表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/285

093.針蜘蛛戦

 菟糸に再び絡み付かれた針蜘蛛は、脚を振り回して暴れ回り、拘束を解きに掛かる。


 闇雲に暴れ回り、周囲の木も岩も八つ当たりの対象として巻き込んでいく針蜘蛛。


 そんな狂乱状態の針蜘蛛の八つの眼前に、褐色狼が飛び込む。

 自身を目視させた褐色狼は、噛み付いてきた針蜘蛛の鋏角(きょうかく)を爪撃で迎撃する。


 完全破壊とはいかなかったが、この反撃により針蜘蛛の鋏角が欠け落ちる。

 これにより、鋏角から禍々しい色の液体が垂れ落ちていった。


 それは、爪撃によって破壊された針蜘蛛の毒腺から流れ出した毒液。


 針蜘蛛の毒とは、鋏角によって注射器のように圧搾(あっさく)される事で注入される。

 その為、噛み付きの加減によって、その毒量の調整が可能な代物(シロモノ)だった。

 これによって針蜘蛛は、無毒の噛み付きを可能とした使い分けが出来る。

 つまり、即死させる、ジワジワ(なぶ)る、保存食として麻痺させておく、が選べるのだ。


 そんな針蜘蛛の凶悪な機能を、褐色狼は破壊した。


 それは偶然か、はたまた装飾蠍の毒で苦しまされた経験からだったのかは分からない。

 しかしながら、これにより褐色狼は、針蜘蛛の攻撃手段を一つ潰して懐に入り込む。

 ここに潜り込んでしまえば、針蜘蛛からの攻撃は押し潰しくらいしかない。

 攻撃の死角に入り込んだ褐色狼は、そこから前頭部へ一方的な連撃を繰り出していく。


 センは、褐色狼に一歩遅れるも、針蜘蛛の腹部に攻撃を仕掛ける。

 そのターゲットは、ハツカを拘束した粘糸を射出した出糸突起(しゅっしとっき)

 センは、腹部にある、その三対を潰しに掛かる。


 褐色狼が攻撃を加えている前頭部に比べれば柔らかい外殻に斬り掛かって潰していく。

 念の為にと、射出口に炎弾(ファイア)を撃ち込み、焼いていくあたりが、センの(したた)かな所。

 その茶目(ちゃめ)()と用心深さは、ハツカが脚を拘束していたからこそ出来る追撃。

 単身で針蜘蛛と対峙していたなら、まず、こんな悠長な事はしていられない。


 そんな一方的な攻撃を、いつまでも針蜘蛛が許しているはずがない。


 これらの基点となっているハツカの拘束を解くべく、毛針弾(ニードルショット)を散布する。

 針蜘蛛の狙いはハツカだが、範囲攻撃である毛針弾(ニードルショット)は、当然、セン達も強襲する。


 至近距離からの飛び道具をセンは、魔力盾(マイティガード)でブロックする。

 しかしながら、魔力盾で(しの)げるのは数本が限度。

 次第に魔力盾が削られていき、貫通されてダメージを負っていく。


 対して褐色狼は、両手で防御体勢を取り、急所を守りつつ、自然治癒能力で(しの)ぐ。

 それは、驚異的な自然治癒能力を有しているからこそ可能な褐色狼の対抗手段。

 だが、そこには当然、常に負傷による痛みが(ともな)っている。

 そしてまた、その治癒に伴うエネルギーも同時に消費していっている。

 人狼種の自然治癒能力とは、高効率のエネルギー転換な為、それは無限ではない。

 その治癒能力を上回るダメージを受け続けたり、治癒を阻害されれば、死に至る。

 だからこそ、その弱点が知られてしまった現在の人狼種は、衰退の一途を辿っていた。

 そして、こちらもセン同様に、実態としては、ジリ貧状態に追い込まれていっていた。


 針蜘蛛が狙った本命であるハツカにも、次々と毛針弾(ニードルショット)が襲い掛かる。


 視界を失い、足下が覚束ないハツカは、剣を杖代わりにして立っていた。

 目が見えず足場が悪い為、バランスを取って歩く事が、ままならないハツカ。

 それをカバーする為に燕麦の飛行能力で浮遊する方法もあったが、いまは使えない。

 そう判断したのは、このような状況を予期していたからだった。


 毛針弾(ニードルショット)が放たれ、再び脆弱(ぜいじゃく)な翼を狙われ、貫かれる恐れがあった。


 だからこそ、ハツカは、(あら)たに手に入れた飛行能力を安易に頼らなかった。


 菟糸燕麦は、十分に機能している。

 直前までは、飛行能力など無かった。

 それでも、ハツカは十分に戦えていた。


 この視界が奪われた状況下でも、いままで(つちか)ってきた経験で十分に戦える(すべ)はある。

 そう思えたからこそ、ハツカは、移動と言う手段を放棄した。


 最近のハツカは、いろいろ考えすぎて見失っていた。

 本来ハツカは、自身の固有能力であり、分身である菟糸に戦闘を委任(いにん)していた。


 不動の構えで立ち、拘束と防御に徹して反撃で仕留める。

 それが、ハツカの本来の戦闘スタイルであり、最も長く(つちか)ってきた戦い方。


 ハツカは、菟糸一本でも十分に戦う(すべ)があった。

 むしろ、そのあとで多くの可能性を得た事で、敗北を重ねていく事となる。

 つまり、(あら)たに得た能力に安易に手を広げた結果、弱体化した、とも言える。


 いまハツカが使える手札の中で、飛行能力は必ずしも必要ではない。

 行動の自由度を求めるのであれば、飛行状態にあった方が利便性は増す。

 しかし、直接の戦闘を放棄せざるを得えない、この状況下においては贅沢品である。


 菟糸の拘束と燕麦の防御障壁。

 視界を失った事で原点に立ち戻り、手札を厳選していく。

 菟糸の展開数を針蜘蛛を拘束する為の最低限に留め、燕麦の防御障壁の強度を高める。


 この選択により、ハツカは燕麦の防御障壁で毛針弾(ニードルショット)を完全に防ぐ。


 針蜘蛛が最も潰したかったハツカは崩れない。

 以前に『鉄壁』と呼ばれたハツカの堅固な防御が、そこに復活していた。


 次第に毛針弾(ニードルショット)の豪雨が、その勢いを衰えさせていく。

 対して褐色狼とセンは、自身の自然治癒能力と回復魔法で、体勢を立て直していった。


 そして──


焦熱咆(シアリングロア)


 センによって放たれた熱射の咆哮が、針蜘蛛を(とら)える。

 アニィの怪光線(アニィフラッシュ)も、そうだが、こちらも大概(たいがい)な切り札を持っていた。

 その常軌を(いっ)した一撃で、針蜘蛛は沈黙し、大地に還った。


 それなりの時間を要したが、この一撃によって、ついに針蜘蛛の討伐が完了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ