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057.シリィ

「くそっ、落ちやがれっ!」


 猫鳥に唯一対抗出来る武器を持つリーレが、夜空にクロスボウの矢を射掛ける。

 しかしそれも、初撃を命中させて以降、射程距離を見極められて(くう)を射るのみ。

 そのリーレは、夜空の王に危険分子として目を付けられ、襲撃対象に入る。


「リーレ、もう良い。撤退するぞ」


 ザムザは、シーラに貸していた肩を離し、先に近くの森林へと駆けさせた。

 あれだけの巨体であれば、多少奥へと入り込めば周囲の木々が防壁となってくれる。

 そしてクロスボウを使って見せていないシーラなら、猫鳥への牽制の一撃が放てる。

 そう考えたザムザは、リーレを引き戻し、殿(しんがり)に出た。


 しかし、その判断が誤りだった。


胴捌きの太刀(ヴォーパルブレード)


 ザムザは、リーレを後方に逃すと同時に猫鳥に剣を振り上げた。

 自身の闘気を剣に纏わせ、その形状と共に間合いと威力を強化するザムザの戦技。

 警戒心が強い猫鳥の制空権を、倍にまで伸ばした闘気の刀身をもって突破する。

 ザムザは、すれ違うまでの刹那に三連撃を叩き込み、猫鳥の胴体を斬り刻む。


 二度は通用しないであろう攻撃が通った事で、猫鳥の警戒心は強まっただろう。

 敵愾心(てきがいしん)が自分に向けば、その分、姉妹を逃がす時間が稼げる。

 そう踏んでいたザムザの思惑は、猫鳥の思いがけない抵抗により崩れる。


 猫鳥は、奇声と共にフラフラと飛翔を続けながら撃墜される。

 しかし、その抵抗により軌道が背後に逃したリーレと重なった。

 それは偶然か、はたまた猫鳥の意趣(いしゅ)返しだったのか……。

 猫鳥はリーレを巻き込みながら墜落し、その背中を爪で深々と貫いた。


「リーレ!」


 目の前に滑り込むように飛び込んで来た猫鳥とリーレ。

 その姿に絶叫したシーラが、思わず駆け寄る。


「シーラ、近寄るなっ!」


 ザムザの言葉よりも先に起き上がった猫鳥が、翼を広げ羽ばたき、上空へ急浮上する。

 慌てるように舞い上がった猫鳥が起こした突風。

 それが、先程の戦闘による負傷で地に足が着いていない状態のシーラを吹き飛ばした。


 宙空を漂うシーラが、まるで紙のように舞ったかのようにザムザに映る。

 そして、激しく地面に頭を打ちつけて落下したシーラは動かなくなった。

 ザムザは慌てて駆け寄り、後頭部に手を回して上体を起こさせる。


 何度も名前を呼び、意識を引き戻そうとするも微動だにしない。

 そして頭部を支えていた手が、真っ赤な血で染まっている事に気づいた。


 否応なしに現実が突きつけられる。


 ザムザの腕の中にはシーラ。目の前の大地にはリーレが()している。

 それはザムザが経験する二度目の全滅。

 だが何よりも姉妹を失った事が、ザムザに大きな虚無感を与えた。


 ザムザの頭上では、猫鳥が、ゆっくりと旋回している。


 ザムザには、何が悪かったのかが分からない。

 なぜ、このような事になってしまったのだろう。

 そう自問ししていると、以前に砦で誰かが言っていた言葉が脳裏を()ぎった。


『ケットシーに関わると、ロクな事が無い』


 実にシンプルで納得がいく答えに思えた。

 ザムザはシーラを抱え、リーレの下に(おもむ)くと、最後の時を共に待つ。

 そして二人の手を取って悟る。


「人の死とは、なんとも呆気ないものだな……」


 ザムザは目を閉じ、身に迫る猫鳥の殺気を感じながら、心静かに時を待つ。


 ──が、


『ミラクルシューティング!』


【ズドォーン!】


 眩い閃光と轟音に、意識が現実に引き戻された。


 見開いたザムザの目に、閃光によって照らし出された猫鳥の姿が映り込む。

 その猫鳥の身体は信じられない事に、謎の閃光によって貫かれていた。

 一見しただけで、それが即死だと判断が出来てしまえる状態。

 猫鳥の撃墜と同時に、周囲に暗闇と静寂が訪れる。

 ザムザは、何が起きたか理解が追いつかない。


 そんな中、猫鳥の下に何者かが集まって来た。

 闇夜の中、明かりもつけずに集まって来た気配は、計五つ。

 閃光後の闇夜に目が慣れ、視認が追いついた時、目の前に五色のケットシーがいた。


「やったぁ! 仕留めたにゃ」

「グリーンのオーデーンスピアのマーキング(ダシ)の効果が切れて見失った時は焦ったにゃ」

「ごめん、ごめんにゃ」

「これで、お空を飛べる、このイエローが空のチャンピオンにゃ」

「おお、おめ~」


 あまりにも温度差が違うケットシーに、ザムザの思考が飛ぶ。

 ザムザは、真っ白となった頭をなんとか再起動して言葉を(ひね)り出した。


「オマエ達は何者だ?」


 そのシンプルな疑問が、いまのザムザが最も求めたものだった。


「あっ、人間にゃ!」

「ここって、もう人間が出没する場所だったのかにゃ」

「聞かれたからには答えてあげるのが世の情けなのにゃ」

「じゃあ、やっちゃう?」

「けってーい!」


 円陣を組んでヒソヒソと相談し始めた五匹のケットシーは、一つの結論を導き出す。

 そしてザムザの目の前で、次々と猫鳥の亡骸(なきがら)の上に飛び乗った。


(シュタッ!)「ネコレッド!」

(シュタッ!)「ネコブルー!」

(シュタッ!)「ネコグリーン!」

(シュタッ!)「ネコイエロー!」

(シュタッ!)「ネコピンク!」


「「「「「五人そろって──」」」」」


『ポイポイ戦隊・ネコレンジャー』


 五匹のケットシーが各々にポーズを決めた。


 が、ザムザには意味が分からない。

 ただただ、訳が分からないものを見せ付けられた、と言う事だけは理解した。


「オマエ、反応が悪いにゃ!」

「面白くないヤツにゃ」

「もう飽きたにゃ。帰るにゃ」

「お腹すいたにゃ」

「フクロウが鳴くから、か~えろ」


 ネコレンジャーとやらは、みんなで猫鳥を持ち上げた。


「あれっ、そう言えば、何か忘れているような?」

「そうだったかにゃ? 『凱旋(トライアンフ)』」

「なんかあったかにゃ?」

「う~ん、なんだろう?」

「あっ、アニィ王女を探してる途中だったにゃ!」


「「「「あっ!」」」」」


 そして謎のカードを使用したかと思うと、次の瞬間には、その姿を消した。


「なんだったのだ、アイツらは……」


 一人取り残されたザムザの頭は混乱の一途だった。

 そんな中、生き残ったと言う事実を受け入れ始めたザムザは、姉妹の埋葬に掛かる。

 そして少しずつ耳にした情報を整理するにしたがって、ザムザの中で変化が生じた。


 ネコレンジャーは、猫鳥を見失った、と言っていた。

 それは、ザムザ達が遭遇する前に猫鳥とネコレンジャーが交戦していた事を意味する。


 言い換えれば、ネコレンジャーが猫鳥を取り逃していなければ結果は違った。

 そう、姉妹の死とは、あのネコレンジャーのとばっちりを受けてのものと言える。

 そのような考え行き着いた時、ザムザの中の虚無感が激しい(いきどお)りに変化していた。


 あの者達が、余計な事をしていなければ……

 あの者達が、猫鳥を仕留めていれば……

 あの者達が、この場に猫鳥を導いた……

 あの者達が、共に死を迎える事も叶わせなかった……


 次第にザムザの中でネコレンジャーへの憎悪が増していく。

 そして姉妹の埋葬を終え、薄っすらとした朝焼けを目に留めて立ち尽くした。

 ゆるやかな風に混じり、不意に突風が吹いた。

 そしてその風は、どこからともなく黒い仮面をザムザの足下へと運んで来た。


「エディのものだな」


 拾い上げた見覚えのある黒仮面にエディのケットシーに対する憤りを思い出す。

 ザムザも、いまならボスやエディが身を焦がすほどに憎悪していた感情が理解出来た。


 ザムザは拾い上げた黒仮面を身につける。


「……」(コーホーコーホー)


 黒仮面を通して抜ける息吹が、独特の風切り音を響かせる。


「良いだろう。オマエの分もオレがケットシーを葬ってやろう」(コーホーコーホー)


 それは完全に逆恨みであった。

 しかしそれは、いまのザムザを支え、生に引き留めている原動力でもあった。

 ゆえに、以降ザムザは、自身を『シリィ』と名乗る。

 その名は、シーラとリーレ、そしてエディの名から引き継いだもの。

 と同時に『(おろ)か』を意味する言葉でもあった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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