鍋の王様
ドアノブに手を掛け、ドアを開けると、待ってましたと言わんばかりに足音がドタドタと近付いてきて、リビングへと続く引き戸が、スパァァン!!!!と音をあげて開いた。
「おっそいよ!!ユート!!ほらほら、お待ちかねのお肉様だぜぇ~!!」
そう言ってメールの主は、お高いお肉様が入ったビニール袋を、ひったくり強盗も拍手喝采のスピードで俺の手からむしり取り、おかえりのひとつも言わずにそそくさとリビングへと消えていった。
あ、ユートと言うのは俺の名前で、本名を、野村 優人と言う。
肉騒動ですっかり自己紹介を忘れてたが、仕方がないことだと皆が承諾してくれるって信じてる。
「俺への感謝の言葉も無しかよ·····」
スーパーの前でした様な深い溜息を一つ着きながら、靴を脱ぎ揃えてリビングへ入った俺は息を呑んだ。
そこには”The すき焼き” と言う言葉が相応しい、十字に切込みを入れた椎茸。
絶妙な焼き具合の焼き豆腐。
斜めに綺麗に切りそろえられた長ネギ。
主張し過ぎない様に鍋の端にいるしらたき。
そんな名脇役達が揃い踏みの中、その中央に空いたスペース、いわゆる、すき焼き界の玉座に値する場所に、薄くてお高い、1枚200円のお肉様が降臨なさる様子が、目に浮かぶ·····
そんな鍋がダイニングテーブルの中央に置かれている。
思わず、美しい、と言葉が零れそうになった。
俺は我に戻り、たかが鍋に感動した自分に苦笑いしながら、左手にぶら下げたままのビニール袋からぬるくなったビールを取り出し、冷蔵庫に入れる。
後ろのキッチンでルンルンな慎吾に向かって、
「感謝の一言も無しかぁ?」
と、年頃の子供に悟す親の様に優しく問い掛けると、慎吾はクルっとこちらを振り返り、
「ありがとさん♪」
と、今にもはち切れんばかりの満面の笑みで言った後、また肉に向き直り、大皿にそれを盛り付け始めた。
まぁ、今みたいに、あんなに嬉しそうな顔をされると俺も、いい事したな、と思う。
大金をはたいて買った甲斐があったと·····まぁ、少しは思う。
慎吾は感情がすぐに表に出てくるタイプだ。
あんな笑顔を見せられたら、こっちも無下には出来ない。
なんだかんだ俺が一番甘やかしてるのは、慎吾だと、自分でも分かっている。
男兄弟がいなかった俺からしたら、慎吾は「弟」みたいな存在なのかも知れない。
そんな事を思いながら、ぬるくなった、仕事帰りのビールに喉を鳴らした。
皆さんの家のすき焼きはどんな感じですか?
ウチのすき焼きは、白菜と春菊を入れます。
これがまた美味しいのなんのって·····(´º﹃º`)
是非御賞味あれ!!
·····感想で、皆さんの家のすき焼きの具材やどんな鍋が好きか、書いてくれると嬉しいなぁ·····(催促)