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067.夜営地を求めて

「おい、いまのはなんだ!」

「ハツカさん、何があったんです?」


 さすがに、あれだけ派手な爆発が起きると、コウヤ達も様子を(うかが)いに戻って来た。

 ハツカは、アニィの魔法と黒爪狼(ブラッククロー)の逃走の経緯を()(つま)んで説明する。

 話を聞いたコウヤは、その魔法に興味を持っていたが、さすがにいまは自重していた。


「それで、そちらの収穫はどうですか?」


 ハツカはルネ達に、百二足(ヒャクニ)を調べた成果を訊ねる。


「私の方は、百二足の毒腺(どくせん)の採取が出来ました。これで対応した解毒薬を作れます」

「おれの方は、シロウと関わった形跡は見当たらなかった」


 ただ、コウヤは、それがイコールで無関係とならないのが難点だ、と続けた。

 直接の接触は無くとも、シロウが百二足を発見して、移動経路を変えた可能性もある。

 そうした事も考えると、ここに百二足がいた事を簡単に切り捨てる事が出来なかった。

 少なくとも崖からの落下直後に、シロウが百二足と接触した可能性は高い。

 そうなると、やはり百二足を追うのが、シロウの発見に一番近い手段ではあった。


「ひとまず、次の百二足を捜すか」


 コウヤが言うように、結局は、それしか方法がなかった。

 再び百二足を捕捉しながらシロウの捜索を続ける。

 対してネコレンジャーは、逃走した黒爪狼を追い掛ける、と言って別行動を取った。


 そうして陽が傾くまで続けた捜索だったか、結局の所、シロウは見つからなかった。

 ルネは、もう少し探しましょう、と言いだしたが、それをコウヤが却下する。


 それは、本来は夜行性の魔物である百二足達が活発になる時間帯に入る事。

 なにより、取り逃した黒爪狼の動向が掴めていない事を、コウヤは理由に挙げた。


「危険な魔物に囲まれているような状況だ。安全に夜営をする為の準備が要る」

「それなら、何も荷物を持っていないシロさんの方が危険って事じゃないですか」

「ルネ……」


 シロウの捜索の切り上に納得がいかないルネが、かたくなになってコウヤに言う。

 その光景にハツカは、思わず、ため息をついた。


 すでに何度か繰り返されている、このようなやりとり。

 シロウの事が気がかりなのは分かるが、ヘトヘトになっている自身を(かえり)みて欲しい、と。


 前日からの行程とシロウの捜索の為に歩き回ったルネの体力は、限界に達していた。

 それをルネが口に出さないのは、認めてしまうと動けなくなる事が分かっているから。


「ただ、このままだと、おれの体力と魔力が持たない」

「スヤァ~(あせ)」


 逆にコウヤが、アニィを背負いながら虚弱(きょじゃく)っぷりを吐露とろする。

 そして、捜索の為に展開していた熱探知の魔力も尽き掛けている、と(うった)えた。

 

「では、私が代わりにアニィを背負いましょう」


 ハツカは、仕方がありませんね、と、お休み中のアニィを引き継いで背負い直す。

 スヤァ~、と返された事で、タヌキ寝入りな事は全員が分かっていた。

 しかし、ハツカは、あえてスルーして、その役割を引き受けた。


 この中で唯一、いまでも足元がしっかりしているハツカ。

 ゆえに、この役割を(にな)おう、と言うのは正しい判断だっただろう。

 それはシロウ(いわ)く、ムッツリネコスキーのハツカにとっても利がある行為。

 しかし、コウヤは、そうじゃないだろ、と目でハツカに(うった)え掛けた。


 確かにコウヤは、ハツカに比べれば体力面で劣った。

 しかし、コウヤもハツカ同様に転移者である。

 その身体は、運命の女神からの恩恵によって、優遇された身体強化を得ていた。


 つまり、コウヤが言う体力の消耗が、ルネと同じであるはずがなかった。

 コウヤは、アニィとの触れ合いに目が(くら)んだハツカに迷惑する。

 これはあくまで、ルネを説得する為の方便(ほうべん)の一つなのだ、と。


 こう言う時、半端に身体強化で体力の消耗を軽減されているハツカは困る。

 コウヤは、()むを得ず 改めて現状の問題を指摘した。

 

「このままだと視界も戦力も不十分な状態で、彷徨(さまよ)いかねないぞ?」


 コウヤは、余力が無い状態でのリスクを指摘して、ルネ達に冷静になるように(うなが)す。

 と同時に、ハツカにルネを休ませる口実を暗に(しめ)した。

 いま精神的にも肉体的にも一番問題を抱えているのは、ルネなのだ、と。

 

「ルネの言う事も分かるが、だからこそシロウも安全確保の為に夜営地を探すはずだ」

「シロさんもですか?」


 コウヤが、シロウも同じ考えだろう、と言うと、やっとルネが話に耳を傾ける。


「そうだ、シロウも早々に夜を越す為に動いているはずだ」

「つまり安全地帯の確保と同時に、シロウに発見してもらおう、と言う考えですか?」

「あわよくば、な」


 そして、同じ考えに(いた)っていれば、辿り着く先が重なる可能性もある、と説得する。


「……分かりました。そうしましょう」


 ハツカがコウヤの意図を汲み取って後押しをした事で、ようやくルネが折れる。

 こうしてコウヤ達は、しばらくして発見した洞穴(ほらあな)を、その日の夜営地とする事とした。


 ◇◇◇◇◇


 陽が落ちて間もない夜営地の洞穴(ほらあな)

 その中で、焚き火の中から弾けた火の粉が、パチッ、パチッ、と音を立てて響く。

 洞穴と言う環境下で、ほのかに反響するその音を、ハツカは心地良く感じている。


 ただ、周囲が静かなだけに、時折、大きな音となって返って来ていた。

 それが、疲れきって眠ているルネを起こさないかと思いながら、ハツカは外を眺める。


 雲に隠れて月が出ていない為、視野に入ってくる物は少ない。

 その代わりと言ってはなんだが、見たくもない物は、いろいろと()えていた。


「また、家主達が戻って来たようですね」


 ハツカの菟糸の自動防御が働いて、接近して来た魔物を仕留める。

 いま相手にしているのは、岩鼠(ロックチャック)

 穴掘りを得意とする比較的小型なリスの魔物。


 その生態は昼行性で、朝早くと午後遅くに、その活動が活発になる。

 通常は、三、四ヶ所の出入り口がある巣穴を堀り、少数の群れを形成して行動する。

 そして、いまハツカ達が陣取っている洞穴こそ、彼ら岩鼠の巣穴だった。

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