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054.転移者達のジレンマ

 シロウは、ザムザが集団を上手く統率してくれる事を祈りつつ、剣虎と対峙する。

 現状では、ハツカ達が一匹、シロウが一匹、ザムザ達が一匹の剣虎と対峙していた。

 ハツカ達に関しては、ハツカの拘束力とコウヤの火力がある。

 戦闘という点においては、この二人は、ものすごく相性が良い。

 そこにルネの発火薬による牽制があれば、十分に戦えるだろう。


 対してザムザ達は、人数こそ多いが半壊状態。

 三人組の三班に分散していた所を、シロウ達と剣虎によって、ことごとく潰された後。

 現状で、まともに動けているのはザムザを含めて四人。

 ハツカが昏倒させた者が復帰さえすれば、十分に撃退が出来るだろう。

 しかし、先ほどのように、こちらへの敵意が向けられたなら厄介極まりない。

 基本的には、剣虎を分散させる為の存在としてしか計算に入れない方が良いだろう。


 シロウは剣虎の注意を引きながら、ハツカ達が一匹仕留めるまでの時間を稼ぐ。

 この状況を単純に見たならば、シロウ達の負担が大きい。

 しかし、シロウが三匹目の剣虎を抑えている事は、ザムザ達への牽制にもなっていた。


 シロウは、ザムザ達が不用意な裏切りを見せたなら、剣虎を解放するつもりでいる。

 しかもそれはザムザ達にではなく、彼が救助しようとしている女性に対してのもの。

 そう言った意味が伝わる位置で、シロウは剣虎を相手に攻防を続けていた。


 その意味を理解しているザムザは、貴重な戦力である狙撃手(リーレ)女性(シーラ)(そば)に付けた。

 双子の狙撃手は、決して姉妹を見捨てはしない。

 対して、ケットシー憎しの感情を持つ者達は、害獣駆除に専念させた。

 自身の身の危機を感じている間は、下手な行動は起こせないだろう。

 いま下手にケットシーへの憎悪から行動を起こされては、全滅の危険が高い。

 そう判断した根底には、シーラを失いたくない、と言う想いが強く反映されている。


 ザムザが集団の統制とシーラの救助に動く中、シロウは剣虎を押さえる事に苦心する。


「コイツ、意外と小回りが利きやがる」


 その要因となっていたのは、ジャガランテとは違うスミロドンの反応速度。

 単純な突進速度ならジャガランテと大差はないのだが、反転速度が異様に速い。

 それは、アンバランスに見えた後肢を使った小刻みに地を蹴る方向転換によるもの。


 傍目(はため)で見ていたなら滑稽(こっけい)で済むのだが、命のやり取りの場では笑えない。

 調子に乗ってきた剣虎の速度は、徐々に加速していく。

 そこにリズミカルかつ変則的な旋回が混じると、タイミングが途方も無く取りづらい。


 シロウの戦い方は、基本的に重い一撃入れて仕留めるスタイル。

 一撃で仕留められなくとも、一発入れてしまえば対象の動きを確実に鈍らせられる。

 その自負があったからこそ、剣虎を一匹引き受けていた。


 それを可能とした根拠は、転移者に反映されている身体強化にある。


 シロウは、コウヤやイサオよりも身体強化の倍率が高い。

 その条件と思えるものの一つが魔法適正。

 全く魔法が使えないシロウの身体強化は、魔法特化のコウヤを遥かに上回る。

 対して半端に生活魔法が使えるハツカとイサオには、大した差が無い。


 それはコウヤの祝勝会の場で、トムが自慢げに見せたクルミ割りによって判明する。


 トムは、コウヤが持っていたクルミを片手で割って見せていた、

 そして、その握力自慢の比較としてイサオにも挑戦させた。


 いままで試した事がないイサオは、ぎこちなくだがトムに続いてクルミ割りに成功する。

 その様子にトムは、イサオを賞賛しつつも自分のスゴさをアピールしていた。

 ところが、その近くでクルミの殻が砕ける音が響いた。


 トム達の視線がコウヤに集まる。しかし、手の中のクルミにはヒビ一つ無かった。

 次に視線が集まったのは、同じくマネをしてクルミをいじっていたハツカの手。

 何気なく意識をクルミに向けて握っていたハツカ。

 ゆえに、開いた手の中で、砕けたクルミの姿を確認して、驚愕の表情を浮かべた。


 この事によりトムの立場が、かなり微妙なものとなり、ハツカは怪力の(迷惑な)名誉を得る。

 互いにロクでもない状況となったが、そこは問題ではない。


 イサオ達は、これが転移者に起こっている身体強化の差だと認識した。

 そしてその傾向から、全員が大雑把ではあるが、身体強化の傾向を把握した。

 そこには個人が所有する固有能力も影響してくるであろう。

 しかし、男女の差はあれ、類似傾向があるイサオとハツカによる比較。

 そして魔法特化のコウヤとの比較が成された事で、全員が同じ結論に行き着いていた。


 魔法特性が強い者は、魔法強化の倍率が上がる。

 魔法特性が弱い者は、身体強化の倍率が上がる。


 ゆえに、テーブル下でクルミの殻を出すタイミングを計っていたシロウは無視された。

 生活魔法すら使えず、馬鹿力一辺倒な戦闘スタイルは、すでにバレていた為に……


 シロウは、心の中で涙したエピソードを胸に秘め、その悲しみを拳に乗せて今日は打つ。


 しかし剣虎クラスとなると、その戦い方に、かなり無理があった。

 素早い動きで直撃を避けられ、毛皮と発達した上体の筋力により打撃が吸収される。


 剣虎の飛込みによる噛み付きから、後肢の小刻みなステップによる反転。

 そこから突進と噛み付き、そして爪撃が混じったヒットアンドウェイの嵐が襲う。


 次第に剣虎のフェイントステップにも翻弄(ほんろう)され、防御の頻度も上がる。

 それは、剣虎が獲物の弱り具合を観察しているかのようにも見え始めた。


「と言うかコイツら、俺達で遊んでやがるな」


 シロウは、視界の隅に映るハツカ達の戦況を把握しながら舌打ちする。


 当初の目論見では、ハツカの拘束からコウヤの炎で、早々に一匹討伐する計算だった。

 しかしフタを開けてみれば、剣虎はハツカの拘束を破壊して脱出した。


 シロウは、剣虎が宝鎖の拘束から逃れる状況を想定していなかった。

 その為、コウヤも素早く変則的な動きも見せる剣虎を仕留められずにいる。

 そしてハツカは、宝鎖を力ずくで砕かれ、顔面を蒼白にして胸を押さえてうずくまる。

 その、いままで見せた事がないハツカの急変に、シロウ達に動揺が走った。

 ハツカの燕麦による防御は健在だが、この事でコウヤの動きに変化が生じる。


 この時ハツカは、自動操鎖では剣虎の力にも動きにも対応が出来ないと判断した。

 そこで菟糸を自動操鎖から自己操鎖に切り替える。

 これにより、菟糸が以前の性能に近い精密性と拘束力を取り戻す。


 ハツカは、これまでの過程で、試行錯誤の末に自身の能力を検証していた。

 それにより、宝鎖・菟糸と宝衣・燕麦を自在に操る事に成功している。

 しかし通常時は、能力の制御を、どちらも無意識に均等に割り振っていた。

 それは、ロウ達との戦闘時に証明したように、対人戦においては十分に機能した。

 しかし、シロウとの対戦時と比べると、その性能は半減している。


 現状の宝鎖と宝衣の同時使用とは、確かに汎用性を向上させた。

 しかし、それはどちらにも能力領域(リソース)が、分散されている事を意味する。

 その為、強敵を前にした場合、今回のように力負けしてしまう。

 そして、この事が宝具が破壊された時、ダメージが自身に反映される事を実証した。


 ハツカにとって(さいわ)いだったのは、菟糸燕麦を同時展開していた事。

 その為、宝具からのダメージの逆流(リバウンド)が拡散された。


 宝具は、運命の女神様によって認識が可能となった自身の写し身。

 ゆえに宝具の展開や固有能力とは、自身の身の在り方の具現化。

 自分の存在を強く持っている者の宝具は、そうそう破壊などされない。

 それが破壊されるような事があれば、致命傷と言えるだろう。


 今回のハツカの場合、菟糸燕麦を併用運用がしていた点が、良くも悪くも左右した。

 これが同時破壊だった場合は、致命傷と成りかねなかった。


 ハツカは剣虎に対し、菟糸の能力領域(リソース)を七割に拡張する。

 これにより、余裕をもって破壊を抑制する事に成功した。

 そして転移者の宝具は、余程の無茶をしない限り、破壊されない事を理解した。

 ただし、複数の宝具を展開する場合、能力領域(リソース)分配による危険度が発生する、と。


 ハツカは剣虎と交戦を通して、六割程の能力領域(リソース)があれば十分、と感じる。

 しかし、ここは慎重に行動していた。

 いざ接近された場合、今度は燕麦に能力領域(リソース)を振らなければならない。

 その時になって、燕麦を貫通されたのでは目に余る。


「本当に、役立たずの名にふさわしい、わずらわしい能力です」


 ハツカは身をもって知った問題点に気が荒れる。

 そして、剣虎に菟糸を自動操鎖でぶつける事を完全に放棄した。

 半端な状態で剣虎に仕掛けた場合、逆流して来たダメージで身を滅ぼす事は明確。

 ゆえに、ハツカは自己操鎖による拘束を狙って集中しようとしていた。


 そのハツカの目論見と攻勢は、半分は正解であったが、逆に剣虎に余裕を生ませた。

 複数の宝鎖による多角的な攻撃と、一本化された攻撃。

 剣虎が、破壊可能だった宝鎖の強化に警戒心を抱いたのは一時に過ぎなかった。

 むしろ複雑な動きが廃され事で、軽快さが増す。


 また、本来はハツカが防御を担当し、コウヤが攻撃を担当するはずだった。

 しかしハツカが自身のダメージを自覚し、攻勢に傾向した事でコウヤの動きが変わる。


 コウヤは炎壁(ファイアウォール)を張り、防御のフォローに回らざるを得なくなった。

 それは剣虎を仕留められる火力を失う事を意味する。


「ハツカ、落ち着け」

「これでは、いつまで経ってもシロさんに加勢に行けません」


 この時点で、ハツカは頭に血が上っている。コウヤとルネの声は届かなくなっていた。

 こうして変化する状況の中でハツカ達の動きが狂い、ジリ貧となっていった。


 その様子をシロウは外から見て、ハツカ達も剣虎に遊ばれている、と感じ取る。

 シロウにしろルネ達にしろ、互いに剣虎を倒して加勢に回りたいと思っている。

 しかしそこには、ハツカの身に起きた事象や危機感が共有されていない。

 ゆえにシロウ達には、ハツカから伝播(でんぱ)されてくる焦燥感のみが蓄積されていった。


 それが単身で交戦していたシロウの気を()らし、隙を生む。


 一瞬、ハツカに視線が奪われた所に剣虎の大牙が迫る。

 シロウが気づいた時には、長大な犬歯の間合いに捉えられ、左袖が持っていかれる。

 そして、そのまま地面に倒され組み敷かれてしまった。

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