086.エルムズレイカウント
子猫達が、コウヤの説明を聞きながら四枚のカードを扱う。
その結果──
「うにゃー! 出来ないにゃ!」
「おかしいにゃ、おかしいにゃ?」
「なんで出来ないのにゃ?」
「どこかで、やり方を間違えたんだろう」
「そんなはずは無いのにゃ」
「でも、ハツカさんは、コウヤさんが二度見せてくれたのを確認しているんですよね?」
「はい」
「チンプンカンプンにゃ」
子猫達を始め、ルネ達も何度やっても一枚だけ表になってしまっていた。
「つまりは、手品師の素質がある者は居なかった、と言う事だ」
コウヤは、これは手品師の適正試験の一種だ、と言ってカードの回収に入る。
しかし、その事に納得がいかない子猫達は、それでも挑戦を続けた。
だが、その健闘も虚しく、それ以降も、誰一人として出来た者はいなかった。
それはそうである。
コウヤが最初に言った手順を、そのまま実行するとカードは以下の動きとなる。
(以下、□は表面、■は裏面を表わす)
①、四枚のカードを全て裏向きにした状態で重ねて持つ。
■■■■
②、一番上のカードを引っくり返して、表向きにしてから一番下に持ち直す。
□■■■ → ■■■□
│ ↑
└─────────┘
③、現在、一番上になっているカードを向きを変えずに、一番下に持ち直す。
■■■□ → ■■□■
│ ↑
└────────┘
④、カードの束をまとめて持って、全体の向きを引っくり返す。
(カードの向きと位置関係は以下のように変化する)
■■□■ → □■□□
1234 4321
⑤、現在、一番上になっている表向きのカードを裏面に引っくり返す。
⑥、現在、一番下になっている表向きのカードを裏面に引っくり返す。
⑤ ⑥
□■□□ → ■■□□ → ■■□■
│ ↑│ ↑
└────────┘└─────┘
以上の事から、カードが一枚だけ表面なっているハツカ達の状態が正常なのであった。
では、なぜコウヤのカードだけが全て裏面になっていたのか?
それは、新しいカードの入手で使用が容易となった、ある技法を使ったからである。
その技法名は『エルムズレイカウント』
それは、手品師が、上から三枚目のカードを隠蔽する時に使う技法。
これによってコウヤは、三枚のカードを四枚に見せていたのであった。
そのエルムズレイカウントを比較的容易にした手順は、以下となる。
①、四枚のカードを全て裏向きにした状態で束にして持つ。
┌─┐┐┐┐
│ ││││
└─┘┘┘┘
②、一番上のカードのみ左手に残し、残り三枚のカードは重ねた状態で右手に渡す。
この際、カードの束の右下の角を、右親指と人差し指で持つ。
この状態が、カードカウント1となる。
┌─┐←カードカウント1
│ │ ┌─┐┐┐
└─┘ │ │││
└─●←この位置を右親指を上にして人差し指と挟んで持つ。
③、次に右手の三枚を左手に重ねにいく。
┌─┐
│┌─┐┐┐
└│ │││
└─┘┘┘
④、左手上でカードが重なった際に、三枚の一番下のカードを手前に少し引いておく。
右人差し指でカード下面を手前に引くと一枚だけ右側にズラせる。
┌─┐
│┌─┐┐
└│ ││┐
└─┘┘│
└─●←右人差し指を手前に引くと一枚だけ右側にズラせる。
⑤、ズラしておいたカードと、元々左手にあったカードを右手に引き抜く。
左にあったカードは、右人差し指と中指で挟んで引き抜いてくる。
カードを引き抜いたあとは、素早く人差し指を抜いて二枚のカードを重ねてしまう。
この状態が、カードカウント2となる。
また、この時点で左手の一番下になるのが、唯一表向きだったカードとなる。
(隠蔽完了)
↓ ┌─┐
┌─┐┐ ┌─┐│
│ ││ │ │●←右人差し指と中指でカードを引き抜いてきた状態。
└─┘┘ └─┘
↑
カードカウント2
⑥、右手に残った二枚のカードを上から順に左手に一枚ずつ渡してカウントしていく。
これで自然とカードカウント3,4が入る。
一番下のカードは表向きとなっているので、カードを重ねてズレないように注意する。
↓
┏━┐
┃┌─┐←カードカウント3
┗│ │ ┌─┐
└─┘ │ │←カードカウント4
└─┘
これが、エルムズレイカウントの仕組みである。
この技法は、普通のトランプでも可能な技法ではある。
しかし、コウヤが求めた、エンボス加工が施された物の方が扱いが容易となる。
その要因となるのが、カード同士の張り付きの軽減。
技法中の動作は、相手からすれば、ただカードを数えているだけの行為。
そんな動作の中で、目の前の者がモタついていたら怪しさしかない。
そう言った状況を軽減する為に、手品師は使うカードを選んで使用している。
ゆえに、コウヤは良い機会だ、とハツカを新しいカードの実験台にしたのだ。
ただし、コウヤが、この技法を使ったのはハツカを相手にした一度目のみ。
二度目の時点では、表向きのカードは、四枚目に置かれた状態となっていた。
この状態で再び同じ手順を辿ると、今度は本当に全てのカードが裏向きになる。
これが、この手品のキモである。
最初に、何をするか分かっていない相手に、技法を使って見せて驚きを与える。
そうなると興味を持った相手は、そのトリックを見つけようと手品師を凝視する。
これが、同じ手品を二度続けてはいけない、と言われる所以である。
しかし、この手品は二度目には技法を全く使わない。
ゆえに、コウヤは一度目はカウントをして見せ、二度目は扇状に広げて見せた。
この手品は、エルムズレイカウントの練習用とも言えるものである。
しかしながら、今回のように多人数を相手にしても見破られない手品でもあった。
このように、二度目に凝視されてもタネがバレる心配が無い手品は優秀である。
相手が何かを察したとしても、その時点で、すでに現象が成立してしまうのだ。
だからこそ相手には驚きが生まれ、手品師はタネを悟らせない。
この手品には、そう言った手品師の現象の発現と秘匿技術が凝縮されていた。
「そろそろ休憩は、お終いで良いだろう。シロウの捜索を再開するぞ」
コウヤは、シレっと、これ以上の追求を反らす。
子猫達は、少し消化不良気味であったが、もう良く分からないので考えるのを止めた。
それはハツカやルネも同じで、まぁ良いか、と頭をシロウ捜索に切り替える。
こうして、やっとシロウ捜索に着手するのであった。
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