろついてたらそれこそ騒ぎになってるはずだし……って事はわたしをここに連れてきたのはWじゃ、ない……?」

 ロイ・クラッズの館の鍵を持ち去った何者か――協力者と言うべき存在がイリスを襲いここまで運んだ……という事だろうか。


「……違う、違和感があったのはついさっきの事だから、協力者どうこうじゃない気がする」

 イリスの呟きに、ボギーは何も答えない。ただ黙ってじっとイリスを見上げている。


「……仮にも自分の創造主を、アレなんて言うかな……もしかして、あれって先代の方?」

「ほ、嬢ちゃん、一体どこでそれを……そうじゃ。先代、その呼び方で合っておるよ」

「えぇと、ちょっと前に……ロイ・クラッズの館の後だけど、別の館でW絡みの場所にちょっとね……」

「もしかして森の奥の?」

「うん、そう」

「……懐かしいのぅ。わし、そこで生まれたんじゃよ」

「へ、へー」

 そういう情報は正直いらなかったが、無碍に言い放つわけにもいかずぎこちない笑みを浮かべつつ相づちを打つ。

 となるとあの地下室にあった研究室は怪しげな人体実験のみならず、モンスターを創り上げた場所でもあったわけか。

「しかし嬢ちゃん、よく無事だったのぅ」

「え? あの館そんなに危険な場所だったの?」


 懐かしそうに目を細め――ただでさえ凶悪な顔が更に凶悪になっている――しみじみと言うボギーに、イリスはあの森の奥深くにあった館の事を思い返す。

 ロイ・クラッズの館と比べて罠が仕掛けられていたわけでもないし、時々襲い掛かってくる相手はいたが、最初の方はそこまで本気ではなかった。正直な話、危険度ならばロイ・クラッズの館の方が大きかったように思う。


「……あの館におった助手達が、一癖も二癖もある奴ばかりじゃったからのぅ……」

「あ、あー、助手ね。うん、二人だけならいたけど、うん」


 どう答えるべきかわからずに、イリスは思わず視線をボギーから逸らしていた。助手達が残していたメモの内容を思い出す。メモに書かれていた内容だけでも一部きついものがあったのだ。当時、生きていた彼らの存在を知るボギーの言いたい事を何となく理解して。

 それでも、どう答えるべきだったのかまではわからなかった。

 言葉を濁すイリスにボギーの方も何やら感じ取ったのだろう。二人? と小さく呟きはしたものの、それ以上話を続けるような事は言わなかった。

 何はともあれ、あの化物の正体はわかった。わかったからといってどうにかできるものではないが。


「……Wの邸って言ってたけど、それって先代の? それとも今の?」

「それは重要な事なのかのぅ? まぁええわい、先代の所有物だと言っておったな」

 言っていたのは間違いなく今の――新しい方のWだろう。


「……ねぇ、今そのWに他に協力者とかっていたりする? そういう話は聞いてない?」

「さぁのぅ、ワシにそういった話はしてこないからさっぱりじゃ。……じゃが恐らく、ではあるがいないと考えていいじゃろう。もっとも、そうと知らずに手を貸している者はおるかもしれんがな」


 そうと知らずに手を貸すという事なら、やはりイリスを襲ってここへ連れてきたのはW本人であると考えていいだろう。流石にそうと知らずに手を貸すにしたって、いたいけ(かどうかはさておき)な少女を背後から襲い気絶させ、邸の中に閉じ込めるなんて真似、できるわけがない。どう考えても犯罪だ。

 それに手を貸すのは余程の馬鹿か、もしくはこれが犯罪であると思わせない程にWの弁が立つか。

 ……口車に乗せられたとしても、そういう頭の残念な出来の相手をWが使うとは思えない。うっかりどこかで何かの拍子に口を滑らせる可能性が高い相手を、Wがわざわざ自らの懐に入れるわけがない。


「……この邸の中って、他に誰かいたりするの?」

「うんにゃ、わしと先代だったアレと……今は嬢ちゃんだけじゃの。たまにWが訪れる事はあったが……そう頻繁ではなかったのぅ」

「……って事は当面気を付けるべき相手はあの先代だけって事ね……」

 しかし先代、一体何がどうなればあんな風になるのやら。言うまでもなく、今のWが何かをやらかしたのは確実だが。


「他に何か聞きたい事はあるかね? とはいえ、わしが答えられる事もそろそろなくなりつつあるんじゃが……」

 ボギーの言葉に嘘はないようだった。よく考えなくとも彼がここにいるのは、この邸の片付けと掃除のためだ。たまにここにやってくるWの世間話に付き合うでもなく、ただひたすら与えられた仕事をこなしているボギーに新たな情報を得る機会はほぼないと言っていいだろう。


「ちょっとまって……今の所聞きたいのはあと、先代って言葉喋れるの?」

「さぁのぅ、わしがここに来てから随分と経つが……というか恐らく会話はできんと思うぞ。むしろわしを見てもたまに襲い掛かってくるからの。おちおちアレの前に出られんよ」

「敵味方の区別がついてないとか?」

「Wに襲い掛かったりはしていないようじゃから、最低限の判別はついておるはずじゃ……最低限というか、W限定と言うべきか」

 Wには襲い掛からない……というのはそういう風に創ったからか、それとも何か他の――襲われない方法があるか。別館の方にはやってこないというのも気にかかる。もしかしたら何か、先代が苦手とする物があるのかもしれない。


「……えぇと、これがある意味一番聞きたかった事なんだけど……私、ここから出たいんだけどこっちの玄関も裏口と思しき場所も鍵かかってるみたいなんだよね。向こうは一階に行ってないからわかんないけどやっぱり鍵、かかってると思うんだけどさ……脱出ってできると思う?」


 イリスの味方というわけでもなくどちらかといえばW側――つまりは敵側のボギーに聞くのはどうかと思ったが、それでもイリスは問いかけていた。

 諦めろとかそれは無理じゃとか、そういう答が返ってくるだろうとは思っている。きっぱりと言われるか、言葉を濁されるか……反応次第ではもしかしたら何らかの方法があるのかもしれない、そう考えて。

 だがしかしボギーの返答はイリスの予想を軽やかに裏切るものだった。


「……そりゃできるじゃろ。辿り着ければの話じゃが」

 え? 何言ってるの? くらいの軽いノリかつきょとーんとした表情で言われ、一瞬イリスは耳を疑ってしまう。

「うん? ん……え?」

「嬢ちゃんの首からぶら下がっておるその鍵、本館の玄関の鍵じゃし」

「普通この手の鍵って外から使う物じゃないの?」

「普通をWに求めてどうするよ」

「いやまぁ、そりゃそうなんだけどさ……」

 言われ、イリスは胸元で揺れる鍵を手に取る。それをまじまじと見つめて。



 ……Wと関りのある場所で見つけた鍵なのだから、当然この鍵も何らかのかかわりがあって然るべきだとは思っていたが、まさかこんな身近な場所にあるとは考えてすらいなかった。もしこの鍵がなかったら、脱出できないかもしれない所だったのかと考えると、持っていて良かったと思う。


「……あれ?」

「何じゃ、今度は一体どうしたね?」

「や、私をここに連れてきたのがWだとして、服を着替えさせたのも考えたくないけどWだとして、だよ? それじゃあ何でこの鍵はそのままにしておいたんだろう、って」


 Wならば、この鍵がこの邸の鍵である事を知っているだろう。ならば脱出させないように奪うなり隠すなりできたはずなのだ。しかしそれをしなかったというのは……逃げられるものならやってみろというWからの挑戦なのだろうか? 本館一階へ行くには恐らくあの先代をどうにかしないといけないだろうから、どうせ行けるわけがないと思われている? 鍵が無ければ諦めて他の方法を探すかもしれないが、鍵があるからこそ唯一の脱出口へ向かうべく足掻くと思われているのだろうか。だとすればWの思惑にまんまと嵌ってしまうのだろう。最初から最後まで思い通りになるつもりはないが。


 どちらにしても、別館の玄関も裏口も現時点では開ける方法がない。となると本館一階の玄関へ向かい何とかしてそこから外に出るのが最も確実な方法だ。

 ……高確率であの先代と遭遇するだろうけれども。

「……行くのかね?」

 少々勢いがついたのか、椅子が音を立てる。立ち上がるイリスにボギーは問うというよりも確認するように聞いた。


「今の所はそれしか方法がないからね。上手い事見つからなければいいんだけど……」

「そうか。わしはしばらくここにおる。もし失敗したら一旦戻ってくるといいじゃろうて。……上手くいく事を祈っておるよ」

「ありがとう、って言うべきなのかな……? まぁいいや。行ってくる」

「気を付けての」


 手を振るボギーに見送られ、イリスは部屋を出た。正直あの先代に遭遇してもどうするべきか、など考えてすらいない。運良く見つからなければいいなー程度だ。

 何だかまたここに戻ってくる気がする……行動に移る前からそんな風に思う。しばらく、というのがどれくらいかはわからないが部屋に残ったボギーは本当に言葉通りしばらくここに居るようだ。


「……よし、それじゃ、行くか」

 自分に言い聞かせるように、呟く。

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