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085.王都での入手品

 ◇◇◇◇◇


「あーっ、レッドの水筒の中身が果実水(ジュース)になっているにゃ!」

「えーっ、ズルイにゃ、ズルイにゃ!」

「しまったにゃ、バレたにゃ!」

「ピンク、レッドを捕まえるにゃ!」

「お仕置き、けってーい」

「おまえ達、飲み食いして補給するのは良いが、騒いで魔物を呼び寄せる事はするなよ」

「「「「「アイアイサー」」」」」


 コウヤは、シロウの捜索を始めてすぐに、間食(オヤツタイム)に入った子猫達(ネコレンジャー)に、ため息をついた。

 現在、子猫達(ネコレンジャー)魔空間収納(マジックストレージ)を展開して、次々と歩き食いを始めている。

 そこで食べられている物は、間食(オヤツ)と言ってはいるが、手掴みで食べられる物全般。

 つまり、クッキーのような物もあれば、串焼きの肉や魚もあった。


 王都を出発して間もない頃から、子猫達(ネコレンジャー)は道中で歩き食いをしていた。

 当初コウヤ達は、それは移動時に消費する体力の維持の為だと思っていた。

 しかしながら子猫達(ネコレンジャー)は、最初から、この行程をハイキングだと思っていた。

 それを知ってからは、体調管理をしている、と感心していたのがバカみたいに思えた。


 始めから子猫達(ネコレンジャー)には、ペース配分とか体力の維持とかの考えは無かったのだ。

 とは言え、子猫達(ネコレンジャー)が同行する事でシロウの捜索に着手出来た事も事実。

 ゆえに、食べ物のニオイで魔物を引き寄せるリスクを理解しつつ、折り合いをつける。

 つまり、この時点でコウヤは、子猫達(ネコレンジャー)の手綱を握る事を放棄していた。


「本当にハイキングのつもりで来ていたのですね」

「ここに来るまでの間も、木の実や果物を、いろいろと食べていました」


 子猫達(ネコレンジャー)魔空間収納(マジックストレージ)には、かなりの食料(オヤツ)が入っているようだった。

 その結果、遠足の引率者のような状態でシロウの捜索を(おこな)う。


「それで、王都では何か役に立つ物は得られたのですか?」


 ハツカは、周囲に危険な魔物の接近が無い事を確認しつつ、王都での出来事を訊ねる。

 するとコウヤは、最初に考えていた思惑が外れた事を伝えた。


子猫達(ネコレンジャー)の『凱旋(トライアンフ)』の補充が出来れば良かったんだがダメだった」 

「あの集団帰還の効果があるカードの事ですか?」

「はい、王都で子猫(ケットシー)さん達の武器を作った博士さんに会いました」


 ルネは、カブトと言う名の子猫(ケットシー)の博士に会った事をハツカに伝える。


「あれは、以前に訪れた旅人が作った特別な部品を使って作った物だったらしいです」

「つまり、どう言う事ですか?」

「ハツカの菟糸に似た物で作られた部品がある為、構造を把握しきれていないようだ」

「探していたのはカードですよね? それなのに構造が分からないのですか?」


 ハツカは、何かハッキリとしないコウヤの説明に頭を(かし)げた。


「カードの内部印刷などには、『転移者の宝具(菟糸に似た物)』で作られた精密品が使われている」

「ああ、そう言う事ですか、やっと理解しました」


 再度、含みのある言葉を伝えられ、『転移者の宝具(菟糸に似た物)』の意味に、ようやく辿りつく。

 ハツカは以前に街中で襲撃者を撃退した時、菟糸で壁面に襲撃者の顔を(えが)いて見せた。

 戦闘系のハツカの菟糸でさえ、それだけの事が出来るのである

 話にあった旅人が、生産系の固有能力を持つ転移者であれば、かなりの物が作れる。

 それは、この世界では容易にマネする事が出来ない特別な部品と言えた。


「そう言う訳で、いまある札束(ストレンジデッキ)以外での複製や補充が出来ないらしい」

「それにしても、自分達が理解していない物を使っているなんて、大丈夫ですか?」


 ハツカは、なんて怖い物知らずなのだろう、と思う。

 今回の物は危険な代物ではなかったが、扱いを間違えれば危険な物だってあるだろう。

 ハツカは、カブトと呼ばれる博士の優秀さよりも、その危険性の方が気に掛かった。


「それを言うなら、おれ達の宝具だって同じだ」


 だが、コウヤは、宝具も実態を把握しきれていない物の一つだ、と言う。

 ハツカは、そう言われてしまえば、その通りなのだが……と思う。


 実際ハツカは、その不明瞭な部分で何度も痛い目にあっている。

 逆にコウヤは、宝杖を魔力の増幅器くらいの認識で、深く踏み入っていなかった。

 それは、宝具の性質上の違いによる扱いの差であったのかもしれない。


 しかしながら、そこには両者の性格や思慮の差も見て取れた。

 そして、その指摘を受けたハツカは、子猫(ケットシー)と同じに見られた事に納得がいかない。

 少し不機嫌になったハツカだったが、それはそれ、これはこれ、と考える事にする。


 ともあれ、子猫達(ネコレンジャー)の武装には、そのような物が組み込まれている、と言う事だった。


「とにかく、あれらのカードは、一日に一枚ランダムに補充の機会がある仕組みらしい」

「不便なシステムですね」

「わざとそうしているんだろうな、カードによっては効果が大きい物もあるだろうしな」

「そうですか」


 コウヤはサラリと流したが、この意図した欠陥は、かなりの出来だと考えていた。

 この仕様は、子猫種(ケットシー)の気まぐれを計算に入れた安全装置と言える。

 子猫種(ケットシー)は、面白い物や興味を持った物を前にすると際限が無くなる。


 しかしながら、この札束(ストレンジデッキ)は、その仕様によって、一日に一枚しか補充の機会が無い。

 そうなると、子猫(ケットシー)の興味は、他に移りやすくなる。

 カードは、意図して補充(ドロー)をしないと入手出来なくなっている。

 つまり、札束(ストレンジデッキ)を放置していると、手札が増やせない仕様なのだ。


 この(わずら)わしさが、子猫(ケットシー)から興味を失わせ、放置された要因となる。

 そんな廃棄品を、偶然カブト博士が発掘して改修されたのが、いまの札束(ストレンジデッキ)であった。


「そうなると、コウヤが欲しがっていたトランプも入手は出来なかったのですね?」


 ハツカは、少し嫌味っぽく訊ねる。


「いや、少し違うが、ちゃんと入手出来たぞ。どちらかと言うと和紙に近い物だがな」


 コウヤは、入手したプレイングカードを一つ取り出すとハツカに渡す。

 手渡されたハツカは、少し複雑な心境で、それを受け取った。


 ハツカは、見慣れた数字と模様に少し懐かしさを感じる。

 そして、手に取ったカードの手触りに不思議な感覚を覚えた。


「片面はツルツルしていますが、反対の面はザラザラしていますね」


 ハツカは、このザラついた物が、コウヤが言っていたエンボス加工なのか、と訊ねた。


「まぁ、少し違うが、これのおかげでカード同士の張り付きを抑える効果は見込める」


 そう言うとコウヤは、ハツカに四枚のカードを渡して自分のマネをするように言う。


「手順はこうだ、慌てなくて良いから、ゆっくりマネしてくれ」


 ①、四枚のカードを全て裏向きにした状態で重ねて持つ。

 ②、一番上のカードを引っくり返して、表向きにしてから一番下に持ち直す。

 ③、現在、一番上になっているカードを向きを変えずに、一番下に持ち直す。

 ④、カードの束をまとめて持って、全体の向きを引っくり返す。

 ⑤、現在、一番上になっている表向きのカードを裏面に引っくり返す。

 ⑥、現在、一番下になっている表向きのカードを裏面に引っくり返す。


「ここまで、ちゃんと出来ていれば、このように全てのカードが裏面になる」


 コウヤは、カードを一枚ずつ数えて見せて(カウントして)、全て裏面になっている事を見せる。


「えっ? 一枚だけ数字の面が上になっているカードがありますが?」


 しかし、ハツカの手元のカードには、一枚だけ表面のカードがあった。


「どこかで重なったカードを一緒に引っくり返したんだろう。もう一度やって見せるぞ」


 そう言うとコウヤは、もう一度、いまの動作をやって見せる、と言った。


「あー、何をやっているにゃ!」

「新しい遊びかにゃ?」

「ズルイにゃ、ズルイにゃ!」

「一緒に遊ぶにゃ!」

「それを寄こすにゃ! 答えは聞いてにゃーい!」

「二人とも、何をしていたのですか?」


 コウヤが二度目の実演をしようとした所で、それに興味を持った子猫達(ネコレンジャー)が乱入してきた。

 そしてルネも、その騒ぎに気づいて興味を持った。


「なら、一人四枚のカードを持って、おれのマネをしてくれ」


 こうして、コウヤが二度目の実演を始める。

 その結果──


「なんで全部、裏にならないにゃ?」

「私も、今度こそ、ちゃんとやっていたのですが……」

「そうですね、なぜ、コウヤさんのカードだけが、全部裏になっているのでしょう?」

「カードの扱いは簡単そうに見えてミスしやすい。道具に(こだわ)った理由は、これだ」


 そう言ってコウヤは、自身のカードを扇状(ファン)に広げて見せた。

 そこには、最初と同じで、全て裏面となった四枚のカードがあった。


 見間違いが無い事を確認して、子猫達(ネコレンジャー)は、もう一度、と試し始める。

 コウヤは、仕方がないな、と言いながら、再度、手順を口で説明した。

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