表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/285

049.依頼者

 ◇◇◇◇◇


 襲撃者達は、シロウ達に窪地に飛び込まれて一時的に視界から逃してしまう。

 そこに照明弾の効果切れによる、闇の襲来が重なり、彼らは完全に見失った。

 しかしその直後、かすかに闇に浮かび、三手に分かれる薄明かりを発見する。

 ランタンを覆った薄布越しに光が漏れている。

 そう認識した襲撃者達の頭目(リーダー)は、単に逃走している訳ではない点に注目した。

 ()の冒険者達には、少なくとも、まだ戦う意思がある。

 あの薄明かりは、明かりを隠そうとする意思の表れ。

 三手に分かれた事から、守るのではなく、逃がそうとする意図も読み取れる。

 だがどちらにせよ標的達が、こちらの戦力を分散させたい、と言う意図が見える。

 そして一度に三人までなら倒せる、と言う自惚(うぬぼ)れが見て取れた。


 事前に入手していた情報によれば、武術大会のシニアマジック優勝者の炎術師(パイロマンサー)が一人。

 他の三人はアイアンランクの冒険者達で、男が一人と女が二人。

 そのうちの鎖使いの女が、追跡しているケットシーを(とら)えたと言う話だった。


 頭目は、いま一度、この仕事を受けた時の状況を思い出す。


 ◇◇◇◇◇


「ザムザ、アイアンランクが捕らえられるケットシーなら、見せしめに殺してしまえ!」


 襲撃者達を放った雇い主は、いわゆる土木関連の派遣屋だった。

 その男は、頭目(ザムザ)と二人きりの時に本音を暴露(ばくろ)していた。


 男は、以前に破壊された砦の崩落時に息子を亡くしている。

 その男の息子とは、国境警備隊の者ではない。

 ただ、砦の補強工事に必要な人員の打ち合わせの後、少々長居をしていただけだった。

 そこにアニィ王女の気まぐれの一撃が放たれ、理不尽な猫災に巻き込まれたのである。


 それに対する王国の対応は、ただ下手に出て自国に追い返すのみ。


 その結末を知った男は、激しい(いきどお)りに身を焼いた。

 息子の死を軽んじ、他国の犯罪者を野放しにするのか、と。

 しかし、当時の男には、王国に物が言えるだけの力は無かった。


 何も出来ずに、ただ泣き寝入りをするしかなかった男だったが、彼の行動は速かった。


 その身に宿った憤りを胸に秘め、急務とされた砦の復旧工事を受注する。

 それは見切り発車の行動であった。

 受注後も男は多方面に走り、人員の確保に奔走(ほんそう)する。


 男にあったのは、息子が最後に取ってきた仕事を引き継ぐ、と言う強い想い。

 砦の再建と言う大仕事に群がる有象無象。

 男は、それらに入り込む隙を与えずに、この仕事を勝ち取る。


 本来ならば、誰も手を出そうとしなかった安価な仕事が、きっかけだった。

 だが、いまさらながら、息子の仕事を他の者に()っさらわせる気など男にはない。

 

 男は信念と執念、そして息子への愛情を入り混ぜながら、日々を駆け抜ける。

 その時間が、男を大きく成長させ、財を膨らませた。


 男は、息子の墓標とも言える砦の再建に尽力する。

 日に日に姿を取り戻していく砦を、息子の成長を眺めるように()でる。

 そうして悲しみは()りをひそめ、日々の生活に喜びと感謝を取り戻していった。


 ──が、それも今朝までの事だった。


 いつものように砦に人足(にんそく)の把握の為に顔を出した際、警備隊の者達の小声が耳に入る。

 それは昨晩、街中に侵入し、その後、逃亡した六匹のケットシーの話。

 そして、そのうち一匹が再び姿を現した、と言う内容のものであった。

 しかも今回は、二度に渡る侵入の事実をも隠蔽して、秘密裏に(息子)を通して帰すと言う。

 男は、どこまでも(息子)(ないがし)ろにする王国とケットシーに、再び激しい憤りをたぎらせた。


 この男がしている仕事とは、工事などに必要とされる人員を集めるて提供する事。

 男自身は、腕がよい職人でも、商才に()けた商人でも、武術に優れた武人でもない。

 ただ、求められれば、いつでも徒党を組んだ余剰労働力の提供を可能としているだけ。

 冒険者ギルドとは違った共同体(コミュニティ)を持ったその男とは、いわゆる土建屋(ヤクザ)

 冒険者を含む人材派遣による賃金のピンハネを生業(なりわい)とした組織を束ねる存在(ボス)であった。

 

 ボスは、屋敷にザムザを始めとする戦闘巧者達を召集して指示を下す。

 街中までケットシーの侵入を許した国境警備隊を始めとした王国軍は信用に値しない。

 我々の手によって街を守るべく、その力を示せ、と。


 事前にボスと面会して腹の内を聞かされていたザムザは、これが建前だと知っている。

 ボスは、ただケットシーを憎んでいるだけである。

 その結果、街や王国がどうなろうと知った事ではない。


 ただ、それはボスだけに限った事ではなかった。

 この場にいる者の大半が、先の一件により何かしらを失った者達。

 その者達にとってボスの言葉とは、ケットシーに対する報復許可でしかない。

 ボスの言葉とは、残りの者達に向けられた、使命感と正義感でそそのかす殺害教唆(きょうさ)


 ボスは目を明暗に輝かせる二種類の召集者達に事の詳細を伝える。

 しかし、開示された情報を得て、第三の視点に立つ二人の人物が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ