表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/285

089.赤髪化

 なんの脈絡も無い状態から唐突に起きた赤髪化。

 そのあまりにもな急変にハツカは、激しく動揺した。

 だが、その変化はハツカだけに(とど)まらなかった。


「コウヤも……これは、一体どう言う事ですか?」


 不安に駆られ、振り返った視界に、同様の変化が現れたコウヤの姿が飛び込む。

 コウヤもまた、髪が赤色へと変化し、その身に宿す魔力を増大させていた。

 そして──


「それは、一体なんなのにゃ!」

「なんか、カッコイイのにゃ!」

「新しい遊びかにゃ?」

「どうやったにゃ、どうやったにゃ!」

「教えるにゃ!」


 突然の変化に興味津々な子猫達(ネコレンジャー)が、コウヤに(まと)わり付き、じゃれ始めた。


「知るか、ただ、おれとハツカに同時に同じ変化が現れたと言う事は……」


 ハツカも、コウヤが思い当たっている事には気づいている。

 二人にある共通点とは、運命の女神様によって転移させられた転移者である点。


 だが、この不可解な現象が起きた理由が、サッパリ分からない。


 ハツカもコウヤも、何か特別な事をした訳では無い。

 ()いてあげるなら、互いに意見が食い違い、険悪な雰囲気になっていた事だろうか。


 しかし、その程度の事で、現状のような変化が起きるとは到底思えない。

 それでは、ハツカとシロウとの間で、いくらでも同様の現象が起きていたはず。


 何より、それでは転移者同士が近くにいたなら、簡単に互いを強化しあえる事になる。

 そして、その引き金が両者の反感なら、いがみ合いを増長(ぞうちょう)させているようである。

 それでは、運命の女神様から聞いた話しとの間に、大きな齟齬(そご)が生まれる。


 運命の女神様は、転移者同士の争いを望んではいなかった。

 その証拠に、同じ宝玉を分けた転移者同士による『同郷殺し』の危険性を訴えている。


 同じ宝玉のカケラを持つ転移者を殺害した事を指す『同郷殺し』。

 自分達の場合は『紅玉』が、このグループを形成している核となっている。


 そして、このグループ内で『同郷殺し』が発生した場合、全員が、その影響を受ける。

 これが【連帯責任の呪縛】(チェーンライブラリー)と言われる転移者が抱えている問題点。

 

『同級殺し』は宝玉のカケラに変調をきたし、『逸脱者(エラント)』と呼ばれる存在となる。

 そして始祖の逸脱者(エラント)となった者は、宝玉のカケラを通して他者を変質させる存在。

 このような経路で、転移者に異常が現れて変質していく事を『エラント化』と言った。


 この影響は、始祖の逸脱者(エラント)を討伐しない限り終息しない、と説明されている。

 ゆえに──


「この現象は、逸脱者の出現(例のあれ)だと考えるのが、妥当だろう」


 収束すべき結論を導いたコウヤの言葉が、ハツカの中に嫌な浸透をしていく。


「一体誰が、そのような愚行を……」


 少なくともハツカとコウヤは、ルネや子猫達(ネコレンジャー)によって、身の潔白を証明出来る。

 しかし、単独行動をとっていた者には、到底、逸脱者(エラント)で無い証明など出来ようがない。


「これは、シロウを発見した時に、覚悟をしておく必要が出てきたな」


 つまり、この場合は、シロウが、それに該当する。


「コウヤさん、それは、どう言う事ですか?」


 ルネは、コウヤが突然、眉を寄せて考え出した事に不安を抱える。

 しかし、コウヤは明確な答えを避け、ハツカは深刻な表情を浮かべた。

 それによって疎外感を感じたルネが、再度、コウヤに問い直す。

 そこでコウヤは、語るべきか逡巡(しゅんじゅん)したのち、重い口を開いた。


「場合によっては、虫の知らせ、と言う事も有り得る、と言う話だ」

「えっ?」

「……」


 コウヤの言葉に、ルネは思考を停止させ、ハツカは表情を強張(こわば)らせた。


「コウヤ、この地に私達三人以外にも転移者(該当者)がいるとでも?」


 ハツカは現状から、その考えが、かなり低いものだと考える。


「確かにそうだな、国境が封鎖されていた以上、可能性は低い。だが、絶対ではない」


 ゆえに、コウヤはシロウが逸脱者(エラント)になった場合と、その逆の場合を想定した。


「とにかく、まずは黒爪狼(ブラッククロー)からは手を引いてもらいます。構いませんね」


 ハツカは、ルネが黒爪狼に悪感情を(いだ)いていない事を知り、強気に出る。

 コウヤと子猫達(ネコレンジャー)には、思う所があるだろうが、積極的に動く気配は無い。

 それは、交戦中と(もく)されるセンの実力を疑っていない事が大きな要因だろう。

 ゆえにハツカは、そのセンを説き伏せ、抑える事が出来れば、場は収まる、と考えた。


 ハツカは、菟糸の探知範囲から消えた黒爪狼を追う為、行動に移る。


「待て、ハツカ」


 そこに、再びコウヤの「待った」が掛かる。

 先を急ぎたいハツカにとって、それはもう邪魔以外の何者でもなかった。

 ハツカは、黒爪狼の位置を見失っている。

 いまから黒爪狼の下へと向かう為には、まず探知範囲に再び(とら)えなければならない。

 ゆえに、有効範囲内に入るまで接近しなければならなかった。


 そして、そこにはセンの実力の問題も絡む。

 センの実力が、黒爪狼を圧倒するようなものであるのなら、時間との勝負となる。

 黒爪狼がセンに倒される前に、なんとかして止めに入らなければならない。

 ゆえに、ハツカは、その焦燥感から、コウヤの制止を振り切る。


「ハツカ、おまえ、黒爪狼(ブラッククロー)を見失っているのか?」

「えっ?」


 つもりだったのだが、コウヤから掛けられた思いがけない言葉よって足を止められた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ