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館を探索する話  作者: 猫宮蒼
三章 黒幕の館に強制的にご案内されました

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状況はある意味絶望的



「何だ、まだ仲直りしていないのかね」

 どこか呆れたように言うフラッドから一体どういう事なのか、というのを恐る恐る聞き出して。


 書類を手に早々に立ち去ったフラッドを見送った三人の表情はどことなく青ざめていた。


「は、話を纏めようか。収穫祭初日、モニカはイリスと些細な事で喧嘩をし、モニカは頭を冷やすためその場を離脱」

 ぴしっと人差し指を立てて言うクリスに間違いないと言うようにモニカが頷く。


「その後何とか落ち着きを取り戻し、現場――この場合はイリスと喧嘩をし、その場にイリスを置いてきてしまった場所か――へと戻るもその時既にイリスはいなかった。

 一応帰るとは言わず頭を冷やしてくるとイリスに伝えていたため、その時点でイリスがモニカの事を放置して帰るとは思い難い。……向こうも頭に血が上っていたなら話は変わってくるがね」


「でも、イリスは少なくとも冷静でしたわ。わたくしよりは確実に」

「なら一応、イリスも売り言葉に買い言葉、のような状態でその場の勢いで立ち去る可能性は低いという事か。しかし事実その場にイリスがいなかったため、もしかしたら自分の事を追いかけようとして、どこか別の場所へ移動したのかもしれない。そう考えモニカ、君は再び来た道を戻りイリスを探す事にした」

「その時点で既に日は沈み街灯に明かりが灯る程度には周囲が暗くなっていた」

「えぇ、その時は確か天気も……雲が空を覆っていてかなり暗くなっていたように思います。だからこそ、わたくしを追いかけてきたかもしれないイリスがどこか――あまり人のいない場所に立ち入ってしまった可能性が高いです。わたくしは一人になって落ち着いて考えたかったから」


 クリスの言葉を継ぐように続けたアレクに、モニカは当日の様子を思い出しつつ答える。空を覆う雲が月も星も隠していたせいで、普段以上に暗く感じたのはしっかり覚えている。

「イリスも何となくモニカの考えを察して人のいない方へと移動していたのだろうね。そうしてたまたま、偶然にしては何故そのような場所にフラッド殿がいたのか……気になる点はあれど、彼はモニカを見かけていたし、その直後モニカを探しているイリスとも出会った。

 そうしてイリスにモニカが向かった方向を示して――だが結局モニカはその日イリスと出会う事もなく今に至る」

「フラッド殿の言う事が事実であるなら、イリスは少なくともモニカの事を怒ってはいないようですね。単に行き違いになっているだけのようですし、本当に早いとこ家にでも出向いて謝ってしまえばいいじゃないですか。

 変な意地張って結局収穫祭も初日しか行動していないとか、来年は流石に休み取れないでしょうし結局休み返上してるし時間の無駄遣いもいいとこです」


「そう……ですよね。わたくしが早くに行動していれば……本当は心のどこかでイリスの方から来てくれたりしないかな、とか都合が良いにも程がある事を考えてしまっていたのです。謝るのはこちらの方なのですが、もういっそ怒鳴り込んで来てくれないかな、とか。

 でも……やはり自分から行動しないと駄目でしたね」

 ぐっと両の手を握り締める。そうして、一度目を閉じて息を深く吸って、吐く。


「ちょっとわたくし、今からイリスのお家へ行こうと思います」


 開けられた目は、確かな決意を秘めていた。

 言って、アレクの執務室から立ち去るべくドアノブへと手をかけようとした直後――


「すまない、話は聞かせてもらっていた」

 レイヴンがドアを開けするりと執務室へと入ってきた。


「レイヴン!? 貴方どうしてここに?」

「モニカを探していたのだが……」

「わたくし? 何の用です? わたくし今からちょっとイリスの所へ行かなければなりませんので、用件ならば手短にお願いしたいのですけれど」

「そのイリスの事なんだが。恐らくは何かの事件に巻き込まれたかもしれない」


 執務室に入ってきたレイヴンは、そのままドアの前に立っていた。それはまるで立ち塞がるかのように。

 それに対して少しだけ邪魔そうに見ていたモニカだったが、その言葉に「えっ……?」と小さな声を上げる。

 これまた何やら厄介事でもあったのかと高みの見物をするつもりだったであろうクリスも、モニカに用があったのなら自分には無関係だろうと思っていたアレクもその言葉にモニカ同様の――どこか虚を突かれたような表情を浮かべていた。


「どういう事ですか!?」

 三人が呆けていたのはほとんど一瞬だった。真っ先に反応をしたのはアレクだ。だんと机に手を叩き付けその勢いで立ち上がる。


「はいストーップ。……モニカ、キミも落ち着いて。とりあえずそこの椅子にでも座るといい」

 放っておけばレイヴンに接近して胸倉でも掴み上げそうなアレクの頭上へと、クリスは容赦なく手を振り下ろし叩き付けた。べちゃり、などという可愛らしい音はせずごっと鈍い音が響いてアレクの上半身は机に突っ伏す形となる。流れるようなその一連の動作に、モニカもまだ何が起きたのか理解が追いついていないのだろう。

「え? あぁ、はい……」

 などと言いつつ、言われるままに手近な椅子に腰を下ろした。


「で? さっき話は聞かせてもらっていたと言ったね。という事は先程フラッド殿がここにいたっていう事も当然知っているわけだ」

「あぁ……というか、その状況で立ち入るのは更に面倒な事になりそうだったからな。悪いが立ち聞きする状態になった」

「ま、聞かれて困る内容じゃなかったからいいんじゃない? それで、イリスがどうしたって?」


 話を切り出したクリスの手は未だアレクを押さえたままだ。

「ちょっとクリス、痛いですいい加減離して下さい」

 などと訴えているが、アレクの顔面は机と全面的に接触しているためその声はくぐもって聞き取りにくい。

 訴えられているクリスに至っては、わぁ痛々しい。などと完全に他人事である感想を抱きつつ、下手に解放するとこっちにとばっちりがきそうなのでアレクに関してはそのまま放置を決め込む事にしたようだ。


 そんな光景を見せられながらも、レイヴンはあえてそこには突っ込まずに口を開く。



「先程、イリスの祖父に声をかけられた。彼もまたイリスの母から話を聞いたそうなのだが。

 ……友人と一緒に収穫祭を見て回ると言ったきり、イリスが帰ってきていないそうだ」


「え……?」

「えぇと、それって……」


 クリスの手に押さえつけられてじたばたともがいていたアレクの動きがぴたりと止まる。


「つまり、モニカと一緒に収穫祭を見て回り、そこでモニカと原因はさておき言い合いになった。そうして頭を冷やすためモニカがその場を離れ、イリスはその後を追ったのだろう。

 二人が出会う事がなかったのは言うまでもなく、モニカもイリスが家に帰ったのだろうと思ったままだった。

 だがしかし実際の所イリスは収穫祭を見に行くと言ったきり家には戻ってきていない。モニカと別れた後――フラッドが目撃した直後というべきか、それ以降の痕跡がないと言える」


「それって、イリスが行方不明になって既に三日が経過してるって事じゃないですか」

 零れ落ちそうな程に目を見開いて言うアレクの声は、誰が聞いてもわかるほどに震えていた。

「それで、ご家族の様子は?」

「それが驚く程心配していない。友人の家にそのまま泊まり込んでいると思っているらしい。泊まるなら事前に連絡の一つでも入れておくように伝えてくれとまで言われた」

「つまり、身内はイリスが事件に巻き込まれているかもしれないなどとは露ほども思っていないわけか。

 ……ある意味最悪のパターンじゃないか」

「あぁ、身内からすれば恐らくはモニカの家にでもいるのだろうと思っている。しかし実際の所モニカとイリスは初日に喧嘩別れした状態だ。こちらもイリスはてっきり家に帰っているものだと思っていた。手掛かりらしい手掛かりは、現時点では全く無いと言っていい」


「そんな……わた、わたくしがイリスから離れたばかりに……」

「モニカ、そんな事を言ってどうなるものでもないよ。思いつめるのも自分を責めるのも今やるべき事じゃない。そういうのは後にしてくれないか」

「で、ですが……」

 青ざめるを通り越して白くなりつつある顔色のモニカが更に言葉を続けようとするが、クリスはそれを聞くつもりなどないのだろう。執務室から出て行こうとするクリスに、何処へ? とレイヴンが問いかける。


「最後に見たのがフラッド殿だというのなら、もう少し何か情報を得られないかと思ってね。ちょっと聞いてくるよ」

「あぁ、頼む」

 本来ならば、モニカが直接聞きに行くべきなのだろう。だがしかし今の状態ではモニカも、更にアレクもまともに話を切り出せそうにない。この場にいる人物の中で当事者と呼ぶには少々無理があるが話を切り出して上手い事情報を得るのに最も適任なのは――正直余計な厄介事も持ち込んできそうではあるが、クリスだと言える。

 イリスが関わっていなければアレクに任せる事もできたはずだが、恐らく今のアレクに冷静に当時の状況を聞き出してくるのは無理だろう。


 クリスが出て行って戻ってくるまでの数分間。

 レイヴンからしてみればそれほど長くはない時間だったが、二人にとっては長く感じたのだろう。何度かもう自分達もクリスの後を追うべきだ、みたいな雰囲気を纏って執務室を出ようとしていた。アレクには物理的に、モニカには諭すようにしてその場に留まらせたが。



 そうしてそろそろアレクが本気で実力行使に出るんじゃなかろうか、とレイヴンが危惧し始めたあたりでやっとクリスが戻ってくる。



「残念ながら、手掛かりはゼロです」

 生温い微笑みを浮かべて言い切ったクリスに、彼の帰還を待ちわびていたアレクが崩れ落ちた。

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